ゲームの社会的価値を、実践を通じて証明する
--ユニキャンの立ち上げの目的を教えてください。
金氏:まずNTTe-Sportsのミッションが大前提にあります。ゲームを通じて、新たな体験やつながりを創出し、eスポーツの文化を正しく広め、そこで活躍できる人材を育成、そして豊かな暮らしを作っていく。我々は、ゲームの社会的価値を、実践を通じて証明していきます。我々社員もゲーマーです。ゲームを通じて人は暮らしを豊かにできる、成長できるという自らの体験が起点になっています。
eスポーツは今、人々の生活に根付きつつあります。ただ、ゲームを教える、ゲーマーを育てるというインフラは全国的に整備されていません。エリアによっては、プロチームや専門学校で学ぶこともできますが、誰でもゲームの教育を受けることができるインフラが必要です。
また、よりよいゲームライフを浸透させたい。コロナ禍もあってゲームと向き合う時間がかつてなく増え、ゲームとどう向き合えば良いのか悩みを抱える方が数多くいます。特に子どもたちには、ゲームライフバランスを指導することが必要です。

影澤氏:やはりゲームに対するネガティブなイメージを払拭する、サブカルチャーからカルチャーにもっていくことが重要です。教育界からもしっかりとゲームが支持されることが必要だと思います。

ゲーム教育とキャリア教育が2本柱
--「ユニキャン」のサービス概要を教えてください。
金氏:まず「ゲーム教育」ですが、単にゲームスキルを伸ばすことよりも、ゲームに真剣に取り組む経験を通じて、課題解決能力やコミュニケーション、マナー、ゲームライフバランスなどを身に付けてもらうことを目的としています。
オンラインビデオ会議ツールで少人数の個別指導をしていきますが、指導の前にまずカウンセリングがあって、何のゲームをやるのか、何を目指したいのかをヒアリングします。プロゲーマーになりたいのか、友達に勝ちたいのか、ちょっとやってみたいだけなのかなど目指すものによって、教える強度や内容も違ってきます。そのあとに、目的や実力に応じて先生を決めます。
実際の指導では、知識や実力レベルの確認、目標設定をしたうえで、ゲームのコーチングに入ります。生徒がプレイを見せて指導を受ける、先生が模範を示す、時には生徒がリプレイ動画を持ってきて先生に見てもらう形などがあると思います。宿題を出すこともあるでしょう。
また、1日の終わりには目標に対してどこまで行けたかを記録し、モチベーションも重視します。日程管理も自分で自分のサイクルを決めていくように、先生と一緒にやっていきます。用意している受講プランは、1回1時間、週1回から最大で週2回です。指導の回数は、目標とのバランスを見ながら設定します。
「キャリア学習」は重要な位置付けです。今、子どもたちのなりたい職業では、1位がYouTuber、2位がプロゲーマーという話もありますが、これは少し甘い認識だと思います。楽しみながらお金がもらえるならいいといった感覚です。プロゲーマーには実際にどんな努力が必要なのかを、しっかりと教えていきたいです。中高生には、ビジネス的な観点も教えられたらいいと思います。
こうした内容は、全体を集めたセミナーなどで、実際にプロゲーマーや社会人をしながらゲーム配信で稼ぐ人なども呼んで、ゲームと生涯付き合っていく方法やさまざまなキャリアがあるということを教えていきたいと考えています。

