会場は学生からベテランまで多岐にわたり、ゲーム業界への入り口としてだけでなく、Googleのネームバリューの大きさが感じられました。そして同時に、大きな疑問が会議室に漂っていました。
「Googleはなぜゲームに興味を持つのだろう?」・・・どうにも検索や情報編纂というGoogleの本質と結びつかないのです。
Googleでゲームデベロッパの支援を担当しているイアン・二・ルイス氏はこの疑問を存分に晴らしてくれました。Googleはゲーム開発をする気は無く、ゲームデベロッパに市場と技術を提供し、インターネットでのゲーム市場全体を育てたいとの説明がありました。
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Googleでゲームデベロッパの支援を担当するイアン・二・ルイス氏 |
そこで本レポートではイアン氏の講演を中心に、同社の戦略を
1. ゲーム開発の土台となる技術を作り
2. ゲームプレイのプラットフォームを提供し
3. ゲームの販売路を提供し
4. ゲームをネットに向けて展開させる
の流れで説明したいと思います。
■Googleとゲーム開発技術
インターネットは大きな転換期にあります。IPv4の時代が終わり、IPv6の使用が急がれています。HTMLは新バージョンであるHTML5の開発が活発に行われています。ブロードバンドもますます高速化し、その浸透率を高めています。携帯電話のデータ通信能力もアメリカでは次世代通信規格(4G)がすぐそこに近づき、その変化の速さはいつも以上になっていると感じます。
その中でGoogleはインターネットの基礎技術に深く関係し、絶えず5年、10年先の世界を考えています。
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GoogleはHTML5策定などインターネットの基礎技術開発にも深く関与 |
この先10年のインターネットの基礎言語となるHTML5はHTML4と比べ、インタラクティブ性を飛躍的に高める事を可能とする言語です。非同期性データ通信、セッション管理、グラフィック、IO管理。今まではFLASHやJavaScriptの領分だった物がブラウザ上でそのまま稼働するようになります。
これによって、ゲーム開発も間違いなく変動します。WebGLはブラウザ内のサンドボックスから、ハードウエアGPUに直接APIレベルでアクセスできるようにする技術です。煩わしいインストールの手順を挟まず、ブラウザで高度なポリゴン処理が可能となります。NativeClientはC++でWebアプリの開発を可能として、旧来のデベロッパにネット開発への道を作り出しています。いままでブラウザという枠で考えられなかった表現を創りだす可能性が生まれつつあるのです。
ゲーム開発は常に技術の限界に挑戦し続け、限界を更新し続けます。「ゲーム開発者って仕様って物に容赦ないよね」と笑いを取ったイアンさんは、その利点についても話しました。
ゲームは新技術をなによりも上手に見せつける事ができるのです。技術デモ10個より面白いゲーム1個、という訳です。そしてゲームデベロッパは技術の足りない所を見つけてくれる。デベロッパはGoogleを初めとして基礎技術開発にも、ありがたい情報源となっているのです。
■ゲームプラットフォームを(結果的に)作ったGoogle
GoogleはAndroid、GoogleTV、Chromeブラウザと各種プラットフォームを世に送り出しています。そして汎用プラットフォームユーザはゲームをプレイをする。真理ですね。
日本国内では未だスマートフォンの浸透率は低いものの、Android端末のシェアは伸びています。アメリカ市場ではAndroidOS搭載端末は市場シェアトップをもぎ取りました。全世界で見れば、新規Androidデバイスが一日30万台もアクティベーションするようになっています。
端末の性能も次々と発売されるモデルを通して、自然に競い合い、上がっていきます。ソニーのゲーム用に特化したXperia Playを初め、ゲーム機に負けない処理能力を持つ端末も少なくありません。まだ誕生したばかりのAndroidOSタブレット市場も可能性は未知数ですが、タブレット向けのOS開発が急ピッチで進んでいる事から、Appleと真っ向立ち向かう姿勢を見せています。
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携帯端末、PC、テレビで独自プラットフォームを提供 |
2010年末に発表されたGoogleTVはインターネットとテレビを繋ぐデバイス群のプラットフォームです。Androidベースで開発されているので、Android用アプリからGoogleTVへの転用は難しくありません。テレビとソファに支配された居間に入り込む為に、GoogleTVは絶好の機械です。もちろん、ゲーム機のような性能は無いけれど、カジュアルゲームには最適です。
