今回の題材となる『Airtone』はOculus TouchおよびHTC Viveに対応したVR音ゲーで、VR空間上に流れてくるカラフルなノーツを叩いて得点を上げていくゲームパートと、女性キャラクター「ネオン」との交流を目的としたルームパートの2種類のゲームモードが搭載されています。
■『Airtone』がWwiseを採用した理由
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まずは佐々木氏より、同作になぜWwiseを採用されたのかという点について説明がありました。WwiseはAudiokinetic社から発表されているゲーム開発用インタラクティブサウンドエンジンで、従来ではプログラマーに依存せざるを得なかったサウンド面の演出をサウンドデザイナーが主体的に行うために設計されたミドルウェアです。ヒストリアでは通常タイトルごとにミドルウェアを選定して行きますが、『Airtone』ではプロジェクト開始時から既にWwise採用ありきで進行していたとのことです。
このことの理由として、「WwiseはUnreal Engine 4とセットで用いられることが多く、その信頼性の高さから八方塞がりになることはないだろうと思いました。また、Interactive Music(プレイヤーの行動に同期した音楽演出)が簡単に実現できることが過去の実績から分かっていました。」と佐々木氏は語ります。Wwiseを採用したことによる利点はエンジニアコストの削減で、『Airtone』ではWwise部分をノイジークロークに一任、Unreal Engine 4部分はヒストリアと、ツールで分業をしていくことで最適化を行ったそうです。
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今作のチームおよびスケジュール。最も多い時期では11名のスタッフが開発に関わっている。25曲3難易度の合計75チャート存在しており、音ゲーとしてはそれなりのボリュームだが開発は10ヶ月程度とのこと。
■Wwiseだから実現出来た「今作のMUST要件」
今作では音ゲーならではの要件として、「音ズレを完全に防止する」「音楽同期(=拍同期)による判定」「3Dサウンド」という3点がMUST要件として上がりましたが、これらは全てWwiseを採用したことで実現が出来たそうです。
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音ゲーである今作のMUST要件は「音ズレを完全防止」「音楽同期(=拍同期)による判定」、「3Dサウンド」の3点。
音ズレ防止については、ゲーム進行を「音楽をどれだけ鳴らしたか?」というBGMのサンプル数と同期させ、サウンドドリブンなゲーム進行とすることで完全な同期を再現しています。また、音楽同期については、全曲書き下ろしという理由から、音楽の尺や拍子情報などをレギュレーション化することで対応しているそうです。
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ポーズ画面などで音ズレが起きないよう、サンプル数ベースのゲーム進行にすることで完全同期を実現している。
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楽曲はすべて新規制作のため、拍子変更不可やBPMの指定などのレギュレーションを予め組んでおくことで音楽同期にシンプルに対応している。
■Wwise実装手法およびサウンドドリブンによるゲーム内演出
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続いては、テクニカルアーティストの原氏からWwiseにおける実装の説明がありました。『Airtone』ではサウンドドリブンによる演出として、テンポ、ビート、周波数帯域などをパラメータとしてWwise側から取得し、これらをメッシュの頂点シェーダーなどに利用しています。例えば背景の山や空に浮いているオブジェクトは、Wwiseから取り出したビートのパラメータと同期して頂点を動かすことで上下にアニメーションしており、ステージ背景に風車などが並ぶ間隔も小節にスナップしています。
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講演では動画で紹介されたが、均等間隔で並んでいる風車が音楽の小節と同期している。また、空に浮かぶ円形のオブジェクトもビート同期で振幅するようなアニメーションとなっている。
また、楽曲の周波数帯域はスペクトラム・アナライザーのような形で「楽曲選択画面」の背景に活かされています。このように、様々なゲーム内の要素が全て音楽から制御されているところがユニークな実装となっています。こうした演出を行うためにはWwiseからパラメータを取得する必要があり、原氏は独自にSpectrum Analyzerプラグインを作成しこれを実現しています。
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楽曲駆動の演出の仕組み。パラメータはUnreal Engine 4ブループリントより取得している。
■RTPCによるユーザーフィードバック-得点に併せて変化するSE-
ゲーム中盤には、コントローラーを長押しして加点していく「トンネルパート」が存在し、ここではスコア取得率で効果音が変化していくというフィードバックを実装しています。ユーザーが自発的にスコア100%を目指すようなデザインとして、得点が加算するごとに効果音のピッチが上昇していく仕組みを取っています。
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トンネルパートではノーツは流れてこず、長押しによる加点を狙っていく。
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Unreal Engine 4からWwiseへのパラメータのつなぎこみについて。ブレンドコンテナを活用した実装となっている。
