◆「Photon」の概要とサービス形態
GMOクラウドが提供する「Photon」は、マルチプレイを簡単に実装できるネットワークエンジン。サーバーとSDK(Software Development Kit)がセットで提供されており、ロビーやルームなど、マルチプレイ実装に必要な機能をひと通り備えています。サービス形態はクラウド型サービスの「Photon Cloud」とミドルウェア型サービスの「Photon Server」が用意されています。本セッションでは「Photon Server」を中心に「新規タイトル開発時の負荷分散」と「既存案件を別プラットフォームに移植する際のマルチプレイ追加実装」という二つのテーマが語られました。


◆『ジャンプチ ヒーローズ』――新規タイトル開発時の採用実例
LINEより配信されている『ジャンプチ ヒーローズ』は、週刊少年ジャンプの創刊50周年を記念して制作されたスマートフォンアプリ。開発・運営はワンダープラネットによるものです。本作における「Photon」の使いどころは「全国マルチプレイ」、「鍵付きマルチプレイ」、「LINEマルチプレイ」、「団結バトル」、「救援バトル」の5種類からなるマルチプレイとチームチャットとなります。


ワンダープラネットの村田知常氏による概要の説明が終わると、同社の桐島昌吾氏が登壇。『ジャンプチ ヒーローズ』の開発において「Photon」がどのように評価され、導入されたかが語られました。まず、桐島氏は「Photon Cloud」と「Photon Server」それぞれのメリット・デメリットを以下の画像のように分析しました。


上記の分析を鑑みて『ジャンプチ ヒーローズ』では「開発初期は「Photon Cloud」を使用し、開発中期からは「Photon Server」に移行する」という開発体制が取られました。「本作において中核をなすマルチプレイのシステムは、すべて自社の管理下におくべき」という考えによるものとのことです。
一般的なサーバー構成は、ゲームの管理とマッチングを行うマスターサーバーがあり、その下にゲームプレイを行うゲームサーバーが紐づく形になっているのが普通ですが、それは「Photon Server」も例外ではありません。また、マスターサーバーは40,000CCU(CCU:同時接続数)、ゲームサーバーは1台につき1,000~2,000CCU程度が限界だとされていますが、その数値通りの結果になるかは、クライアントの仕様などによって異なります。


それを見極めるための負荷テストでは、まずマスターサーバー1台+ゲームサーバー20台という基本的な構成で計測。20,000CCUではマスターサーバー、ゲームサーバーともに問題なし。30,000CCUまで上げるとゲームサーバーのCPU使用率と転送量が非常に高い数値となり、40,000CCUに上げると計測不可という結果が出ました。
そうしたテストを繰り返し、『ジャンプチ ヒーローズ』における限界値はマスターサーバーが40,000CCU、ゲームサーバーが1,600CCUと決められました。また、前述した5種類のうち「団結バトル」をのぞく4種類のマルチプレイと、団結バトル+チームチャットでマスターサーバーを分けることで、シンプルに負荷を分散させることができたとのことです。

◆『FINAL FANTASY XV』――既存タイトルを移植する際の採用事例
次に登壇したのは、 PlayStation 4/Xbox One版『FINAL FANTASY XV(以下『FFXV』)』のリードプログラマーにして、同作のPC版となる『FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION(以下『WINDOWS EDITION』)』ではディレクターを務めているLuminous Productionsの荒牧岳志氏。
『FFXV』は2017年11月に PlayStation 4/Xbox One版で最大4人によるマルチプレイが実装されており、2018年3月発売の『WINDOWS EDITION』にも速やかな実装が求められました。『WINDOWS EDITION』はWindowsストア、Steam、そしてElectronic Artsが運営するOriginで配信されていますが、Originにはマルチプレイのライブラリがないとのことで、SteamとOrigin双方に適用できるロビータイプのミドルウェアを急遽探すことに。


そんな中で白羽の矢が立ったのが「Photon Server」だったそうです。荒牧氏はその理由について、マッチング機能を備えていたこと、先行するPlayStation 4/Xbox One版『FFXV』のUIに合わせられる高いカスタマイズ性を持っていたこと、通信部分までサポートしてくれていることなどを挙げました。また、スクウェア・エニックス製のモバイルゲームでは「Photon」の採用実績が多く、インフラの構築を手がけるチームが扱いに慣れていたという事情も決断を後押ししました。
前述した「マルチプレイの実装が容易」というのも重要なファクターで、最初の検証をするまでの仮実装はなんと一週間ほどで済んだそうです。ここまでに「何ひとつ不自由がなかった」そうで、「Photon Server」の正式採用が決まりました。
一方で、「Photon Server」はクライアント間で直接通信をせず、通信をする際に必ずサーバーを介するリレー形式であるため『WINDOWS EDITION』のようなリッチなゲームでは通信量がかさみすぎることが判明。荒牧氏はこれに対し、P2Pを導入。クライアント間で通信できるときにはP2Pを優先してサーバーを介さないようにすることで、負荷を大きく軽減させることに成功しました。


荒牧氏は「Photon Server」の使用感について、 PlayStation 4やXbox Oneのソフトを容易に組み込むことができ、さらにバグや大きな問題がほとんど発生しなかったという完成度の高さを称え、一方で、リレー形式の通信はコンソールゲーム機にはあまり適していないので、現時点ではそこに何らかの工夫が必要になると思う、とまとめました。

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