本セッションでは、スクウェア・エニックス 第6ビジネスディビジョン プログラマー 黒川進一氏と、Ubitas ビジネス・デベロップメント シニアディレクター 春日伸弥氏が登壇。『ドラゴンクエストX 』クラウド版の開発工程を紹介しつつ、クラウド化における重要事項を解説しました。
まずは開発の流れが大まかに紹介されました。「実機の動作検証」「サービスインに向けた課題の洗い出し」「実装&検証」という順で行われたと言います。
最初の実機検証では、クラウドサーバーにてPC版『ドラゴンクエストX 』の動作検証が行われました。ストリーミングのプレイ自体は比較的簡単に成功したと言います。続いてサービスインに向けた課題の洗い出しを行っていきました。とりわけ大きな課題だったのは、「ゲーム認証フロー」「CCU対応」「低解像度化」「文字の対策」の4つだとコメント。
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まずゲーム認証については、オンラインゲームなのでログイン処理が必須となります。しかし、複雑なログイン処理を避けたかった。そこで「スクウェア・エニックス アカウント」と「ニンテンドーネットワークID」の紐付けさせて自動認証させることで、プレイヤーが手軽にゲームインできるよう工夫されました。
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続いての課題は「CCU対応」です。「CCU(Concurrent Users)」とは、同時接続が可能なユーザー数のことで、ゲーム実行サーバー数に、1台あたりの多重起動数を掛け算することで求められます。この値が小さ過ぎるとサービスに支障をきたしてしまい、逆に大き過ぎるとコストが肥大化してしまいます。CCUを最適化するためにまずはインテル VTune パフォーマンス・アナライザー にてボトルネックを徹底調査したそうです。あとは地道に高速化や同期処理の見直しがなされました。
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次に「低解像度化」については、単純に3DS仕様の400×240に変更しただけでは、キャラクターがボヤケてしまいます。そこで開発チームは、800×480という倍の解像度で描画したうえで400×240に縮小描画を行いました。これにより低解像度になってもハッキリと視認できるようにしました。
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最後の課題は「文字の対策」です。Windows版のフォントをそのまま使ってしまうと、どうしても文字が潰れて視認性が悪くなってしまう。そこで縮小の影響が少ないフォント“Dot By Dot”を採用し、対策を試みました。視認性は大幅に改善されたものの、それでも一部のユーザーからは「見えにくい」という声があがったため、文字ごとにサイズや間隔など個別調整を行ったと言います。
クラウド化のメリット/デメリットは?
開発者にとっては、クラウド化のメリットとデメリットが気になるところです。セッションの後半では、『ドラゴンクエストX 』クラウド版の開発チームが感じたクラウド化の長短が語られました。
メリットとして、「シンプル設計」「開発期間の短縮化」「低スペック環境でも実現可能」の3点が挙げられました。
まずメリットの「シンプル設計」については、クラッカーによりゲームクライアントを改良される危険性は少ないと言います。さらにクラウド上にゲームデータがインストールされているためシステムは比較的融通が効くそうです。
次の「開発期間の短縮化」は、セールスのうえでは大きなメリットでしょう。『ドラゴンクエストX 』のクラウド検証は2013年8月に行い、わずか4カ月後の2013年12月にはdゲーム版(タブレット)が配信開始となりました。さらに3DS版は2014年9月発売で、Windows版発売から約1年で達成されています。
「低スペック環境でも実現可能」については、端末側は主にエンコード処理のみとなるため高スペックは求められません。ゲームクライアントが動作できないスペック環境でも実現可能となります。
デメリットについては以下にように述べられました。ネットワークの安定が前提となるため画質を落とすなどストリーミング調整が必須となること、プロットフォームの制約により低解像度に合わせた表示調整が必要となること、クラウドサーバーの整備やデバック作業によりメンテナンスコストがかかること。
講演の最後に、『ドラゴンクエストX』の開発チームがクラウド化で得られた感想が語られました。マルチプラットフォーム展開はそれほど苦労がなく、もとのWindows版をうまく活用することで、開発全体に大きな負担はなかったと言います。そのうえで「『クラウド化』というと難しい印象がありますが、実際やってみてそれほど難しく思わなかったです。マルチプラットフォームの一環として、クラウド配信を考慮した設計にぜひチャレンジしてみてください」とエールを送り、セッションを締めくくった。