ゲームラボ・カンファレンス東京で3月27日、パネルディスカッション「日本と欧米におけるゲームデザインから観た主な違いと共通点」が開催されました。パネリストはPCゲーム『Commandos saga』の生みの親で、宮本茂氏と共にスペイン最高の勲章であるアストゥリアス皇太子賞を受勲したGonzo Suarez氏、EAのJaime Gine氏、ワーカービーの小川浩氏です。モデレータはTuscany ConsultingのAvier Reyes氏が担当。日米欧のゲーム開発者による知見が共有されました。はじめに西洋と日本のゲームの違いについて、モバイルゲームの英日ローカライズとパブリッシングを手がけるワーカービーの小川氏は、「ゲームシステムは斬新でおもしろく、日本人でも楽しめるものが多い」と前置きしました。その上でローカライズ時に修正を加える部分として「日本人ユーザーを前提とした言語の翻訳」「ヘルプやチュートリアルの追加」「キャラクターやGUI・グラフィックの修正」を上げました。言語については日本語に直訳するだけでは意味が通らず、ゲームとしても楽しめない場合が多いため、「ゲーム翻訳家の一次翻訳」「ゲームに組み込むことを前提に最適化」「テストプレイを通しての監修」という3段階を経ていると解説。チュートリアルについても、日本向けに追加する傾向が高いといいます。イメージイラストやグラフィックなども日本人クリエイターに発注することが多く、ダイアログや画面遷移なども手を入れることがしばしばだとしました。「弊社では開発チームから提供を受けて、ソースコードのレベルからローカライズを行っています」一方Suarez氏は「日本のゲーマーはゲームに対して献身的で、要求水準が高い」とコメントしました。またシリアスな内容で複雑な構造を持つゲームが多いように感じるといいます。ことスペインにかんしていえば、クリエイターが若く業界の知見が乏しい点も違いとされました。もっとも、この若さが業界に新風を巻き起こす原動力にもなると指摘。日本のゲーム作りの方法論と、西洋の「若さ」を組み合わせることで、新しいゲームが生まれる可能性について示唆しました。EAでモバイル向けゲームのプロデュースをつとめるGine氏は、西洋と日本では技術面と文化面で相違があるといいます。文化面ではグラフィックのツボの違いが大きく、西洋のゲームは日本のテストプレイヤーから「ゴリラ(みたいなキャラクター)ばっかり」と言われることもあるとか。またクオリティの要求水準についても同じで、「すべてのディティールが完璧であることを要求される。西洋ではそこまで要求されないことが多い」としました。続いてトピックがモバイルシーンにおけるビジネスモデルの変化(有料ゲームから無料(F2P)ゲーム)に移りました。Suarez氏は「F2Pによってゲーマーの幅が広がった」とし、短期間でクリアできるシンプルなゲームが人気を集めた結果、カジュアルゲームからイノベーションが生まれていると指摘。その上で日本では技やスキルなど、多彩なリソースをうまく使いこなすゲームが好まれるが、西洋では力押しで進められるゲームも人気を集めていると語りました。「これは農耕民族と狩猟民族の違いかもしれません」Gine氏も「ビジネスモデルをはじめ、現在は過激な移行期だ」とコメント。変化にすばやく対応できるような体制作りと、何度も失敗を繰り返しながら正解モデルを見つけていく姿勢の重要性を指摘しました。「日本では過去数年間カードバトルタイプのゲームが流行していましたが、これからもそうだとは限りません」。例として上げられたのがジンガで、Facebookと共に急成長しましたが、モバイル化に乗り遅れて凋落したと語りました。小川氏も「フィーチャーフォン時代の高い参入障壁がスマホへの移行でなくなった」とコメントし、日本のSAPも文化やビジネス慣習などの違いなどを乗り越えて、グローバル対応を進める必然性を指摘しました。「ソースコードを見ると、独自のゲームエンジンを開発しているなど、技術力の高さに驚かされます」。特に昨年度から『クラッシュオブクラン』『キャンディクラッシュサーガ』を筆頭に、海外アプリが日本でもヒットする土壌ができつつあり、日本市場だけに最適化していていいのかと疑問に感じるといいます。ゲームを開発する上で、文化ギャップの乗り越え方についてのトピックもありました。Gine氏は「柔軟性と情熱を併せ持つことが大事」として、「現地に適応するのではなく、愛すること」「文化を尊重すること」「人の話をよく聞くこと」の重要性を訴えました。日本のチームからは、高いプロフェッショナリズムヤチームワークに学ぶ点が多いと言います。「違った文化の中で働くことで、開発者としての成長もあるのです」Suarez氏も伝統と革新を両立させることの重要性について語りました。「古いものを守りたいという気持ちだけでは、成長がなくなります」。これはゲーム開発における国際協業や多国籍チームによる開発についても、同じことがいえるというわけです。最後に会場から、いわゆる「ガチャ」システムに対する西洋ユーザーの受容性についても質問がありました。Gine氏は「西洋のユーザーはゲームを自分でコントロールしたいという思いが強く、ガチャのようなランダム性の高いフィーチャーは好まれない傾向にある」とコメント。これは『モンスターハンター』のようにモンスターを攻撃して、アイテムをゲットするようなフィーチャーでも、同じことが言えると分析しました。Suarez氏も同意で、ギャンブル性の高いフィーチャーは(ビンゴなど)西洋にもあるが、ゲームとは別モノだと考えられているとコメント。「西洋のゲーマーは原因と結果に必然性を求めたがるのです。ここがガチャのように、ランダム性の中におもしろさを見いだすことの多い東洋のユーザーとの違いです」。その上でガチャというマネタイズ手法を否定するわけではないが、何か予見性を高めるような別のシステムが必要だとしました。最後に小川氏も「海外のアプリを十数年くらい見ているが、あまりガチャのようなシステムは見ない」とコメント。その一方で昨今の日本のF2P市場の拡大から、海外のディベロッパーから「日本でアプリを売るためにガチャのようなシステムを入れた方が良いのではないか」と相談されることがあると話しました。このように海外でもガチャシステムの関心は高まっているものの、海外市場向けのマネタイズ手段としては、一般的ではないという見方を示しました。
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