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2023年にリリースされた完全新作タイトルのなかで、『Hi-Fi RUSH』は新鮮な驚きを持って迎えられたひとつではないでしょうか? コンボを叩きだすスタイリッシュアクションに、音楽のリズムを組み合わせたゲームデザインで、ナイン・インチ・ネイルズやナンバーガールなど著名アーティストの楽曲によるゲームプレイはさまざまな部分で話題となりました。
そんな『Hi-Fi RUSH』はどのようにして企画・開発されたのでしょうか? CEDEC 2023では講演「『Hi-Fi RUSH』:チャイでもわかる「リズムアクション」ができるまで」にて、本作の開発秘話が語られています。ディレクターのジョン・ジョハナス氏と、リードゲームデザイナーの山田政明氏が登壇し、音楽とアクションを混ぜ合わせる秘訣が語られました。
新たなリズムアクションを生み出そうとする初期
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そもそもの『Hi-Fi RUSH』は、2017年に『サイコブレイク2』がリリースされた直後から開発がスタート。実に5年以上に及ぶ長い開発期間をかけたタイトルでもあります。
ジョハナス氏は本作を企画した理由として、Tango Gameworkには代表作である『サイコブレイク』シリーズで「ホラーゲームだけのスタジオ」というイメージがあったため、違う方向のプロジェクトが必要だったと説明しました。
そこでジョハナス氏は「カラフルで、派手なリズムアクション」という、同社のイメージと180度は違う企画を提案します。「ゲーム世界のすべてが音楽に合って、自由なアクションができるゲーム」という構想を社内にアピールしました。
しかし周囲は「可能性があるし、面白そうだけど作れるのか?」と疑問を持っていたといいます。Tango Gameworksで作ったことのないゲームであり、会社から開発のGOサインが出るかも悩ましい状態でした。
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そこでジョハナス氏はよりGOサインを出してもらうのに説得力の高い材料を出そうと、『Hi-Fi RUSH』のプロトタイプを開発。講演中ではそのときの動画も公開されました。Unreal Engine 4で開発されており、この段階で「音楽のリズムに合わせ、攻撃のアクションを当てていく」という本作の基礎ができあがっていました。
プロトタイプ版はジョハナス氏の他にリードプログラマーの2人で作られ、開発途中でキャラのモーションやVFX、サウンドなどを他のスタッフに手伝ってもらったとのことです。このプロトタイプ版を作るのにも、約9か月ほどの時間をかけていました。
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ジョハナス氏は、プロトタイプ版の開発時点で「リズムゲームと純粋なアクションとの違い」についても考えさせられていました。
そもそもリズムゲームは音楽を演奏するかのようなプレイが魅力ですが、その実、リズムに合わせるためにゲームプレイの自由さが少ないことがほとんど。そのため、遊びの制限が多いジャンルでもあるのです。筆者の私見ながら、近年はアクションやシューティングにリズムゲームの要素が加えられたインディーゲームがたくさんリリースされていますが、それらを振り返っても「思ったよりも音楽にノる楽しみ以上にゲームプレイの制限が強すぎて、面白さを阻害している」と感じることが多く、音楽要素を絡めたゲーム開発の難しさを痛感させられたものでした。
一方のアクションゲームはゲームプレイの自由度は高く、制限もほぼないジャンルです。ジョハナス氏はそれをリズムゲームと絡ませるために、『Hi-Fi RUSH』は「ゲームプレイの自由度はリズムの要素を持っていても高めにして、遊びの制限はないように感じさせたい」と開発目標を語りました。
そのポイントとして、リズムに合わせたアクションの成功と失敗の感覚を薄くすることを挙げています。リズムゲーム(またはその要素を持つ他ジャンル)はリズムのタイミングから外れたプレイがそのままゲームの失敗に直結しますが、『Hi-Fi RUSH』においてはリズムに合っていなくてもそのままプレイが続行できるようにしているのです。
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『Hi-Fi RUSH』のゲームデザインの基本として、まず「ゲームのロジックがすべて音楽のBPMの速さに合わせていること」が挙げられました。これはキャラのアニメーション、背景やUIの動きがすべてBPMのスピードに対応しているというものです。
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続いてポイントに挙げられたのが「音楽的なインパクトから逆算して作る」ということでした。
そのひとつがアニメーションです。たとえばプレイヤーが攻撃ボタンを押したとき、リズムの拍にぴったりあったタイミングならば、そのままのアニメーションが展開されます。しかし、リズムからズレた場合はアニメーションの速度を変化させ、拍に合わせて補間する仕様となっています。こうした仕様は講演中では「タイミング補間」として語られています。
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これはプレイヤーがどのタイミングで攻撃しても、ゲーム中のリズムに合うようにするシステムであり、「思った以上にゲームプレイを遊びやすくし、ポジティブなゲームループが生まれた」とジョハナス氏は説明しています。
そのゲームループとは、リズミカルなゲームプレイを実現するものです。まず拍に合わせて攻撃ボタンを押すと1拍~2拍後に攻撃が始動し、必ず拍の単位で当たるようになっています。続いて攻撃が当たるタイミングに合わせて再び攻撃を入力すれば、ジャストタイミングが発生するというリズミカルなプレイになるわけです。
「攻撃が当たるタイミングこそが、リズムの拍にあわせるリマインダーになる」とジョハナス氏は解説。しかしリズムからズレた攻撃をしたとしても、タイミング補間によって攻撃は拍単位で必ず当たるようになるため、リズミカルなゲームループに戻りやすくしています。
これにより、プレイヤーは音楽的なニュアンスを気にしなくても、音楽的に遊ぶことができるようになったといいます。