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eスポーツが多く取り沙汰される中で、幾度となく話題に上がっているのが、eスポーツの法的整備や法的な課題について。
日本最大の国際的総合法律事務所である西村あさひ法律事務所は、JeSU(日本eスポーツ連合)の法律顧問としてeスポーツの法的整備をサポートするなど、実は日本のeスポーツに深く携わってきました。
今回は「西村あさひ法律事務所」所属の弁護士であり、eスポーツ関連案件を多く担当してきた高木智宏弁護士に、「西村あさひ法律事務所」がどのようにeスポーツに携わってきたのか、そして現状特に注意しなければならない法律上のリスクやコンプライアンス問題などについてお話を伺いました。
――高木様のご経歴を教えてください
高木:2005年に西村あさひ法律事務所に入所しました。それ以来、M&A(企業の合併買収)やジェネラル・コーポレートと言われる一般的な企業法務を主に取り扱っています。
――なぜ、弁護士を志したのでしょうか
高木:祖父に「司法試験というものがある」ということを小さい頃に言われて、漠然と司法試験を受けようかな、と考えていました。ビジネスにも興味があったのでもし司法試験に受からなかったらそちらの道に進んでいたと思います。運良く司法試験を突破でき、ビジネス法務を扱っている西村あさひ法律事務所にご縁があって入所できました。
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――キャリアの途中で海外へ行かれた理由は?
高木:目的は留学です。西村あさひ法律事務所の多くの弁護士はキャリアの途中で、アメリカやイギリス等に留学します。各国の法制度について英語も含めて学び、日本への帰国後に携わる案件でそれらの知識を活かす、ということが主な目的です。私はニューヨークの弁護士資格も取得しました。
――西村あさひ法律事務所さんは企業法務やM&A 案件の取り扱いをメインとされているのでしょうか
高木:M&A案件に限らず、たとえばファイナンスや事業再生、危機管理と言われる分野など基本的には企業法務に関わるほぼ全ての分野をワンストップで対応することが可能です。世界19拠点で800名を超える国内外の弁護士が緊密に連携することで大型案件を含め様々な案件に対応しています。
――eスポーツ業界への関わりついて教えてください。西村あさひ法律事務所さんはeスポーツ業界の案件に多数取り組まれています。その経緯やきっかけを教えてください
高木:M&Aや一般企業法務をやっている中で、2013年前後から「日本にカジノができる」ということでIRやカジノ関連の案件が増え始めました。海外のIR・カジノ関連のカンファレンスによく参加していたのですが、若年層をカジノに取り込むために「eスポーツをカジノの業界に取り入れよう」という動きが多くあったんです。そのため、カンファレンスの隣でeスポーツのイベントが多々開催されていまして、その際に「eスポーツ」を認識しました。
そこから少し時が経ち、2017年前後に事務所の若手が「eスポーツを仕事としてやりたい」とリクエストをしてきまして。当時の日本では「eスポーツ」という言葉はまだあまりメディアにも取り上げてられてない時代でしたが、前述の件でeスポーツのことを認識していたので「一緒にやろうか」ということから始めた、というのがスタートになります。
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――当時はどのようなeスポーツ案件があったのでしょうか
高木:基本的に我々はアドバイザーなので仕事を自分たちで作り出す立場ではないと考えています。当時はまず、業界の様々な人に会いに行って、話を聞いていました。その過程で、JeSU(日本eスポーツ連合)の浜村さん(現JeSU副会長・浜村弘一氏)とお会いしたり、メディアに記事を執筆したりもしていました。
また、我々の事務所から経済産業省に出向する弁護士がいたこともあり、経済産業省の中でも今後の日本の成長戦略の一つとしてeスポーツが取り上げられていることも認識していました。例えば「eスポーツの発展のために法律・法規制が障害になってるんじゃないか」という話などですね。
当時は日本eスポーツの発展のために法規制を何とかしよう、と動き始めているタイミングでもありました。経済産業省の中でeスポーツを主管しているコンテンツ産業課へ当事務所の出向者を通じてアクセスしたところ、経済産業省としても、今まさに法規制を何とかしようとしているタイミングだったので「一緒にやってもらえませんか」とご依頼を受けて、経済産業省・JeSU・西村あさひ法律事務所の3つの団体でロビイングをしていくところから始まりました。警察庁、消費者庁等に行くなどの活動をしていく中で、徐々に我々の名前を認知していただくようになりました。
――法規制については、とても問題になっていました
高木:当時問題になっていたのは「景品表示法(景表法)」、「風営法(風適法)」、また刑法の「賭博罪」の3つがメインですね。
景表法については、大会賞金は10万円しか出せないのではないかと言われていたのですが、ノンアクションレター制度を利用して消費者庁に対して照会し、10万円以上出しても問題が無い場合を明確にできました。
風営法については「ゲーム機を置くとゲームセンター営業になるんじゃないか?」というところが問題になっていました。PC、スマートフォン、タブレット等の汎用機であれば問題ないことや、参加料を徴収しても参加料が大会開催費用を下回れば問題ないことを、警察庁と何度も何度も面談して確認し、ガイドラインを作っていきました。
刑法の賭博罪については「大会参加料を徴収してその参加料から賞金を出すと賭博に当たるのでは?」と言われていました。そのリスクは当然、今でもあるのですが、その参加料を賞金に回さずにスポンサーからのお金だけを使って賞金を出し、参加料は大会運営費用に充てるという形であれば問題はない、という整理をしました。
――それらの法律とeスポーツの関係性の話を知ってる人はあまり多くないと思います。とても大変な作業だったのでは?
