■酔い対策は「視線誘導」と「興奮」、そして「なりきり」
――そんな感じだったんですね!先ほどVR酔いの話が出てきたと思いますが、実際自分もVRモードをプレイしていて酔うことは無かったのですけれど、1時間近くプレイしていて目などに負担が溜まり目が回りそうになった事がありました。それらの疲れや負担を減らす施策というのはどういうことをやられたのでしょうか?
夛湖氏 実際私一人がやったというよりかは、この2人からヒントを貰ったんですよね、玉置と山本が『サマーレッスン』に携わっていたので。私も過去にVRをやっていた部門の出身ではあるのですが、当時のVRは15フレームで動くようなデバイスだったので、酔いはそもそも解消が不可能みたいなところがあって……。「仕方が無い、人を選ぶゲームだね」みたいな知見しか得られませんでした。
その後のP.O.D.筐体で『機動戦士ガンダム 戦場の絆』をやって、広い画面に対して人間のベクション(視覚誘導性自己運動感覚、止まっている人間が映像など視覚情報で動いているように錯覚すること)、の知見を得ていました。
そして、そういったのとは別に、最新のVRに関しての知見は、玉置と山本の2人が持っていて、その中でキーワードとして今でも覚えているのは「視線を誘導する」です。私が関わっていたゲームですと「意識を誘導する」というものでした。
VRに限らずPOD筐体でもそうなのですが、漫然と映像全体を見ると、ベクションで意識が揺らされちゃうんですよね。

特にフラットモニターでゲームを見ている人は、ゲームになればなるほど、どこから敵が出てきてもいいように、画面全体を見ていることが多いんですよね。これは視界を広く持って、画面の端に敵が入った瞬間に行動に移れるようにするためです。しかし、同じようにVRで全視界をみようとすると、ベクションで揺らされてしまうので酔いが発生してしまいます。VRとして最も理想的なのは、大きな視界あるけれど、意識としては1点に集中してくれるのが望ましい。
これを2人からは「視線を誘導して何かに意識をつれていくんですよ」というような形で、色々な情報を聞いていました。、そこで「ああ、今も昔も考えることは変わらないんだな」という結論に至りまして、VRモードはその点に終始して対策すれば、良い対策として勝てるなと発見しました。
もう一つの知見として、私が(VR開発に)入った時には、基本的なVR自体は出来上がっていて、PS VRをかぶってみたら、そこにはコックピットがあったんですよね。『戦場の絆』でガンダムを作っていたときの知見で、コックピットのフレームというプレイヤーにとって絶対的に安定している基準を1つ作った上で、それが画面のだいたい4割位、残りの6割くらいが背景という、自分に紐付いた絶対的な何かを配置した上でそれ以外を背景要素とすると酔いにくくなるというものがあります。
例えば「未来の宇宙船!」みたいな形で、視界全面が開けた画面を動かすと酔いやすいですが、それがコックピットを描いて視界の一部を覆うとと酔いにくくなるのです。VRモードではそういう形の設計を元々持っていたので、「これを調整して、知見の先に行き着くようにゲームを作っていけば、もう勝ったも同然だ!」と思っていました。
今までの説明は「視線誘導」です。残りは「興奮」、そして「なりきり」ですね。最初に出来上がっていたものは、PSX向けに作られた空母アルバトロスから発艦するミッションでした。空母のエレベーターから上がってきた瞬間から、気分が盛り上がってくるんですよね。「うおおおおお!やるぞー!!俺はパイロットなんだー!」という(笑)。こういう「興奮」と「なりきり」は、は酔いを軽減させるんですよね。

「なりきり」と「興奮」は、その世界への没入感を高めていきます。没入感が高まることで、今度はプレイヤーがVR世界を理屈づけていきます。例えば「機体を動かしたら傾く」とか「攻撃を食らったら振動する」みたいなところに納得がいくという感じです。心の壁が取れる、とも、その世界の住人となってしまうとも言い換えられると思います。
そうした時に酔いは軽減されます。これらは、私が『戦場の絆』を作っているときに、お客様を観察した結果なのですが、あれはスクリーンが大きく酔いやすい筐体だったのですが、なりきれないと途端に酔ってしまいます。が「俺は連邦軍のパイロットだー!」と心底なりきって興奮しているお客様は全然酔わないんですよね。
VRモードでは、この3つのフィルターを通してまずアイデアを考え、チームメンバーやテストプレイした方からのアイデアの採用/不採用をディレクションしていきました。例えば、先のメビウス1に関して私の見方はちょっと違っていまして、周りが「メビウス1をやってみたいんですけど……?」というのに対して、「メビウス1になれるのって興奮するよね!よし採用!!」という判断でした。
他にもアートディレクターの菅野昌人が絵コンテを描いてくれたVRミッション2の冒頭デモシーンなどもこういった「視線(意識)誘導」「興奮」と「なりきり」としてはかなり努力したところです。絵コンテは非常に面白かったのですが、これをその通り作ってしまうと、意識の誘導や興奮が維持できずに酔ってしまうので「数秒に1回必ずイベントを起こす」という感じでコンテの要素を整理し直しまして、必ず何かに「意識を誘導する」ことをやっていました。
そんななかでも、玉置からも色々とこだわった無茶を言われたこともありました(笑)でもそれも先ほど触れた3つのフィルターでみれば、とても有意義なアイデアだったので、「よし、何とかしてみる!」と判断したりしていました。
次ページ: VR開発の重要点とは?開発レビューを玉置氏が語る