8月21に開催されたCEDEC2013にて、大規模アンケート調査に基づいたフランスにおける日本ブームの実態が報告されました。報告はフロラン・ゴルジュ氏とアン・フェレロ氏の2名のフランス人によるものです。まずは報告者の二人の自己紹介がなされました。フロラン・ゴルジュ氏は日本のゲーム研究で著名なフランス人です。任天堂の歴史を描いた『L'Histoire de NINTENDO』という書籍を執筆し、雑誌『ニンテンドードリーム』で連載を行っております。アン・フェレロ氏は6年前からNolifeというフランスのギーク&オタク向けのケーブルチャンネルの番組制作に関わっています。番組では日本のゲームを含むサブカルチャーを取り扱っているそうです。まずゴルジュ氏が、フランスにおける日本ブームについてアンケート結果をまじえ、簡単に説明しました。現代のフランスで日本のコンテンツが大人気であるのは事実です。フランス人のゲーマーを対象にしたアンケートによると、「日本文化に興味がありますか?」という質問に対して、7割の人が「非常に興味がある」と応えています。そして、「日本の何が好きですか」という質問に対しては、1位がゲーム、2位が漫画、3位がアニメという回答になっています。これらは特に日本が好きなフランス人ではなく、ゲーマーを対象としたアンケートでこういった結果が得られています。フランスにおける日本ブームの歴史的変遷しかしながら、現在のフランスの日本ブームが始まったのは、実はここ最近のことだとゴルジュ氏は指摘しています。もちろん、19世紀にはジャポニズムと呼ばれた日本ブームがありましたが、これは浮世絵が絵画に影響を与えたくらいのものであり、一時的なものでした。実際のところ、フランス人にとって第二次大戦以降の日本に対するイメージはせいぜい「経済大国」というものでしかなく、日本文化に対する理解もなかったと、ゴルジュ氏は説明します。では、現在の日本ブームは、いつ発生したのでしょうか。ゴルジュ氏によれば、90年代頃まで遡ることはできると説明します。またフェレロ氏は、フランス人にとっては「アメリカン・ドリーム」が80年代で終わったのに対して、90年代から「ジャパニーズ・ドリーム」が始まったと説明します。90年代の日本ブームの背景には、70年代後半に放映されていた日本のアニメで育ったフランスのオタク第一世代の影響が強いそうです。当時の日本のアニメは非常に安価に買い取られ、フランスのテレビ局で放送されていました。『リボンの騎士』や『ジャングル大帝』といった日本人にも馴染みのあるアニメも放送されていましたが、特に人気があったのが『UFOロボ グレンダイザー』であり、『ゴールドラック』というタイトルで放送されていました。そのため、当時のアニメで育ったフランスのオタク第一世代は「ゴールドラック・ジェネレーション」と呼ばれているそうです。さらに78年から始まった『クラブ・ドロテ』というテレビ番組は、「みんなのお姉さん」の愛称で知られる歌手、女優のドロテが進行する日本のアニメチャンネルは圧倒的な人気を獲得します。『ドラゴンボール』、『聖闘士星矢』、『セーラームーン』といった人気アニメはこの番組で放送され、週に30時間の放送を行いながらも、視聴率も50%を超える超人気番組になりました。この『クラブ・ドロテ』で育ったフランスのオタク第二世代は「ジェネレーション・ドロテ」と呼ばれているそうです。『クラブ・ドロテ』のファンクラブ会員は70万人、ドロテは東映の戦隊モノにも出演しているそうで、日本文化をフランスに普及させたのキーパーソンです。しかしながら、このような日本のアニメブームは長く続きませんでした。ひとつには日本のアニメの暴力表現がフランスで社会問題として扱われたことにあります。保守的な大人や政治家からバッシングされ、『クラブ・ドロテ』も批判のやり玉に上げられました。暴力表現はカットされたり、改変されたりした結果、『北斗の拳』などはコメディ作品として扱われるような事態になったそうです。さらにフランス文化を守ろうとする保守主義もこの傾向を助長して、フランスで制作された作品を放送することを義務付けた法律などが成立します。日本のアニメの値段も高くなったことも手伝い、90年代後半からアニメの放送数は減っていきました。しかしながら、日本のアニメで育った世代は、アニメとなった原作漫画をフランスで出版すること漫画ブームを引き起こしました。多くの熱狂的なアニメファンは日本に訪れ、漫画を買い込み、フランスの出版社に持ち込んだそうです。当時の日本の出版社も簡単に版権を売ってくれたため、数多くの漫画が翻訳され、フランスで出版されました。アニメの放送が減ったことに対して、フラストレーションが溜まっていたフランスのオタクたちは、アニメを買い付け、漫画を翻訳し、同人誌を制作するようにまでなったそうです。フランスのオタク第一、第二世代は、日本の戦隊モノに対するオマージュとして『フランスファイブ』という特撮動画まで作ってしまいました。会場ではその一部が公開されましたが、長い制作期間がかかっただけあって、特撮ものとしてのクオリティは非常に高かったです。YouTubeで日本語字幕付きで公開されているので、ぜひとも検索して見ていただきたいです。現在のフランスでの日本ブームこのようなフランスのオタクたちの熱心な活動の結果、90年代後半から現在までつながる日本ブームが発生しました。漫画やアニメをテーマとしたフェスティバルが数多く開催され、99年には「ジャパン・エキスポ」が始まりました。最初の来場者数は3200人でしたが、今年の来場者数はなんと23万人。