【Duolingoとは】無料の言語学習サイトであると同時に、クラウド型の文章翻訳プラットフォームでもある。ユーザーは言語を学びながら、Webサイトやその他の文章の翻訳に実際に参加することができる。2011年12月にサービスが開始され、ユーザー数は300万人以上。現在は英語とスペイン語、ポルトガル語、イタリア語、フランス語でサービスが提供されている(英語以外の言語のサービスでは英語だけを学習できる)。英語版サービスではスペイン語、フランス語、ドイツ語、ポルトガル語、イタリア語を学習できる(中国語も追加される予定)。
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■1. 学習を始める
サイトにアクセスすると、最初に次の画面が表示されます。最近流行のシンプルでわかりやすいデザインですね。残念ながら日本語には対応していません。Facebookアカウントかメールアドレスから登録できます。
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登録後にどの言語を学習するか選択します。今回は英語でスペイン語を学んでみましょう(もちろん、後で他の言語を追加することもできます)。
スペイン語を選択すると、次の操作説明画面に移りました。単語の上にカーソルを移動させると、その単語の意味が表示されます。親切で分かりやすいですね。課題を達成すると、下の部分に緑のメッセージが表示されて次に進めるようになります。
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次の画面では、課題としていきなり英文をスペイン語に訳せと言われました。まだ何も勉強していないのに。でも大丈夫、カーソルを単語の上に重ねるとその訳が表示されるのでした。これをそのまま入力するだけなので楽勝です(英語とスペイン語は基本的に語順が同じです)。
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■2. 日々の学習
チュートリアルが終わると、次のようなトップページが表示されます。
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自分が今学んでいる言語の学習状況を、この画面から確認することができます。右上にはレベルと獲得ポイント、学習した単語数、連続学習日数などが表示されています。
このページで注目すべきはその左側です。RPGなどのゲームでよく使われる、スキルツリーと呼ばれるシステムが採用されています。上から線でつながれた順にスキルを獲得(文法や単語を習得)していき、一番下まで到達できればスペイン語の中級レベルの実力が身に付くようになっています。
途中にある黄色い鍵穴のマークはショートカットポイントです。その言語の基礎をすでに理解している場合は、ここからショートカットテストを受けることができます。挑戦可能回数は3回のみで、無事に合格できればその場所から学習を始めることができます。スキルツリーの説明はここまでにして、早速スペイン語のスキルを獲得してみることにしましょう。
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まずは最初のスキル、基礎文法からです。男性名詞と女性名詞、アクセント記号、二人称単数形、動詞の活用などのスペイン語の基本について(英語ですが)説明されています。3つのレッスンに分かれているようですね。それではレッスン1からスタートです。
最初は次のような形式の単語クイズです。画像をヒントに男性(the man)を意味するものを選びます。答えは「el hombre」です。まずはこうやって新しい単語を学んでいきます。
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次は、先ほど学んだ単語を自分で訳していくという問題です。分からない単語があればカーソルを重ねて意味を確認できます。ちなみに「Una mujer」の訳は「A woman」です。
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適時、ポップアップ表示によって新たな文法事項が説明され、それをヒントに英語→スペイン語、スペイン語→英語の訳を考えていきます。その他にも、スペイン語の音声を聞き取る問題や(マイクがあれば)自分で発音する問題もあります。右上に表示されているハートマークはライフポイントで、一問間違えるごとに減っていきます。ハートが残った状態で全問を終えるとレッスンクリアで、10ポイントとボーナス(残っていたハート数)を獲得できます。
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今回は一問ミスだったので無事にクリアでき、13ポイント獲得しました。ポイントが貯まって黄色いバーが右端までいくとレベルアップします。また、レッスン1をクリアしたことで次のレッスン2が解放されて、先に進めるようになりました。
通常のレッスンは、このような形で進んでいきます。他にも単語練習モードや復習モードが用意されていて、学習者の弱点を重点的に出題してくれます。また、Facebookから友達を招待して獲得ポイントを競うことができるなど、モチベーションを高める工夫が随所に見られました。このように、必要と思われる機能は一通り揃った便利なサービスになっています。
■3. ゲーム要素分析
Duolingoは、システム面やデザイン面で非常に洗練されたサービスであることが分かりました。では、その中でゲーミフィケーションの概念はどのように使われているのでしょうか。ここで確認してみましょう。
・スキルツリー
Duolingoのスキルツリーを見れば、自分が今どのくらいの実力で、次に何を学習すべきかが一目でわかります。これは学習課程の【可視化】です。とはいえ、可視化だけならほとんどの学習教材に導入されています。目次や達成度表は、学校の教科書やドリルなどでもおなじみです。