■視線誘導としての3Dサウンド
VR空間ではカメラの主導権がユーザーにあるため、システム側で視点を強制することはVR酔いの原因となります。通常のゲームでは、イベントの演出などでユーザーに注視して欲しいところがある場合、派手なエフェクトを実装したり、UIで矢印を表示させたりといった工夫を行いますが、こうした場合のサウンド側のアプローチとしては3Dサウンドが有効な手法となります。
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こちらが3Dサウンドを用いているルームパート。女性キャラクター「ネオン」との交流を行う。
一般的な3Dサウンドは音場や環境のリアリティを出すために使われることが多いものの、今回はリアリティよりも視線誘導を目的としたものであると原氏は語ります。ルームパートでは、女性キャラクター「ネオン」が部屋の中を歩き回ったり、音楽を掛けたりして過ごしています。その際、キャラクターの足音を通常のゲームよりも大きめなミックスとし、さらに音のオクルージョン(遮蔽)は全て無効にすることで、キャラクター位置を音で把握し易いような設計となっています。
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空間そのものの響きのリアリティさよりも、画面外にいるキャラクターの位置を分かり易く設計する事を重要視した。
また、プレイしやすい音を目指す工夫として、どの楽曲を選択してもノートSEとの音量バランスを一定に保つようにし、最終的な出音はOculus Rift付属のヘッドホンで-23LUFS±2で調整を行っているそうです。同作はレイテンシー(音の遅延)対策のために最終段にLimiterは使わず、段階的にCompressorでピークを抑えるようにしており、ノーツSEの同時発音についても重なった片方を消すだけではなくCompressorのThresholdを変化させて音が詰まる感じを演出しているとのことです。
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音ゲーにおいて、レイテンシーは大敵。Limiterのような先読み式のエフェクトに注意をする、Look Ahead Timeを外すなどで対応している。
■まとめ-Wwiseならではの利点—プロジェクトを振り返って
講演の終わりに、ノイジークローク第1制作部 部長サウンドデザイナーの蛭子 一郎氏と第1制作部サウンドデザイナーの仲村 実鷹氏が登壇し、佐々木氏によるインタビュー形式でプロジェクトの振り返りが行われました。お二人は『Airtone』において、実際のサウンド制作だけではなく、チャートを作成するなどかなりの作業範囲を担当しています。
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ノイジークローク第1制作部 部長サウンドデザイナーの蛭子 一郎氏(写真中央)と第1制作部サウンドデザイナーの仲村 実鷹氏(写真右手)。
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東京会場限定の「ノイジークロークさんパート」では、この3点がトピックとして挙げられた。
「分業について」というトピックでは、反省点として「Wwise自体の自由度が高すぎるために、一時期は実装を行うノイジークロークとヒストリア側の作業の線引きがあいまいになっていた時期があった」という佐々木氏からのコメントもありましたが、その一方でプラスに働いたことが非常に多かったそうです。仲村氏は「サウンドは通常開発後期からの参加が多いが、今回は分業して実装まで担当することによって、ゲームに沿ったサウンドデザインが出来た。」と語ります。また、蛭子氏も「Wwiseのようなサウンドミドルウェアがあるお陰で、サウンドデザイナー側がプログラマーに負担を掛けることなく自由に工夫することが出来る」という点がメリットであったと説明しました。
「苦労した点」は、音ゲーらしくノーツを叩いた時のサウンドが大変だったとのことで、叩いた瞬間にきちんとアタック感が来るようなデザインになるまでに10回以上やり直しがあったという話もありました。
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画面奥からこちらに向かって伸びているライン上に存在する「ノーツ」。これを叩くことで得点を上げていく。
「Wwiseで便利だった点」としては、リモート機能とRTPCによる効果音の動的制御についてが挙がりました。『Airtone』では効果音が3種類から選べるモードがありますが、そのうちのひとつに和風調の効果音があります。この和風調の効果音では、トンネルパートにおいて「リニアにピッチが上がっていくのではなく、90~100%の間だけ効果音のピッチが上がっていく」という通常の効果音とは別のピッチカーブが採用されています。この提案はリリース3ヶ月前で、Wwiseがない状態、つまりプログラマーに実装が依存するような仕組みであれば納期的に実現し得なかった演出でした。これはまさに「Wwiseだからこそ生まれた演出」と言う事が出来ます。
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トンネルパートの実演は、再度動画にて行われた。ここでは歌舞伎調の掛け声が再生され、90%を越えた所から少し息苦しくなったかのようにピッチが上がっていく。
最後に佐々木氏からの総括として、Wwiseはハイエンドゲームの文法が予め揃っているために、コストを掛けずに様々な演出を行える事が大きなメリットだと説明がありました。また、ヒストリアにおいては「中規模以上の場合、あるいは音に重きを置くタイトルの場合は、Wwiseをデフォルトツールとして使って行きたい」とのことで、今後もサウンドにフォーカスの当たった作品が大いに期待出来るところです。
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