そのEAはソーシャルゲームをはじめとした、昨今の業界の潮流をどのように捉えているのでしょうか? 「グリー プラットフォームカンファレンス2012」に登壇したEAのクリスチャン・セガストラール氏は「デジタル化が進むゲームマーケットで世界的成功を掴む」と題して講演し、同社の基本的な戦略について語りました。
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EAエグゼクティブバイスプレジデント クリスチャン・セガストラール氏 |
■元プレイフィッシュCEOが語るEAの未来
2000年代前半にコンソールゲーム業界で圧倒的な強さを誇ったEA。しかしWiiの登場で「ボタンの掛け違い」が始まります。PS3やXbox360の大規模AAAタイトルに最適化しすぎた結果、業績が急速に悪化。Zyngaなどソーシャルゲームの波にも乗り遅れました。そこで2009年にソーシャルゲーム大手のプレイフィッシュを買収。『ザ・シムズ・ソーシャル』がFacebookで第2位のゲームに成長するなど、大きな成功を収めています。
講演者のセガストラール氏は、このプレイフィッシュの共同設立者。EA買収後はプレイフッシュ部門のゼネラルマネージャを務め、2011年1月からはデジタル部門の総責任者としてエグゼクティブバイスプレジデントにも就任しました。いわば、コンソールのパッケージゲームからPC・モバイル向けソーシャルゲームへと拡大を続けるEAの渦中にいる人物です。
はじめにセガストラール氏は現在の業界を覆う変革について▽プロダクトからサービス▽売り切りから課金▽パッケージからデジタル配信▽AI相手から人間(ソーシャル)相手――という4項目で整理しました。こうした変化はコンテンツのあり方にとどまらず、既存のゲームビジネスのあり方すら大きく揺るがそうとしています。
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家庭用ゲームはモーションデバイスでユーザー層を拡大 | ニンテンドーDSやモバイルゲームで市場はさらに広がった |
家庭用ゲームを支えるプラットフォームビジネスは、任天堂のファミリーコンピュータによって誕生しました。携帯ゲーム機やモバイルゲームはユーザー層をさらに広げました。そして今やプラットフォームはクラウドとなり、あらゆるデバイスがシームレスにつながって、ユーザーコミュニティが個々のビジネス形態を越えて拡大し、ソーシャルグラフが相互接続される時代を迎えました。この状況がセガストラール氏の言う「エコシステム」です。
同氏は「変化のきっかけはアップルによってもたらされた」と語り、こうした過去に例を見ない根本的な変化に対して、素早く対応していくことが重要だと指摘しました。そしてEAはマイクロソフト(Xbox360)、SCE(PS3)、任天堂(Wii)、アップル、Amazon、Facebookで先導的な地位にいると自己分析しました。日本では知名度が低いものの、AmazonはAndroidベースのタブレット端末「Kindle Fire」を発売しており、ゲームを含むアプリも多数販売しています。
またアップル、マイクロソフト(Xbox360)、SCE(PS3)、Google、Facebook、グリーのそれぞれに対して、「ハイエンドゲームデバイス(=据え置き型)」「破壊的ゲームデバイス(=カジュアル、モバイル)」「ソーシャルネットワーク」「(デジタル流通)ショップ」の4項目でエコシステムを整理。中でもグリーはGoogleやFacebookと同じく、特定のハードウェアの存在しないエコシステムの好例だと分析しました。
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代表的なエコシステムを | マトリックスで分析 | EAは主要エコシステムに |
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良質なコンテンツを | 提供している |
■健全なエコシステムとパートナーを組みたい
続いてセガストラール氏はエコシステムに求められる条件について議論を進めていきます。まず重要なのは、かつての小売店と同じように、顧客がゲームと出逢う場所、すなわち売り場を提供すること。続いてシームレスな課金の提供と、長期的なゲームサービスのサポート。コアゲーマーとカジュアルゲーマーを結びつけ、ステップアップさせていく要素も必要です。そのうえで「EAは単一のハードウェアではなく、(グリーをはじめとした、あらゆる)エコシステムとパートナーを組みたい」と語りました。
では、こうした急速に変化しつつあるゲーム業界で成功を収める秘訣はなんでしょうか。セガストラール氏は▽少額決済▽友人関係▽クロスプラットフォームサービス――の3点をキーワードに上げました。「少額決済というと、ブラウザゲームやソーシャルゲームを連想されるかもしれませんが、実際は異なります」(セガストラール氏)。例として上げられたのが「FIFA12」のカードゲームモード「Ultimate Team」です。ここではアイテム課金モデルが導入され、プレイヤーは選手カードのパックをリアルマネーで購入して、理想のチームを作ることができます。
友人関係については言わずもがなで、ソーシャルゲームの『ザ・シムズ・ソーシャル』が上げられました。クロスプラットフォームサービスについては、海外ドラマ『glee/グリー』が、アメリカではスマートフォンやタブレット、PCブラウザなど、テレビ以外にさまざまなデバイスで視聴可能な状況を紹介。ゲームにおいても現在は個別のプラットフォーム展開に留まっていますが、シームレスなプレイ環境を整えていく考えを示しました。
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コンソールでも少額課金は進む | ソーシャルゲームは今後モバイルに拡大 | あらゆるデバイスで同じサービスを提供 |
「最後にグローバル市場で成功する要因について考えてみましょう」。セガストラール氏は、「EAはこれまでパッケージゲームの会社でしたが、今後はデジタル化をさらに進めて、コンテンツとプラットフォームの会社に進化します。そして、それを世界中で提供していきます」と語ります。一方でグローバルビジネスでは、些細な文化的衝突が思わぬ炎上をもたらす恐れがあります。そのリスクを回避するためには、ローカライズやカルチャライズ、すなわち地域市場への理解が欠かせません。その上で前述の通り、健全なエコシステムに注力していくことが重要です。
「もっとも、最後に強調したいのは、やはり『創造性とインスピレーション』が欠かせないということです。EAはクリエイティブな企業なのですから」(セガストラール氏)。もっとも「創造性とインスピレーション」は過去の話で、今日のゲームビジネスでは、それだけではグローバルでの成功は望めないとしました。重要なのは、この伝統的なコンテンツ開発手法に「データと科学」を組み合わせて、新しい体験をユーザーに届けること。そして「EAはゲームプレイを通して世界をつなげたい」と講演を締めくくりました。