最初の仕事はアポロン音楽工業株式会社。ワタナベプロダクションと文化放送の合弁会社で、日本のモーターリゼーションの成長とともに自動車内で音楽を聴くために開発された8トラックという弁当箱のようなカセットテープに歌謡曲を収録しそれを製品として販売することを生業としていました。
当然ながら、すぐにメディア小型化の波がやってきました。8トラはカラオケ用に需要が変化し、家庭用は小型のカセットテープにその座を奪われました。カセットも、その後、CDにその座を明け渡します。僕のエンタメ半生のなかで、デバイス(端末)はもちろんのこと、ずいぶんとメディアが移り変わるのをみてきました。
アポロンはアーチストがいない会社で、アイディア一発勝負のような会社でした。
ゆえに、当時ブームになってきたファミコン用の『ドラゴンクエスト』のゲーム音楽のサウンドトラックやコナミの『グラディウス』などのゲーム音源をCD化するなど挑戦的な試みを行っていたことは評価に値する仕事でした。しかし、大きく業態変換が図れなかったため、後年、バンダイに買収合併され、バンダイミュージックと社名を変更しました。最終的に2005年に会社は解散しました。その中の有志が始めたのはアニメや声優コンテンツにスポットを当てたランティスです。そのような意味ではアポロンやバンダイミュージックの遺伝子は今も何らかのかたちで受け継がれているのかもしれません。
僕がアポロンに居たのはわずか5年でした。営業を3年、制作を2年です。営業は言葉通り、レコード店舗をルートセールスし、新譜の受注を取ったり、旧譜の再受注をもらったりという仕事でした。なかにはいきなり返品を処理するところからお付き合いしたお店もあり、新人だった僕にはキツイ仕事でした。
とはいえ、あの頃の自分の経験が今でもなんらかの形で生きていますし、あの経験があったから今があると言っても過言ではないでしょう。人生に無駄なものはありません。無駄に気がつくことこそが有意義な無駄な時間だったのかもしれないと思うことがあります。
さて、人生も後半になるといろいろなことが去来します。自分自身がものづくりをするタイプではないことは明らかです。ものづくりをサポートすること、ものづくりを物心両面でサポートすることが僕自身の生き方なのだと思います。会社も起業しました。映画も製作しました。オンラインゲームも製作しました。幸い倒産もせずコンテンツごと売却しました。双方の利害が一致したということです。できれば、ものづくりに再び関わりたいと思っています。どんなかたちでもかまわないと思います。そんな気持ちから始めてみようと思ったのが「エンタテイメントの未来を考える会」というフェイスブックの公式ページです。そして人と人との出会いの場所である「黒川塾」を始める動機に至ります。
エンタメ業界は入り口や出口はあってないようなものです。できれば、自由に行き来したいものです。そして、意志のある仲間と何かを創りあげてみたいと思うのは僕だけではないと思います。
そんな自分の人生の集大成も込めてイベントを開催しています。ご興味がありましたらご参加ください。どうぞよろしくお願いします。
■8月31日 開催 「黒川塾 エンタテイメントの未来を考える会」
ゲスト 丸山茂雄・赤川良二・藤澤隆史
詳細はこちらからどうぞ。
■著者紹介
メディアコンテンツ研究家
1960年・東京都生まれ。武蔵大学卒。レコード会社を経て、株式会社ギャガコミュニケーションズ(現・ギャガ)、株式会社セガエンタープライゼス(現・セガ)、株式会社デジキューブを経て株式会社デックスエンタテインメントを起業。映画製作配給、オンラインゲーム企画開発運営に携わる。その後株式会社ブシロード副社長、株式会社コナミデジタルエンタテインメントを経て、現在は株式会社NHNジャパンにてオンラインゲームの企画開発運営に携わる。一方で数々のエンタメ産業への造詣が深くメディアコンテンツ研究家としてコラム執筆を行う。ブログもご参照ください。Twitterアカウントはku6kawa230。