前回はイベントの概要を速報いたしました。
時間が経過しました。私の頭の中も落ち着いてきたようです。
今回はNGP(Next Generation Portable)の特長、将来への可能性、期待などを述べさせていただきます。
アンドロイド端末との互換性、ソニー・エリクソンが発表した Xperia Play(エクスペリア・プレイ)、背面タッチパッド、左右のアナログスティック、ジャイロセンサー、有機ELディスプレイ、3G通信など。
NGPのことを語りだすと、際立った機能が多いため、話題が散逸してしまいそうです。本稿では、あるソフトから一点突破をして、話を展開してみます。
PlayStation Meeting 2011では、複数のゲームタイトルが発表されましたが、私が目を見張ったのは『みんなのゴルフ NEXT』(仮称)でした。
え? また『みんなのゴルフ』? と思われるかもしれませんが、あのデモンストレーションで注目すべきは、ゲームのはじまり方でした。「ユーザーはどうやってゲームをはじめるのか」の手順に、NGPの革新性を感じました。
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NGPでは、ハードウェアにソフトを差し込んでも、ゲームは始まりません。
もう一度、同じことを言います。
NGPでは、ハードウェアにソフトを差し込んでも、ゲームは始まらないのです。
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通常ゲームのスタート画面は中央上部にある。
すべてのソフトがそうとは限らないでしょうが、私が見た『みんなのゴルフ』は明らかにゲームスタート時、従来のようなタイトル画面が出てきませんでした。この意味は大きい。
同発表会では、NGPの特長のひとつ、LiveAreaの説明の流れで『みんなのゴルフNEXT』が紹介される場面がありました。
NGPに『みんなのゴルフNEXT』のソフトが挿入されています。この状態でサーバーと通信をします。すると、ゲームにかかわる情報が更新され、手に持ったNGPの表示画面に変化が置きます。
デモンストレーションでは、「ストア」の画面が更新されました。「ストア」では追加のゴルフコースやアイテムが販売されています。
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追加ゴルフコースを購入する画面
「ストア」画面から元の画面に戻ります。すると、画面下部からアバターがポップアップしました。このアバターは、いつもゲームを一緒に遊ぶフレンドです。このフレンドは実際の友人もいれば、ゲーム内で知り合った友人の場合もあるのでしょう。
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画面下からアバターがポップアップした画面。
アバターたちとの交流の場、「コミュニケーションゾーン」に入ると、誰がホールインワンを達成した、ゲーム内のステージクリアした、などの情報が表示されています。
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アバターとのコミュニケーションエリア画面
これらリアルタイムに更新される情報を見たあとで、NGPの画面中央上部に表示された画面をタップすると、従来のように『みんなのゴルフNEXT』のゲームがスタートします。
たったこれだけのデモンストレーションでしたが、NGPとは何者なのか? 今後、どのようなことが起きる可能性があるのか? いくつものことを雄弁に物語っています。その声なき声を、私は次のように解釈しました。列記します。
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1.閉ざされた世界からの開放
プレイステーション3と比較するとわかりやすいかもしれません。プレイステーション3では、「ストア」はゲームの外に置かれています。「フレンドリスト」もそうです。私自身がそうなのですが、「ストア」や「フレンドリスト」は、たまたま気になった時に見てみるクロスメディアバー (XMB)のアイコンとなっています。
しかし、NGPでは「常に」見ることができるため、「ストア」での販売やフレンド同士の交流はより活発になるでしょう。言い方を変えると、「ストア」やフレンド情報を強制表示する仕様になっているわけですが、ユーザーは無理矢理見せられている、という感覚を持たない演出がされています。もちろん、「ストア」やフレンド情報を見ることなく、すぐにゲームプレイをはじめることもできます。
つまり、『みんなのゴルフNEXT』は、ゲーム外の情報をゲーム内に取り込んだ典型例でした。このひな形が誕生したことにより、ゲームは閉ざされた世界から開放されていくでしょう。その効果として、一本のソフトの製品寿命が伸びる可能性があります。飽きずに長期間遊べるソフトが生まれやすくなります。
2.第二のソフトがある
今まで私たちが遊んできたゲームのことを第一のソフトと呼ぶことにします。その手前に、第二のソフト置くことができるのがNGPの特長です。『みんなのゴルフNEXT』の例でいえば、第一のソフトの手前に「ストア」や「イベント」や「お知らせ」をユーザーに通知するソフトがありました。このことを第二のソフトと呼んでいます。
プログラマー、エンジニア、CGデザイナーの専門職の方が読むと、なんとも素人くさい表現になってしまうのですが、ユーザー感覚で物申すと、ゲーム本編とは独立したソフトが重なり合う。そんなイメージを与える機能を持ったものを、第二のソフトと表現しています。
第二のソフトを工夫すると、第一のソフトのおもしろさが増す、あるいは変化することが想像できます。石川遼、宮里藍、古閑美保……好きなゴルファーの成績を速報で伝えてくれる『みんなのゴルフNEXT』、スリープ状態のとき、ゴルファーのテクニックが上昇していく育成ゲーム型の『みんなのゴルフNEXT』など。第二のソフトの用途はいろいろと考えられそうです。
