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ストーリーテリング志向のゲームの開発で最もネックになるのは「キャラづくり」ではないでしょうか?
これは単にキャラクターの性格を確立するだけでなく、のちのちその性格に矛盾を生じさせないための対策も必要です。たとえば、このキャラは納豆が嫌いと過去に発言していたのに新しいシナリオでは納豆を平気で食べているとしたら、勘のいいプレイヤーはその矛盾に気づくはず。
従って、新シナリオの作成する際は「過去の発言チェック」という作業が必要になります。ですが、それは字面で書く以上に複雑で膨大な作業。「ゲーム業界の人材不足」が指摘される中、過去のシーンを一発で検索する仕組みを考案・開発したチームが存在します。
CEDEC 2023で催されたショートセッション「膨大なシナリオから該当シーンを一瞬で検索! IDOLY PRIDEのシナリオ補助ツール開発」にて、その詳細が公表されました。
シナリオ管理はGoogleスプレッドシートを利用
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この講演に登壇したのは株式会社QualiArtsの簗瀬拓弥氏と田中一馬氏。いずれもスマホゲーム『IDOLY PRIDE』の開発に携わっています。
「このゲームのシナリオは、全てGoogleスプレッドシートで管理されています。ファイルはひとつひとつ、Google Driveを使って管理・保存しています」(田中氏)
それに加え、音声データのIDもGoogleスプレッドシートに記載する形で管理しているとのこと。筆者はこの説明を聞きつつ、心の中では大いに驚いていました。もっと特殊な管理ツールを使っていると思っていたら、何と筆者も普段利用しているGoogleスプレッドシート!?
もちろん、それがダメということでは全くありません。むしろGoogleスプレッドシートやGoogle Driveの利便性は、筆者も日頃実感しているほど。ファイルが適切に管理されていれば、その都度チェックしたいシナリオをすぐに検索することができます。しかし問題は、「網羅性を求める検索」に難があるという点です。
「網羅性を求める検索」とは何か?
「たとえば、キャラAからキャラBに対して“リンゴが好き”と言ってたっけ? ということをチェックする必要が出てきました。その台詞は何となくあの辺で言ってた気がするけど……という感じになると、かなり非効率的な探し方になってしまいます」(田中氏)
他にもキャラAがキャラBに話しかける時の言葉遣い、単語の表記はひらがなか漢字かということを調べなければならない時、過去に作成した膨大なシナリオを総当たりでチェックしなければなりません。
こうなると、プロジェクトに新しく参画したスタッフが登場キャラの性格を学習する際、それ相応のコストがかかってしまうという問題もあります。
「シナリオ補助ツール」を導入
『IDOLY PRIDE』のプロジェクトに最初期から参画していたスタッフ、言い換えればそのゲームの「奥義」を習得している人物は記憶を頼りに該当のシナリオを検索するということが可能です。ただ、やはりそれでも結構な時間がかかってしまったり……。
そこで『IDOLY PRIDE』シナリオチームは、独自にシナリオ補助ツールを開発しました。
上述の通り、『IDOLY PRIDE』のシナリオ管理はGoogleスプレッドシートを活用しています。このあたりは変更せず、呼び名の通り「補助ツール」として導入しています。
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「本ツールは、シナリオチームメンバーがすぐに利用できるようシンプルな設計にしました」(簗瀬氏)
具体的には、セリフ検索ワードが実装されているファイル管理プラットフォームです。キャラクター名やセリフが含まれるファイル名での絞り込みにも対応します。
「ツール使用者は、約8万のセリフから意図したセリフだけを瞬時に検索することができます」(簗瀬氏)
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また、該当のセリフに紐付けられる音声ファイルの表示にも対応し、もちろん再生もできます。これを用いることで、口調やイントネーションの比較も実施できる仕組みです。
ツールによって“月8時間の時間削減”に
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この補助ツールにより、どれほどの効率化を実現できたでしょうか?