スキルツリーはただの可視化ではなく、「能力の獲得」や「課題の攻略」をユーザーに強く意識させるための仕組みです。紙の教材ではなくWebサービスであるDuolingoは、表示の変更や制限の解除などの工夫を柔軟に行うことができます。最初は基礎のレッスンしか受けられなかったのが、一つ一つレッスンを「クリア」してスキルを「習得」することで次に進めるようになるのです。スキルツリーによって【達成感】が刺激され、次々とスキルを習得するのが楽しくなります。
・ポイントとレベル
ゲーミフィケーション施策の定番要素である、ポイント(経験値)とレベルも導入されています。レッスンや復習をするたびにポイントが獲得でき、着実にレベルが上がっていくので毎日続けるモチベーションになります。Duolingoでは経験値獲得やレベルアップ時のアニメーションと効果音も洗練されており、細かいところまで作り込まれているのがわかります。また、覚えた単語数や連続学習日数なども表示されています。
このように自分の行動が可視化される仕組みは【フィードバック】です。自分が達成した成果をアニメーションや表示として目にすることで、モチベーションが刺激されます。ところで、「ゲーミフィケーション施策とは、ポイントやレベルをただ導入すればいいのだ」という誤解がよくありますが、そうではありません。大きな目標(これについては後述します)へと向けた設計の中にうまく取り入れられた場合にのみ、この事例のようにユーザーに内的な動機付けを促すことができるのです。
・クイズとライフポイント
すべてのレッスンがライフポイントのあるクイズ形式になっているのもゲーム要素と言えるでしょう。答えを間違えるたびにハートが減ってボーナスポイントが少なくなり、最後にはレッスンをクリアできなくなってしまいます。常に緊張感を持って問題に取り組むため、高い集中力を維持したまま学習を続けることができます。
これは【チャレンジ】の仕組みと言えるでしょう。自分がただ問題を解いて学習しているのではなく、レッスンのクリアという目標に向けて挑戦しているのだという意識が学習効果を高めてくれます。そして、Duolingoではすべてのレッスンがこのクイズ形式で行われているのです。
・チュートリアルとナビゲーション
かゆいところに手が届くチュートリアルとナビゲーションもゲーム要素の一つです。分からない単語があれば、そこにカーソルを合わせるだけでよく、新しい文法や注意事項は逐一説明してくれます。不正解の場合には、どこをどう間違えたのかも即座に教えてくれます。これらの機能によって、難しい問題でもやってみよう、間違えてもいいからとにかく回答してみよう、という気持ちになります。(先述のライフポイント機能との関係で、4回以上間違えてしまうとアウトですが。)
以上のようにDuolingoは、【可視化】や【達成感】、【フィードバック】や【チャレンジ】などの仕組みをゲーム要素として導入することで、人間の心が本来持っている「新しいことを知りたい」「新しい能力を身に着けたい」といった潜在的な欲求をうまく刺激しています。内的な動機づけを活用して学習を楽しいものにしているという点で、Duolingoは教育における見事なゲーミフィケーション事例と言うことができます。
そしてさらに、Duolingoにはもう一つ面白い特徴があります。それは言語を学習しながら実際のWebサイトの翻訳活動にも参加できるということです。他の人が訳した文章を原文と見比べてチェックすることもできるし、もちろん自分で翻訳することもできます。参加すればちゃんとポイントも獲得できるようになっています。この機能ができた経緯などについては、Duolingoの開発者が自ら面白く解説している動画があります。
(http://www.ted.com/talks/luis_von_ahn_massive_scale_online_collaboration.html)
詳しくは動画を見ていただきたいのですが、Duolingoを作ったLuis von Ahn氏は、CAPTCHAやReCAPTCHAの開発における中心人物です。これらは、ユーザー登録時に判別しにくい文字の画像を表示し、それを正しく入力させることで、コンピュータプログラムではなく本物の人間が登録しようとしているかどうかを確かめるための仕組みです。インターネットを日常的に利用なさっている方なら、少なくとも一度はお世話になったことがあるでしょう。ReCAPTCHAとはCAPTCHAの改良版で、人的リソースを用いて行われる文字認証のプロセスの10秒間を積み上げて、昔の書籍の電子化を進めようと開発されたものです。そしてDuolingoも、ReCAPTCHAと同じような思想から開発されました。具体的に言うと、Duolingoでは、大量のネットユーザーの外国語学習時間を活用して、ウェブサイトを各国語にローカライズしようとしているのです。
このような、「個人の小さな行為を集めて、社会の変革に役立てる」という大きな目標もまた、広義の意味でのゲーム要素と言えるでしょう。つまり、デシが語るところの、【関係性】であり、これによって人は内的に動機づけられるわけです。
そんなDuolingoの学習効果については大変興味のあるところですが、実際に次のような調査結果が出ています。
Duolingoでスペイン語を勉強すると、大学やRosetta Stoneよりも効果的?という調査結果
実際に私が体験してみた感想としても、世間に出回っているあまたの外国語教材と比べて、断然優れているという印象を持ちました。私はかつて大学の授業で、ごく一般的な教材を使ってスペイン語を学習しましたが、明らかにDuolingoの方が学習効果は高いです。しばらく使っているうちに、スペイン語の文章を当時よりも速く正確に理解できるようになりました。当時こんなサービスがあったなら、もっと楽しく効率的にスペイン語を身につけることができていたでしょう。さらに、PC版だけでなくスマートフォン版も用意されているので、通勤時間や昼休みといった空き時間にも語学学習を楽しむことができ、全体的にとても完成度の高いサービスになっています(日本語に対応していないのが大変残念です)。この記事を読んで興味を持った方は、ぜひ一度Duolingoのゲーミフィケーション効果を体験なさってみることを強くお勧めします。