3.第2のソフトはクラウドにある
第2のソフトは、パッケージソフトに含まれているわけではありません。クラウド上にあります。サーバー上にあるプログラム、またはデータをダウンロードしています。PlayStation Meeting 2011では、この情報のやり取りのことを「プレイステーションネットワークからプッシュされます」と解説されていました。
そうなのです。NGPのソフトを開発することは、インターネット経由のサービスも同時に開発することを意味します。「ソフトを2つも開発しなくてはいけない」ととらえるか、「ソフトを2つ開発することによって新しい体験をユーザーに与えることができる」ととらえるかは、ソフトをつくる組織や個人の志しの高さにゆだねられることになるでしょう。
4.カスタマイズできる
パッケージソフトでは、BGMの種類や操作ボタンの割り当てなどのオプション設定はできても、プログラムの中味までユーザーは書き換えることはできません。
ですが、クラウド上にあるプログラムは、かなりの自由度を持ってカスタマイズすることができます。たとえば、My Yahoo! やi-Googleを想像してみてください。ユーザーの好みによって表示色を変えたり、モジュールの組み合わせを選んだりすることによって、第2のソフトを自分好みに加工することが可能となります。
5.料金体系が変わる
第2のソフトがあることは、NGPのソフトの料金体系が変わることも示唆しています。実際にデモンストレーションされた、『みんなのゴルフNEXT』の追加コースは、(仮の価格として)500円と表示されていました。ソーシャルゲームのようです。つまり、NGPをソフト会社の側に立って考えると、追加アイテムで儲けるビジネスモデルが成立するわけです。無料、あるいは従来のパッケージソフトよりもはるかに安い料金で販売。のちにアイテム課金をするゲームデザイン、販売方法をするパブリッシャーが登場してもおかしくありません。ちなみに、(株)アクワイアが発売したPSP用ソフト『バクマツ☆維新伝(レボリューション)』の価格は無料です。現行のPSPプラットフォームでも、ゲームソフトが無料配信された前例があります。
また、第2のソフトを広告として使うことができるならば、ゲーム会社は新たな収益源を得ることになります。その収益がユーザーに還元されば、ソフトの販売価格を抑えることができます。広告収入によって、ソフトを安価に提供する。これもすでにスマートフォンのアプリケーションで使われている手法です。
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6.家庭用ゲームとソーシャルゲームの壁がなくなる
SNS機能を持った第二のソフトがサーバー上にあれば、NPGでもソーシャルゲームが遊べます。ということは、DeNAが『怪盗ロワイヤル』のNGP版を発売したり、mixiが『サンシャイン牧場』のNGP版を発売したり、GREEが『釣り☆スタ』のNGP版を発売するようなことがあったとしても、驚きはしません。ブラウザゲームでも同様のことが起こりえます。『ブラウザ三国志』をNGPでも遊べるようになります。
7.既存のWebサービスとゲームが重なり合う
第二のソフトは、新たに開発するばかりではなく、既存のWebサービスとの相性もよいでしょう。ゲームをしながら楽天やAmazonで買い物。Twitterでゲーム結果をツイート。撮影した写真をfrickerやPicasaに、プレイ動画ならばYouTubeにアップロード。
NGPの開発コンセプトである、Location-based-Entertainment(位置情報をもとにした楽しみ)に、foursquareやGoogle Mapはピタリと当てはまります。
今、私は秘密のシミュレーションシートをつくっています。エクセルの表の左側に思いつく限りのゲーム名を入力しています。そして右側にはWebサービスを入力しています。上記サービスのほかにGroupon、食べログ、はてなブックマーク、Ustream、Evernote……と書きこんでいます。
左側のゲームと右側のWebサービスが重なり合ったら、どんなことができるのか? 想像するだけでもおもしろくて、あっという間に時は過ぎていきます。
以上、ハードウェアにソフトを差し込んでも、ゲームはすぐに始まらないNGP。
NGPの秘められた可能性は、パッケージソフトとクラウドサーバー、クラウドコンピューティングとの融合にある。他のメディアがあまり報道していないポイントをピックアップしてみました。
特にクラウドコンピューティングを用いた場合は、NGPの本体性能をはるかに超えた演算結果をユーザーに届けることができます。
ゴルフクラブが、時速何キロのヘッドスピードで動き、ボールと何度の角度で接触し、反発力が加わって、初速はどのくらいの速度で飛び出していったのか。そのデータや映像がほしければ、即座に手に入れることができます。
第二のソフトを持つということは、携帯ゲーム機とは離れた場所にある、第二の頭脳を持つことでもあるのですね。
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「すべての現実はデータ化する」。(デモンストレーションの冒頭で上映されたコンセプト映像より)
■著者紹介
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株式会社インターラクト(代表取締役/ゲームアナリスト)
1962年・神奈川県生まれ。青山学院大学卒。85年・出版社(現・宝島社)入社後、ゲーム専門誌の創刊編集者となる。91年に独立、現在にいたる。著書・共著に『ゲームの大學』『ゲーム業界就職読本』『ゲームの時事問題』など。現在、本連載と連動して「ゲームの未来」について分析・予測する本を執筆中。詳しくは公式ブログもご参照ください。Twitterアカウントは@HisakazuHです。