ChromeブラウザはInternetExplorerの低下するシェアに相対してシェアを伸ばしつつあります。20111年には15.7%を記録して、約30%をキープするFirefoxに迫りつつあります。WebGL等の技術を最大限に活用できるサンドボックス構造を持っているため、Chromeは技術的にゲームプレイに適しているといえます。
ブラウザとして先進的な技術を盛り込んだChromeはChromeOSとしてさらなる展望をみせています。今年配布が始まったChromeOS搭載のNetbook「Cr48」は、Chromeブラウザのアプリプラットフォームとしての能力を存分にみせています。Google製品らしい実験的な側面を持つものの、軽量アプリのプラットフォームとして魅力をもつ次世代クラウド端末です。そしてChromeの特色となったのが、去年紹介されたChromeWebStore。そのWebStoreが次の話につながっていきます。
■ゲーム販売路
GoogleのChromeWebStoreはアプリのコンビニとなるべく提供されている販売路です。AppleのiOS用のAppStoreに似て、ChromeOSとChromeブラウザを対象にしたアプリが購入できます。デベロッパにChromeWebStore以外で商品を販売する自由は与えられていますが、ユーザとデベロッパ双方にとって、利便性では勝てないと思われます(同じく、Android用にAndroidMarketplaceが用意されています)。
一番興味深いのは、これらが単なる販売路に留まらない点です。Googleの本質はソフト販売でなく、情報の整理と分析なのですから。次に解説するGoogleの各種Webサービスと結びついて、その可能性が花開くのではないでしょうか?
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プラットフォームごとに個別の販売路を提供 |
■Webに繋がるGoogleサービス
Googleの提供するGoogleAppEngine、GoogleAnalytics、GooglePredictionAPI、YoutubeとBuzz。ゲームと直接関係があるように見えないかもしれませんが、これらの技術は利用価値が非常に高いものです。
AppEngineを使えば、ゲーム内のユーザー行動などを記録する事ができます。これまでは専用サーバ等のインフラ整備を必要とすることが、無料で活用できる。ゲームデベロッパには凄まじい利点です。このユーザー行動を分析する事で、レベルデザインの難度調整などに役立ちます。この収集した情報をさらに活かすのがAnalyticsです。
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Googleの各無料サービスと有機的に連携する | アプリ内課金をはじめアップデートは続く |
集めたデータをGoogleAnalyticsで分析する事で、ゲーム内でプレイヤーが興味を失う場所を的確に知ることができ、ゲーム開発に費やした予算とその効果を一目瞭然にすることもできます。こうして得たデータをもとに、GooglePredictionAPIでユーザ行動を予測したり、AIの一部に使う事もできます。
最後にYoutubeとBuzzを使ったネットへの情報投稿が、プレイヤー同士を繋げる絆になります。「Call of Duty: Black Ops」にはゲームから直接プレイ動画を投稿できる機能があり、Youtubeで賑わっています。お互いのプレイを見せあうことでマルチプレイへの興味を促進させたり、動画そのものがゲームの宣伝になります。さらに、プレイ動画に広告を表示させる事で、利益を上げる事も可能になるのです。
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制作と販売手段を提供し、ゲーム開発に変化を起こそうとするGoogleの戦略 |
こうした戦略から、Googleがゲームの開発者に熱心にアプローチする理由が浮かび上がってきます。
Webの形を幾度と変えて、その地平を押し広げてきたGoogleはゲーム開発にも変化をもたらそうとしているのです。インターネットの双方向通信を活用して、より洗練されたデータがデベロッパの手に入るようにする。情報が幾重にも積み重なって行くこの形は非常に楽しみです。
イアン氏によると「Googleはゲーム開発のパートナーを大歓迎している」とのことです。Googleの大局的な戦略は、ゲーム業界の近未来においても、大きな影響を及ぼすことでしょう。イアン氏は「これらすべては、計り知れないゲームの未来に繋がっている」と楽しそうに締めくくりました。