今回の「令和遊戯研究室」は、以前ここで話題となった集英社で新たに始まったゲーム事業においてプロデューサーを務めている森通治さん。昨年11月に集英社ではじめてゲームと名のついた部署が出来、今年春には、個人もしくは少数チームで開発するゲームクリエイターを支援するプロジェクト「集英社ゲームクリエイターズCAMP」を発表。
どうして集英社がゲーム事業をはじめたのか、どんなゲームクリエイターを支援していきたいのか、最新の状況などをお伺いしました。
出版社とゲームという全く異なるジャンル同士の掛け合わせで生み出される新たな可能性にすごくワクワクしました!
森通治
集英社 新規事業開発部 ゲーム事業・映像事業開発課 2008年、Apple Japan, Inc.入社。教育機関、エンタープライズ市場向けの事業開発・パートナー事業推進を担当。
2015年に集英社に入社。デジタル事業部にて電子コミックの事業推進、プロモーション企画、社内ウェブサービスやマンガアプリのグロース支援、週刊少年ジャンプ50周年企画などを担当。2019年に新規事業開発室の設立に伴い異動。現在「集英社ゲームクリエイターズCAMP」の立ち上げをはじめ、ゲーム事業の立ち上げ、プロジェクト推進を担当。カイジエンド
大学卒業後、広告会社を経てコンテンツプランナーとしてCHOCOLATE Inc.に入社。ファンがこぞって参加したくなるようなゲームや体験、映像の企画が得意。
企画・開発ゲームは、Amazonアナログゲームランキング1位を獲得した「DEATH NOTE人狼」、アニメのツッコミを擬似体験できる「銀魂 ツッコミかるた」など。
他にもNetflixオリジナル映画「BirdBox」のPR施策として、応募が殺到し即完売した「東京を目隠しで観光する『観ない観光』」の企画や、漫画と音楽がリンクしたMV「MMV」の企画を行う。
Twitter : https://twitter.com/X_T_END
カイジエンド(以下、カイ):本日はよろしくお願いいたします。まず、改めて、森さんと、集英社のゲーム事業についてお伺いさせてください。
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森通治(以下、森):僕は出版社が新卒入社のキャリアではなく、元々はAppleの日本法人にて営業企画や営業管理を担当していました。iPhoneが出る前からの入社で、激変の時代を経験して、しんどいこともありましたが良い経験をした20代を過ごしました。でも30歳を前にもともと興味のあったコンテンツ業界に行きたいと思っていて、ちょうど集英社が経験者採用でデジタル事業担当の採用をやっていると知り、採用プロセスを経て、ご縁があって転職したのがいまです。
カイ:コンテンツといってもたくさんありますが、そのなかでもゲームに興味があったのでしょうか。それともやはり集英社というところで漫画などでしょうか。
森:コンテンツ業界といっても、僕は作品作りというよりもコンテンツをプラットフォームを通じて売るということに興味がありました。さらに出版業界は電子書籍への移行タイミングでもあり、僕のAppleでの知見がもしかしたら役立てられるかもというところで選びました。「週刊少年ジャンプ」は幼少期からずっと読んでいたし、自分が好きな作品をデジタルで広げられる可能性というところに面白さを感じたことももちろんあります。
カイ:コンテンツを作りたい人はすごく多いですが、その売り方・広げ方を考えたいって人は結構めずらしい気がします。
森:そうですね。集英社の転職後は、まずは電子書籍や漫画アプリの仕事をさせてもらって、新規事業開発室が出来て、異動になったんです。その新規事業開発室のなかでもAIとか動画とかいろんな取組み候補があった中で、そのなかにゲームがあって。「僕ゲームやりたいです」と手を上げました。
カイ:ゲームを選ばれた理由は?
