一体何をしているのか?異常事態を体験できるコントローラー
さて、ここまでは日常で身近なものがコントローラーの革命を起こす可能性を見せてきましたが、ここからは「一体何をしているのだろうか」と感じることは必至。言うなれば、いずれも異常事態を体験できるコントローラー群です。
箱だけのブルース

中腰で段ボールをすばやく上げ下げしているこの姿は一体なんでしょうか? 今回のイベントは全体的にみんな何をしているんだと思うゲームばかりですが、とりわけ『箱だけのブルース』の意味不明さは群を抜いています。
プレイヤーは全裸男性となり、段ボールで股間を隠しながら自宅まで帰るのが目的。途中、通行人に出くわすと「変質者!」と叫ばれゲームオーバーになります。なので、目立たないように、すぐさましゃがみ、段ボールに隠れなければなりません。

特にゲームプレイで熱中してしまうのは、通行人がいつ出てくるか身構えながら、姿勢を変えつつ進むことです。通行人が通報するタイミングは意外とシビア。なので素早く段ボールに隠れられるように、姿勢を低くすると歩くスピードもゆっくりになるのです。実際に段ボールを持ち、低い姿勢を取って、通行人を警戒して進むゲームプレイの緊張感は高いものでした。
制作者に話をうかがうと、なんとこの意味不明な状況にもバックストーリーがあるといいます。「主人公の男は野球拳で完敗して全裸になっているんですね!」まったく意味不明のままでした。野球拳……夜中……導き出される答えはどこかの飲み会の最中で盛り上がっているうちに全裸になったというところでしょうか。
ゲームプレイの手触り、ルール、バランスなどイベント中で屈指でありながら、一番ひどい状況に置かれるのが本作だと言えるでしょう。それにしても、制作者の方が「このイベントではお子さんも来るからということで、ゲームオーバーになると股間が丸見えになる仕様を今回抑えたんですよね……」と心底惜しそうにしていたことが、何を心配しているんだと心に残りました。
ぴろぴろカメレオン

ピーピーと音が鳴る方向へと目を向けると、いろんな人がスクリーンに向かってピロピロ笛を吹いているではありませんか。なんだろうこれは……凍り付いていると、制作者の方が「このゲームはですね、カメレオンとなって舌を延ばして虫を食べるキモい体験のできるゲームなんです!」と生き生きと教えてくれました。
キネクトを使ったゲームであり、ピロピロ笛をカメレオンの舌に見立て、果物に向かってくる虫を捕っていくのが主なゲームプレイです。虫に果物を食べられるまでに、どれだけ虫を食べられるかでスコアを競います。
それだけではなく、「虫を食べるだけのゲームじゃなく、このゲームは呼吸器系のリハビリにも考えていまして……」と制作者は説明。なんとここでもゲーミフィケーション宣言が。リハビリで虫を食べさせるなよ! そう言いだしそうになるのをギリギリまでこらえました。
くじ引きサイクル

ガラガラと回すくじ引き。ですが、上のGIF動画をみてもらえればわかるように、画面内で玉がぶちまけられている異常な状況が起きています。このゲームは何をしているのでしょうか?

プレイヤーの目的は0.1%の確率でしか出てこない「大当たり」を引き当てること。くじ引きには1回100円が必要で、カップケーキを箱詰めするバイトでお金を溜めながら当たりを目指していきます。
しかしこのゲームのおかしなところは、くじ引きの2等や3等の景品が「バイト単価が上がる」ことです。プレイヤーはくじ引きのためにバイトをしていたはずが、バイトのためにくじ引きをする展開になってしまうんですよ。

いや、くじ引きって労働を忘れさせるような海外旅行などが当たったりするものですよね? より労働に引き戻されるとはどんな働き方改革なのでしょうか。制作者によれば『クッキークリッカー』のシステムをモデルにしたそう。あのゲームもどこか既存のゲームシステムに対して皮肉めいたゲームでしたが、『くじ引きサイクル』においてはどこまでも人間は労働から逃れられないという体験になってしまっています。制作者は意図していないそうですが……。
伝説の剣

今回のイベントは段ボールがコントローラーになるなど、行きつくところまで行ってしまったコントローラーがいくつか見られましたが、その中でも『伝説の剣』はその極致だと言えるでしょう。選ばれしものにしか聖剣を抜けないという体験をさせる、エクスカリバーシミュレーターなのですから。

ではどのようにして聖剣に選ばれるのでしょうか? プレイヤーには聖杯が渡され、続いて赤や緑の袋をランダムで受け取ります。受け取った袋の重さとぴったり同じになるように、聖杯の中へ石を入れていくことで、最後に聖剣が抜けるかどうかが判定されるゲームです。
手で袋を持った感触だけで「このぐらいかな?」と聖杯に石を入れ、同じかどうかを測っていきます。やはりぴったりにするのは難しく、自分は聖剣が抜けない凡人なんだ……大きな物語の中のモブなんだ、と感じさせる体験もよくできていると思います。(ん……? ちょっと待てよ……? これほとんど触っているのは袋であって、よく考えたら聖剣コントローラーで何もコントロールしてなくね?)とも思ってしまいましたが、歩いているうちに忘れました。
以上、コントローラーを革命する可能性の一覧でした。一発ネタの面白さが見られたのはもちろんですが、意外にも社会的な関わりを目指したものが多く、予想以上に興味深いイベントだと感じたのが正直なところです。
特に今回、日常で見かけるものがよくコントローラーになっていたせいでしょうか。会場を後にする頃には何を見てもコントローラーに見えていました。なにせ出入口に来た瞬間「あっ!このゲーム遊び忘れてた!」とよく見たら消毒液でしたからね。コードだと思ったら紛失や盗難防止のための紐でした。

こんな見間違いをさせるほど、さまざまなものをコントローラーにしてしまうゲームが揃った「make.ctrl.Japan」。次回はどのようにコントローラーの既成概念を破ったものが出てくるか楽しみです。