プログラミング講座で、ゲームを通じた人材教育
--ゲームを題材としたプログラミング講座について教えてください。
金氏:プログラミング講座については、教材の制作や小中学生向けの普及活動を行っている有識者の方たちと進めています。講座は2パターンあって、まずビジュアルプログラミングによってゲーム内の操作をプログラミングするもの。たとえば、ゲーム内の機能を使って、プログラミングブロックのようなものを組み合わせて、操作を自動化するといったことが可能なタイトルがあります。そういったゲームを用いて、プログラミングの概要や考え方を学ぶことができます。
もうひとつは、実際にゲームそのものを作るというアプローチです。こちらは、ゲームのソースコードを触り、欠けているコードを入れていくことでゲームそのものを創っていく、といったもので、実際にそのような教材を提供しているゲーム会社もあります。実際にプログラマーやエンジニアがどういう仕事をしているのかを実践的に学ぶことが可能です。
これらのプログラミング講座は、通常の個別指導とは別にセミナーの形で開講しようと思っています。ゲームを通じた人材教育がカリキュラムの核にありますが、それはゲームスキルの獲得だけではなく、自分の方向性を見つけていくものです。プロになりたい、チームアナリストになりたい、ゲームを作りたい、配信をしたいなどの専門化されたニーズが出てきたときの受け皿として準備を進めています。
他にもイベント運営などの講座を検討しています。イベント運営には、ディレクターやテクニカルスタッフなど多様なスタッフが必要です。この「eXeField Akiba(エグゼフィールド アキバ)」とも連携してイベント運営を学びます。ここには最新機材が揃っていて、自分で照明も動かせますし、配信ももちろんできます。ここを教室としてやっていきたいと考えています。
eスポーツで獲得できる力やメリットに注目が集まる
--ユニキャンで獲得できる力はどういったものでしょうか。
金氏:eスポーツで課題解決力やコミュニケーション力、瞬時の判断力、マルチタスクの力が上がったという海外の研究結果もあり、それらはユニキャンの目指すものと一致しています。
また、ユニキャンではコミュニケーションや礼儀を重視しています。ゲームで本気に強くなろうとすると、目上の方と絡むことも増えますし、その中で強くなるには相手との関係をきちんと作らないといけません。ユニキャンのホームページには、こいし♪選手という小学生のときに国体で優勝した選手の話が掲載されていますが、彼もお父さんの影響で礼儀はしっかりしています。
近年、海外ではeスポーツの部活の実績が奨学金のスコアになったり、就職に有利になったり、国内の学校でもeスポーツを取り入れて課外活動が多様化したり、STEM人材が育ったりなどさまざまな声があります。
講師の存在がゲームライフバランスを導く
--子どもたちとゲームの関わりについてはどのように捉えていますか。
金氏:ゲームは遊びとして楽しくずっとプレイできるため、夢中になりやすく生活のリズムを崩しやすい側面はあると思います。そうした場合は、家庭内でのルール作りも必要だと思いますが、単純な時間制限だけでは、子どもの欲求を抑えられないケースもあると思います。
ゲーム依存とは、自分で欲求をコントロールできない状態です。たとえば、ゲームをやりすぎて食事も宿題もままならない。この解として、ゲームを肯定しながらコントロールする力をつけるという方法があると思います。具体的には、ゲームの分野で尊敬できる“師匠”といった存在が、ゲームと生活のバランスを指導していく。家庭とは違う、共感できる立場の人の言葉は、すんなり聞き入れられる場合があると思います。
影澤氏:今、子どもたちの間では、ゲームに関するさまざまな問題が起こっていますが、一緒に好きなことをやっている仲間だということ、相手を尊重することなどを、きちんと理解できることが大切です。その学びにもユニキャンは役立つと思います。
学校では、ただ禁止するのではなく、ゲームを通じて大事なことが学べるということを理解したうえで、子どもたちに何が大切かをきちんと説明していただくよう連携がとれると良いなと思います。
--“師匠”ともいえる講師は、どういった方たちでしょうか。
金氏:まずは大学生ですね。実際に日本学生esports協会という大学生の団体と連携して募集しています。彼らはプロゲーマーにはならなかったものの、ゲームと学業のバランスを両立しているからこそ今の立場にあります。有名な大学に在籍する講師も多数おりますので、彼らから単にゲームばかりではなく学生生活や人生においてプラスになることが教われるなど、いろいろな広がりも期待できます。
もうひとつは、圧倒的に実力のある方々。実は、あるゲームの世界ランキング上位の人、大きな大会での上位入賞者などが講師に応募してくれています。ただし、ゲームしかできない人、挨拶できない人、ゲームはうまいけど…みたいな人は、講師として採用しません。
ゲームを教育に活用して、さまざまな課題を解決
--今後の展開などを教えてください。
金氏:NTTe-Sportsでは、ゲームを活用して地域の活性化に資するためのソリューションを提案しています。その中では、ユニキャンで培ったノウハウや講師を活用していくことも想定しています。自治体と連携してeスポーツをどのように展開するのか、そのための通信環境や機材の環境整備、大会や講師の紹介といった部活のサポートなどをワンストップで提供しようとしています。また、eスポーツを題材とした大学生や社会人の交流の場を作り、就活に役立ててもらったり、コミュニケーションを作って隠れた才能を発掘したりといったことも考えています。
影澤氏:eスポーツの現場を支える、映像配信や編集、音響などの仕事は、他のエンターテイメント、たとえば演劇やテレビなどの仕事にもつながっていきます。必ずしもゲームだけではない部分を、さらに広げて見せていきたいと思います。
金氏:ユニキャンでは、会員同士の大会やパブリックビューイング、実際に大会会場に行くなどといった企画も実施します。コミュニティとして機能させて、人と人とがつながることで生まれる学びや気付きを取り入れて、ユニキャンで学ぶ人が総合的に学習を進められる環境作りをしていきたいと考えています。
--学校との連携はありますか。
金氏:これはおおいにありまして、たとえば、専門学校ならば、アキバの施設に来ていただいて最新の機材で授業を行ってもらう。講師も、設備を作った人など、我々がつながりのある第一線で実際に仕事をしている人をアレンジすることもできます。小中高ならば、情報教育の時間で、施設に来ていただいてユニキャンのコンテンツを使い、eスポーツや周辺のビジネスを学んでいただく、スキルをつけていただくという展開はあると思います。
影澤氏:修学旅行や職業体験も含めて、まずは触れてもらうことが大事だと思います。
--あらためて、このサービスを進化させていく思いなどをお聞かせください。
金氏:ゲームに夢中になる子どもを見て、親が抱える心配を一言で言うと、この時間は無駄じゃないかということかと思います。そこで、ゲームに費やしている時間をポジティブに良い方向に組み替えていきませんかというのが、ユニキャンの取組みです。
今まで漫然とゲームをやっていた時間を、講師とともに過ごす時間に置き換えてみる。すると、楽しさはそのままに学びが増えるのではないか。動画を見ているよりは、プレイしたほうが得る物がある、1人でプレイするよりは先生と一緒のほうが学びがある。一度、本気でやってみましょうということですね。
影澤氏:ゲームに対する固定観念を崩したいです。取り組み方によって、その体験が生きて行くことを学んでほしいと思います。
--影澤さんご自身がゲーマーや配信でご活躍されて、今、会社でのキャリアを実現しているということで、子どもたちや社会人にとってもロールモデルになりますね。
影澤氏:私をはじめ、このプロジェクトのメンバーはみんなゲームが好きです。そして、ゲームをやりながらも社会人としてきちんと仕事をしています。その意味ではみんなロールモデルといえますね。

--ありがとうございました。
影澤氏や金氏の話から感じたのは、先入観でゲームは悪だと決めつける前に、教育や産業におけるeスポーツの存在感の高まりや、今後の発展をポジティブに受け取ることが必要なのではないかということだった。子どもたちが自発的に学びに取り組む環境をゲームが切り開いていく。日本の教育を変革する可能性すら感じる「ユニキャン」を、今後も注目したい。