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ロシアによるウクライナ侵攻は、ゲーム業界にも大きな影響を及ぼしています。Game*Sparkではその実情を様々な視点からお届けすべく、ウクライナやロシア、さらには影響が直接的にもあるであろう周辺国を拠点に活動するインディーゲーム開発者に連絡を取り、その生の声を緊急連載中です。第五回は、過去に『Palmyra Orphanage』(インタビュー)でお話を聞いた、インディースタジオSteppe Hare StudioのZarif氏へのミニインタビューをお届けします。
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インタビューは全てメールで行われており、下記の質問に対して回答を求めました。非常に機微に触れる内容であり、ロシア国内の情勢も極めて不安定なことから、企画趣旨や記事のアウトプットについては事前に説明をしたうえで、そもそも回答するかどうか、また回答できる質問にのみ回答してもらえれば構わないというルールで打診し、了解を得られたもののみ記事として公開しています。
ロシア国内の現状は?
経済制裁も進んでいるが開発へはどのような影響があるか?
Steamでの売上は現状ロシア国内で受け取れるのか?
ゲーム開発者コミュニティの反応は?
ロシア国内のユーザーはどのように反応しているのか?
自身が今回のロシアの侵攻に対してどのように受け止めているか。
なお、本インタビューの返事を受け取ったのは日本時間3月13日20時58分です。状況が時々刻々と変化していますが、回答には極力手を加えず、一部誤解を招きそうな部分は編集の注釈をつける形で補足するというルールで連載しています。直近の情勢に鑑み、一度回答いただいた後に再度公開範囲を確認しているため掲載まで多少時間が空いています。
各回答はインタビュイー個人の見解であることをご理解のうえご覧ください。
――ロシア国内の現状はどうなっているのでしょうか?
Zarif氏いろいろと大変ですが、おそらく皆さんがニュースで見ているほどではありません。あらゆるものの価格が上がり続けており、多くの企業は閉鎖し、たくさんの人がロシアを出ていっています。その多くが有能で高学歴の専門知識を持った人たちですが、これはそういった人しか海外で職を得ることができないからです。国内ではプロパガンダが四六時中流れ続けています。街の中には大統領の言葉が綴られたポスターがたくさん貼られており、すべての新聞記事やテレビ番組が「特殊作戦」の成功と西側諸国による悪の制裁について伝えています。他の情報源は違法となり、アクセスできなくなってしまいました。
――ロシアへの経済制裁も進んでいますが開発へはどのような影響がありますか?
Zarif氏銀行への送金をブロックする制裁のため、Steamから支払いを受け取ることができなくなりました。これを何とかしないことには、私たちのスタジオも閉鎖に追いやられてしまうでしょう。そしてもしこの問題が解決できたとしても、米ドルに対するルーブルの下落により大きな損失が出てしまいますし、Steamがロシア国内でゲームの販売を停止してしまったことも、売り上げに大きな影響が出るでしょう。
――Steamの売上は現状ロシア国内で受け取れているのでしょうか?
Zarif氏現時点では不可能です。
――ロシア国内のゲーム開発者コミュニティではどのような反応がありましたか?
Zarif氏他の方たちについて私が何か言うことはできませんが、かなり悲惨なことになるでしょう。特に小さなスタジオやソロで活動している人には影響が大きいのは間違いありません。Owlcat Games(編注:『パスファインダー:キングメーカー』等)やDark Crystal Games(編注:『Encased』等)のような大きなスタジオも多大な損失を出してしまうと思いますが、少なくとも彼らは別の国に拠点を移すことができます。小さな開発チームは国際市場から切り離されてしまいますし、もちろん新しい開発チームが今後出てくるのもかなり少なくなってしまうでしょう。ロシア国内でSteamが販売を中止したのも、これに拍車をかけています。
――ユーザーはどのように反応しているのでしょうか?
Zarif氏これに関しては答えられません。申し訳ありません。現時点の状況についてはほとんどわからず、自分達のことで手一杯なのです。
――今回のウクライナ侵攻についてどのように思いますか?
Zarif氏(未回答)
今後もロシア・ウクライナ両国や周辺国のデベロッパーから返信があり次第、生の声をお届けします。
編集部より
連載の趣旨について
かつてGame*Sparkでもインタビューしたデベロッパーが現在の状況をどう思っているか、そのままの状態で記すことには意味があるものと判断し、1デベロッパー1記事という形で掲載しています。過去のインタビュー対象がロシアのデベロッパーが多かったこと、被害の状況から勘案してもインタビュイーの比率は同数にならないかもしれませんが、今は数多くの生の声を聞くことにフォーカスしてお伝えしていくつもりです。
なるべく偏りが少なくなるよう努力はしますが、そうならない可能性もあること、それが即ちロシア側の声を意図的に多く拾うといった、特定の政治的な意図を込めているわけではないことはご理解いただけると幸いです。あくまで本企画は、突然の戦火に巻き込まれてしまったデベロッパーがどのような状況に置かれてしまったかを、彼・彼女らの視座から語ってもらいそのまま伝えることを目的としており、ゲームとも関係の深い両国あるいはその周辺国で作られた海外ゲームを嗜む読者の皆様が現状を把握する一助になればと思っています。
掲載内容について
冒頭にも記載しましたが、あらかじめ企画の趣旨や記事のアプトプットについては全てインタビュイーに伝えた上で掲載しています。同意が得られなかったものや自身の身の安全を懸念し断られるケースも多数ありますが、いずれの質問についても本企画においては必要なものと編集部では判断しており、趣旨の通りまとめています。
基本的にインタビューの内容についてはほぼ逐語訳であり、こちらから発言にないことを加筆したり、何かしらの発言を誘導したりすることはありません。一方で、そうしたスタンスが故に今後過度に政治的な内容になる、逆にプロパガンダ的な内容になるという可能性を秘めていることは編集部内でも事前に認識しており、掲載にあたっては編集部で慎重に議論したうえで公開しています。また、デベロッパーに対しては必ずしも政治的なスタンスを明かすことは求めておらず、無理矢理に態度を鮮明にすることを求めたり、回答の有無やその内容について善悪の判断をしたりしないということも伝えています。あくまで本連載の趣旨は前掲のとおり「当事者それぞれの視座から現状及び認識を語ってもらうこと」であり、回答の如何を含めてそれを残しておくことには意義があるものと考えています。
なお、ウクライナのデベロッパーについても複数のデベロッパーに連絡をしておりますが、未だ返事がもらえない状況が続いています。とにかく無事であることを心から願っています。
編集方針について
本連載のように毎回デベロッパーにインタビューで政治的な事柄についてスタンスを明示させるようなことは望んでいませんし、話の流れで可能性はあれ、通常のインタビューのスタンスを変えるということはないことも改めてお伝えします。ただし、本連載に関してはうやむやにするよりも突っ込んだ質問が必要であると判断した上でインタビューをしています。
初回からお伝えしているとおり、楽しいゲームニュースがかき消されるような、この最悪な状況が一日でも早く終わることを編集部一同願っています。同時に、突然戦火に見舞われ、日常を奪われた多くのウクライナの市井の人々やゲーム業界関係者を思うとかける言葉もなく、一日も早く平穏が取り戻せることを祈るばかりです。そうした被害に遭われた人々を支援するゲーム業界の動きについても随時お伝えしていきますが、これまで通り日常の記事のボリュームを減らすことなく、ゲーム業界に関連する話題については記事の本数を増やしながら対応してまいります。