■現場を伝える難しさとその場にいた幸せと
本作は2013年から2015年の2年間の間、日本のインディーゲームシーンを密着取材したドキュメンタリーです。登場人物はインディーのクリエイターに限らず、メディア関係者、プラットフォーマー、大学関係者など様々。日本のインディーがどう変化して、成長していくのかを、複数の視点から描き出した内容となっております。
感想を述べる前に先に断っておきますと、筆者は本作『Branching Paths』の企画の早い段階から関わっています。いくつかの取材はその場に立ち会っていますし、登場人物の多くは知っている方々です(本誌の谷編集長も登場します)。そのため、本作の感想を客観的に述べる立場にはなく、ここでは現場に居合わせたものとしての感想が混じることをご容赦ください。
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2年間という歳月をかけて「日本のインディーシーン」という曖昧な対象と格闘した監督のアン・フェレロ氏。収録した動画のデータサイズは20TBを超えているそうです。映画は2013年から2015年という時間軸にそって、いくつもの人や場所を横断していくオーソドックスな内容になっています。クリエイターのインタビューの他にも、BitSummitやコミックマーケットといったイベントの熱気を伝えるショット、クリエイターの生活感が伺えるシークエンスなどを映した場面は非常に美しく、映像のクオリティは海外のドキュメンタリー映画にも負けないものです。
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ただし本作の内容は、実際の日本のインディーゲームシーンに触れていない人にとってはわかりにくいものかもしれません。「コミュニティ」、「同人活動」、「資金獲得」などの緩いテーマによってシークエンスをつなげていく構成は、シーンの多様性を描く反面、初めて日本のインディーに触れる人を混乱させるかもしれません。「日本のインディーゲームとは何か?」「海外と日本のインディーの違いは何か?」そういった質問に簡単な回答がないことは、同じ2年間、ライターとして取材してきた筆者ならば痛いほどわかっています。
しかしながら、本作が日本のインディーゲームを取り上げる最初の作品であるならば、もっと多くの人にわかりやすく、それがたとえ多様性を潰す形の編集であってもわかりやすくして欲しかったという気持ちは強いです。良く言えば盛りだくさん、悪く言えば雑多な印象を与える本作。この2年間、日本のインディーゲームに触れることがあった人にとっては、それは「思い出のアルバム」のように映り、否定しようのない感情が込み上げてきます。ですが、日本のインディーゲームにこれから触れる人には全体的にぼやけた印象を与えるかもしれません。
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とはいえ、情報量が多いことのメリットもそれなりにあります。登場するクリエイターやゲームの名前をチェックしていくだけで、ここ数年の日本のインディーシーンの主要な作品を知ることができるでしょう。またチェックしたイベントを調べて、今後のインディーシーンに積極的に触れていくことはできるでしょう。情報は与えられたのです。後はあなた次第なのですと。
その点では「シーンを理解する安易な方法などない」のかもしれません。特に人間と人間がその場で触れ合って成り立っているインディーゲームのシーンは、実際に現場に足を運ぶことの重要性は強く感じます。2年間の間、様々な場所で監督のアン氏と接する機会があった筆者は、何よりも「日本のインディーゲームシーン」という現実をドキュメンタリー映画によってまとめることの難しさに共感しました。
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クリエイターが振り返る日本のインディー
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試写会の後に開催された座談会では、本作のパブリッシングを行うPLAYISMの水谷俊次氏の司会のもと、監督のアン・フェレロ氏の他、登場したクリエイターからOnion Gamesの木村佳朗氏、NIGOROの楢村匠氏、『Downwell』のもっぴん氏が登壇。映画の感想から国内外のインディーゲームシーンの違いなどについて語られました。
本作には登壇者の3名のクリエイターは深く関わっています。木村佳朗氏はOnion Gamesのブログのビデオ制作などでアン氏と関わり、本作の企画が始まるきかっけを作ったそうです。楢村氏は本作の収録の間に『LA-MULANA2』のKickstarterキャンペーンを実施、26万ドルの資金調達に成功しています。もっぴん氏は初めて『Downwell』のプロトタイプを人前で発表した瞬間から、Devolverとの契約、IGFでのアワードの獲得、そしてリリースまでのすべてを本作が追っています。そういった関わりもあって、感想を求められたクリエイター一同、自分たちの日記を見ているような気分であったと答えています。
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また登壇者はそれぞれGDCやIGFなどの海外インディーシーンに直接触れたことがあり、日本と英語圏の違いにも触れられました。木村氏と楢村氏はIGFの参加した思い出から、その熱気は人をゲーム制作に向かわせるほどのものだと述べています。またもっぴん氏はAAAであろうがインディーであろうが得点をつけてレビューする手厳しい海外メディアがあってこそ、海外のインディーゲームは成長するのではないかとコメント。しかしながら、本作が撮影を開始した2013年頃から、日本のメディアでもインディーゲームを徐々に扱い始め、当初からは信じられないほど増えたと壇上では振り返られていました。
たしかにBitSummitが始まった2013年はひとつの転換点であったように思います。TGSでもインディーコーナーが設けられ、インディーのイベントが少しずつ軌道に乗り始めました。さらに本誌も含め多くのメディアでインディーゲームのコーナーを増やし始めました。その意味では『Branching Paths』はクリエイターと同時にインディーをめぐるメディアやライターである我々を扱ったドキュメンタリーとも言え、繰り返しになりますが、他人事ではない作品であったように思えます。
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