高木:さらっとはいきませんでした。当時の経済産業省やJeSUの方々にかなり頑張っていただいたおかげだと思います。
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――eスポーツに関連する会社やチームの法務相談も業務として行っているとのことでしたが、M&Aの案件などが多いのでしょうか
高木:最近増えてきたのが、チームのM&A案件ですね。徐々に成長産業に移り始めたのかな、という印象を持っています。M&Aについては、買い手側・売り手側の両方とも増えてきています。
――西村あさひ法律事務所さんでビジネスDD(ビジネスデューデリジェンス)などもやられるのですか
高木:当事務所にはeスポーツ事業の責任者としての出向経験もある人間がいるため、新規参入を行う事業者に対しては包括的・初期的なアドバイスを行うことはありますが、多くの場合はクライアント様が自社で行っていることが多いと思います。
我々としては「そもそもチームとしてコンプライアンスは問題ないか」、現在プロリーグに参加してるようなチームだと「買収後にそのままリーグに残れる契約になっているか」などのチェックがやはり大事になると思います。
他にも、チームを買う場合は「選手との関係」を重要視します。例えば、買収した瞬間に選手全員いなくなります、ということが起きるリスクも無くはないので。リーグや大会に継続して出場できる資格がきちんとあるかどうかというところは要確認ですね。
――eスポーツ関連会社やチームは他の業界と比べて、ここは違うな、ここは変わってるな、ここは特殊だな、という部分はありますか
高木:若い会社やチームが多いので、コンプライアンスを中心にまだまだ厳格にしていかなければならない部分も多いかなとは思います。また、その社内の規程類ができていないということもあります。
SNSでの発言など、リスクポイントになりやすいので、そこに対してはトレーニングをきちんとした方がいい、とは感じますね。とはいえ、そこはスタートアップと同じかなと思います。
――海外のeスポーツ業界における海外法律の取り組み事例などはいかがでしょうか
高木:詳しく海外の法事事務所が何を行っているかまで把握はできていませんが、M&Aや資金調達の規模が大きいので、そういった案件にはきちんとした法律事務所が関与してるのではないかなとは思います。これからグローバルで見てもいろいろ事例が増えていくところなので注目しています。
――ありがとうございます。ところで高木さんはゲームはやられますか?