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森:ずっとゲームが好きで、ネットゲームも廃人のようにやっていた時期もありました。ゲームが好きすぎて、社会人大学院の修士論文のテーマも「ゲーム業界のエコシステムの構造分析とプラットフォーム競争」にしたくらいです。特に『クロノ・トリガー』『タクティクスオウガ』『ゼルダの伝説』『ワンダと巨像』あたりが大好きですね。世界観とキャラクターが強いものが好きです。
カイ:そして、そのゲーム事業が新設され、異動されたということですが、集英社自体がゲームにどんな勝ち筋を見て事業化することになったのでしょうか。
森:最初はもちろん、集英社のヒット作品のゲーム化を目指すべきかと思っていたんですが、当時の事業部には4人、ゲーム担当は私1人しかいなくて。そんな組織力でヒット作品の権利を預かって、世界中に遊んでもらえるゲームを作れるのかと言われたら、当然無理な話でして。作品にとっても、会社全体の利益を考えても中途半端な結果になって、価値を最大化することはできない。集英社ならではの、立ち上がったばかりの小さい組織だからこそのやり方を模索しなければいけないと思って。
カイ:それが、クリエイターへの支援であり、投資だったと。
森:そうですね。でも、すぐにその方針が決まったわけではなく、1年くらいゲームやゲーム市場についてひたすら考えました。何も売上を出していないにも関わらず、会社もゲーム事業をやっていこうとOKを出してくれていたので、海外のゲームイベントには積極的に行ってみたり、ゲーム業界の人にひたすら話を聞いて情報を収集し続けまして、その結果として今の形に辿り着いた形です。
カイ:結構突然の発表で、大きな反響があったと思います。
森:本当はもっと小さくお披露目しようとしていたんですが、思ったよりも反響が大きくて。最初は100人前後のクリエイターさんが登録をしてくれればいいかなと思っていたのに、蓋を開けてみたら何千人という人が登録してくれたんです。現在、「集英社ゲームクリエイターズCAMP」には、約4000人のゲームクリエイターさんがご登録してくださっています。
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カイ:すごい!でも、僕は集英社のクリエイターへの支援なり投資って、実はすごく納得感があって。というのも、やっぱり集英社は長く漫画家への支援や投資をしてきたと思うんです。新人漫画家を探し出して二人三脚で一緒に作り出してそれを続けていくという。
森:そうですね。集英社は最近だと「鬼滅の刃」がすごいとか、漫画作品自体に注目いただくことが多いのですが、作品を生み出す漫画家さんが圧倒的にすごいんです。じゃあ、集英社はなぜそういった漫画家さんを発掘できるのかというと、新人漫画家発掘への大きな投資を継続的にし続けてきたのがやはり一番のバリューであり、今の好業績もそれ故なんだと思っています。
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カイ:そして、漫画で培ってきたスキームなりノウハウをゲームでも再現するという。
森:そうですね。やっぱりクリエイターと並走して良い作品を作るというマインドは伝統として受け継がれていますし、それが漫画であってもゲームであっても、クリエイターと並走し、作り出していくというのは集英社の強みだと思います。また、集英社は投資回収を長い目で見てくれる部分もあり。投資ができて、可能性を認めてくれればそれを継続できることも大きな強みですね。
カイ:その編集力、という部分をもう少し詳しくお伺いできますか。
森:そうですね。例えばいま実際にうちのチームに漫画編集の経験者もいるのですが、ゲームクリエイターさんがキャラクター設定や世界観作りで悩んでいるときに、「漫画だとこう見せるといいですよ」みたいな会話があったりして。このコラボレーションはプラスに働いているなと感じます。やっぱり、漫画はキャラクターの立たせ方がとても重要じゃないですか。
カイ:そうですね。ノウハウを伝えるというより、視点を与えているんですね。ちなみに、すでにゲームは生まれはじめているのでしょうか。
森:そうですね。すでにクリエイター投資型のプロジェクトは6企画は動いていますし、積極的に拡大しています。あとは、例えばプロジェクトでサウンドを作れる人がちょっと足りないとなったときに「集英社ゲームクリエイターズCAMP」に登録してくれているサウンドクリエイターの方にお声がけさせていただいて、コラボレーションも生まれたりして、良い循環が生まれてきていると感じています。
カイ:どんなクリエイターを支援していきたいかなど、構想はあるのでしょうか。
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森:明確には決まっていないのですが、なにかひとつでも光る才能があれば評価するという視点は大切にしています。
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カイ:楽しみですね。そうだ、最後に、なんですが、実は11月20日に開催される「ゲームマーケット秋」集英社ゲームクリエイターズCAMPブースにおいて、僕も参加させていただくかたちで「オリジナルのアナログゲームアイデア/企画」を大募集する「持ち込みゲーム部」が開催されるんですよね。
森:はい。すでに応募は締め切ってしまっているのですが、完全オリジナルのアイデアから、過去制作したゲームシステムと相性が良い集英社マンガ作品、特定の集英社マンガ作品でゲームを企画してみたいといったアイデアまで、ボードゲームやカードゲーム、TRPG、マーダーミステリーなど、アナログゲームであればなんでもありの持ち込みの場です。
カイ:応募頂いた方の作品を拝見したのですが、想像以上のハイレベルな方々にご応募いただけたみたいで、アドバイザーという立場ですが本当に嬉しい限りです、また、来年以降もこういった活動を続けて頂いて、ここからまた新たなゲームが生まれるといいなと思っています。
森:僕も楽しみにしています。そして、この「持ち込みゲーム部」は締め切ってしまっていますが、「集英社ゲームクリエイターズCAMP」ではアナログゲームクリエイターの参加もお待ちしています。今後、活動はどんどん広げていきますし、組織力・人材面も強化していくので、あらゆるジャンルのゲームクリエイターの方で、もしアイデアや良い企画がありましたら、ぜひ僕たちにお声がけくださるとうれしいです。
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