爆発的な日本ブームが発生しています。会場ではジャパン・エキスポのPVが公開されましたが、ゴルジュ氏によれば、雰囲気はコミケより東京ゲームショウに近いそうです。現在では、漫画やアニメだけに限らず、J-POPからヲタ芸、弓道といった幅広い日本文化が紹介されています。岩田聡氏、野村哲也氏、坂口博信氏といったゲーム業界の著名な方も招待されています。さらに現在の日本ブームはオタク文化だけを扱ったものではありません。フランスの地下鉄には、沖縄や京都といった日本の観光地のポスターが貼られ、「より身近な日本」といったキャッチコピーが付けられています。また日本美術への関心も再燃しています。和食も当然ブームの一部になっていますが、中でも寿司ブームは「残念なほど」加熱しています。というのも、寿司職人の9割は日本人ではなく、日本ではとても寿司とは考えられない料理が販売されているからです。ジャパン・エキスポでは、たこ焼きやお好み焼きといった料理も出展されており、非常に高い値段にもかかわらず行列ができているそうです。また、「お弁当」もブームになっており、レシピや弁当箱が販売されています。もちろん、お弁当以前に西洋にも「ランチボックス」は存在しましたが、いまでは「ベントー」という言葉はフランスでも通じるそうです。また日本文化に影響を受けたフランスの新しい表現も産まれており、フロラン氏はそれらを「新ジャポニズム」と呼んでいます。具体的には、昔のフランス産アニメのキャラクターデザインは、『タンタンの冒険』などに見られように目は小さいものでしたが、最近は日本の影響を受けて目が大きいキャラクターデザインが登場しています。またフェレロ氏によれば、フランス独特の漫画表現として歴史があるバンドシネなどにも、日本のスタイルが影響を与えています。フランス人が好きな日本のコンテンツランキング次に再びアンケート調査に戻り、フランス人が好きな日本のコンテンツのランキングが紹介されました。日本の動画作品では、『ドラゴンボール』が1位ですが、オタク第一世代に影響を与えた『グレンダイザー』が2位に入っています。また『宇宙伝説ユリシーズ31』、『キャプテン・フューチャー』といった日本ではあまり知られていない日仏共同制作のアニメも人気があります。漫画でも『ドラゴンボール』が1位。『ワンピース』が2位、『デスノート』が3位と集英社のジャンプ漫画の人気の高さがうかがえます。日本のマーケットと異なる点として、ゴルジュ氏は美少女系、萌え系漫画の人気が低いことを指摘しています。また青年誌などに掲載されるサラリーマンが読むような漫画は、そもそも翻訳されていないため、人気はありません。アニメでも『ドラゴンボール』が1位を獲得。『ワンピース』が2位、『エヴァンゲリオン』が3位となっています。日本では比較的マイナーな『カウボーイ・ビバップ』は5位という健闘を見せており、大人向けの作品が好まれる傾向があります。さらに一部には、フランスでは公開されていない作品がランクインしており、これらの作品は非公式な方法でインターネットなどを通して見られているようです。映画では1位が『バトルロワイヤル』、2位が『七人の侍』、3位が『クローズZERO』となっております。また北野武監督の映画は、フランスでは非常に人気が高いそうです。その他でも暴力的でクレージーな作品が人気であると、フェレロ氏は指摘しています。さらにゲーム、アニメ、漫画以外の「好きな日本人クリエイター」についてのアンケート結果も公開されました。60%以上が分からないという回答でしたが、1位はやはり映画監督の北野武が圧倒的な人気です。2位が小説家の村上春樹、3位が黒沢清です。また植松伸夫、梶浦由記といった音楽家もランクインしていますが、ほぼゲームやアニメ関係の音楽家です。次に「初めて購入したゲーム機」に関するアンケート結果が示されました。1位がファミリーコンピュータ(NES)、2位がGAMEBOY、3位がメガドライブと日本製ハードが圧倒的です。アタリ2600やアミガといった海外製ハードもフランスには存在しますが、日本の家庭用ゲーム機で育った世代が多いそうです。さらに「初めて購入したソフト」についてもランキングが示されました。89%が日本産のゲームであり、1位は当然、『スーパーマリオブラザーズ』です。『獣王記』や『アレックス・キッド』といった日本ではあまり馴染みのないタイトルも並んでいますが、これらはゲームハードと同梱されたソフトです。とはいえ、別のアンケート結果によると、フランス人のゲーマーはゲームを買う時にどの国のゲームかということで、購入の判断をしているわけではないようです。そのため、日本のゲームだから売れるのではなく、たまたま面白いゲームが日本製であったのであると、ゴルジュ氏は指摘しました。とはいえ、輸入ゲームの専門店やインターネットを通して、半分以上の人が輸入版の日本製ゲームを購入したことがあるそうです。しかしながら、輸入版のゲームにはリージョンの問題があります。61%の人がリージョンフリーであることが、購入のために重要な点であると応えています。さらに日本語吹き替えが残っていることを重要視する人の割合はなんと87%です。フェレロ氏によると、フランス人の多くはアニメなどを通して、日本語を聞くことになれており、声優の演技も鑑賞の対象としてみなされています。また、アメリカなどと異なり、もともと字幕を読む文化があるため、ゲームでもできればオリジナルの声優の声を残して欲しいと思うゲーマーが多いそうです。
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