高木:幼い頃はそれこそ『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』などのRPGをプレイしていましたし、ハードもスーパーファミコンやセガサターンなど一通り触ってきました。
弁護士になってからはなかなか時間が取れなくなってしまい、今はモバイルゲームがほとんどですが『PUBG MOBILE』や『ブロスタ』などをよくプレイしています。特に『ブロスタ』は短時間で終わるので隙間時間でよくプレイをしますね。事務所の中にもゲーム好きは多く、他社さんとゲーム交流会などもしています。
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――ゲーマーが事務所内にもたくさんいるという話は意外でした。弁護士さんもゲームをするのですね。チームや選手とパートナーシップを組んだり、eスポーツタイトルを活用する際に注意するべき点をアドバイス頂きたいです
高木:チームの場合は先ほど申し上げた通り、コンプライアンスの観点からSNSでの炎上リスクの事前調査が必要です。スタートアップ企業と同様なのですが「きちんと社内規程を作成していますか?」「法令遵守してますか?」というところを見たほうが良いです。「M&Aやパートナーシップを締結したのに、大会やリーグに参加ができなくなってしまった」となると結局思い描いたような成長曲線が描けないということになってしまいます。
eスポーツ業者やパートナー選びについてですが、eスポーツの性質上ゲームタイトルのIP侵害がないかというところも大切だと思います。ウェルプレイド・ライゼストさんやJCGさんなど大手のeスポーツ運営会社はIP許諾周りもきちんとされていますが、個人が主催するようなイベントなど、そうではない事例もあったりしますので注意が必要です。
――単純に配信をしたり大会を開催したりなどはやろうと思えば誰でもできてしまいますがその部分がクリアになっていなくて揉めているケースも有り得そうですね
高木:eスポーツを絡めた施策を初めて行う場合には、業者やパートナー選定は気をつけるべきです。金額だけでなく、コンプライアンスやリスク面もきちんとケアをしている会社と付き合うほうが、長期的に見て成功しやすいと思います。
――eスポーツチームや会社への出資について注意ポイントなどはありますか
高木:新規で参入する会社さんは、前述したリーガル面の話とは別で、ビジネス面についてもeスポーツ事業の経験があるようなアドバイザーの意見を聞いたりすることも意識をしたほうが良いかと思います。
「ビジネス的にやろうとしてることが本当に儲かるビジネスなのか?」、チームのM&Aやパートナーシップだとすると「そのチームは今後本当に成長できるのか?」という部分を第三者に見てもらう。どういう選手がいて、どの部門が強くて、その部門が今後伸びる部門なのか、伸びないものなのか。というところも含めて有識者にアドバイスを仰ぐべきです。
「よく分からないけど、eスポーツが盛り上がっているから買ってみよう」では、うまくいかない可能性も当然あります。このあたりはスタートアップ企業とのパートナーシップやM&Aとほとんど同じです。ただし、eスポーツビジネスに精通しているアドバイザーの数も多くはないため、ここは多くの事業者が苦労していることであろうと思います。
また、マーケットが国内だけではないので「世界的な潮流がどうなっているか?」という視点で見ていく必要もあります。ここ最近、日本のチームは強くなってきていて、世界で戦えるチームも出てきています。加えてチームのブランド力がどのぐらいあるか、ブランド力を使ってアパレルなどのゲームだけではないファンビジネスでどれだけ収益を上げることができるか、というところが今後重要になってくると見ています。
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――スタートアップへの投資とかなり似ていますね。eスポーツ領域だからといって「そんなに特殊な領域じゃない」ということですね。高木さんは今後の日本のeスポーツ市場をどう見ていますか
高木:基本的には成長すると思っています。コロナの影響で想定より鈍化した部分もありますが、オンラインでも活動ができたので、コロナの影響はフィジカルスポーツより少なかったのです。今、順調に成長しているので全体的には明るい方向と捉えています。
もともと日本はeスポーツ後進国と言われてましたが、ゲーム文化の市場は伝統的にものすごく大きいです。しかし、RPGやアドベンチャーゲームなどのマーケットが大きく、且つ、コンソール機と呼ばれる家庭用ゲーム機が人気で、PCを通じてゲームをする文化はそれほど大きくありませんでした。この部分が少しでもeスポーツの方に流れてくると一気にファンも増えてきますし、ファンが増えれば当然ビジネスにもなると思いますので、今後より発展していくと思います。
――eスポーツ案件は増えていますか?
高木:最初は案件数も少なく、規模も小さいものが主でした。しかしeスポーツ案件に携わることによってゲーム業界の仕事をいろいろいただくようになりましたし、周辺領域まで含めると多くの案件があります。この部分については、企業が新規事業でeスポーツに参入する際に大切な視点かもしれません。単体ではなく、周辺領域もきちんと視野に入れて参入していく姿勢は、ビジネスをより加速させていくと思います。
――最後にこの記事を読んでいる新規事業担当者、eスポーツを活用しようとしている読者に対してメッセージをください
高木:eスポーツは今後確実に伸びていく産業だと思います。自分たちがやりたいこととeスポーツをいかに結びつけるかという明確なビジョンを持った上で「どこに投資をするのか」「何をすべきか」ということをよく考えてから参入することで、良い結果につながると思います。一緒に業界を盛り上げていきましょう!
――ありがとうございます。
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