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Live2Dによるクリエイター向けイベント「alive 2021」が2021年12月4日に開催されました。2014年にスタートして今年で8年目を迎える本イベントは、昨年の「alive 2020」に引き続きオンラインイベントとして開催され、多くの関係者や業界志望者などが視聴しました。
「Live2D」を使用したエンターテインメント・コンテンツが人気を博す中、もっともヒットを飛ばし、Live2Dという技術を知らしめたコンテンツはなんでしょうか。
この問いをファンやクリエイターに振れば、VTuber/バーチャルタレントのコンテンツ、何よりANYCOLOR社とカバー社による「にじさんじ」「ホロライブ」と答える方も多いでしょう。YouTubeを主戦場とし、10代~20代を中心に大きな注目を集めるようになった2社のタレントたち。彼らをこの世に表現するのに使われているのがLive2Dのテクノロジーです。
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そんな2社のスタッフの仕事とは具体的にどのようなものなのか?このトークセッションは5つの質問からその実像に迫るもの。Live2Dクリエイターを目指す方々にとっては注視すべきトークとなりました。
この座談会は、ANYCOLOR株式会社から野久保賢一さん、カバー株式会社からHさん、司会には株式会社Live2Dから須田さんとサポートに川上さん、4名によって進められていきました。
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準備されたトークテーマは5つ。1つめの質問は「普段どのようなお仕事をされていますか?」というもの。
野久保さんとHさんは主に監修・ディレクション・スタッフマネジメントに携わっています。とはいえ、ANYCOLOR社は内製でLive2Dモデラーチームを編成して制作し、カバー社はこれまで多くの外部クリエイターに制作依頼・モデル実装をしてきました。実はこの2社、実制作は正反対と言ってもいいものです。
2つ目の質問は「Live2Dモデルのクオリティチェックで特に意識しているポイントは?」。野久保さんが答えたのは、VTuberとして配信する際の使われ方を意識したものでした。
野久保「ゲーム配信をするときは画面の左右端にいてちっちゃく映ることが多い。その時視聴者はモデルをずっと凝視しているのではなく、ゲーム画面を見ていることがメインになる。VTuberのモデルだけをコンテンツにするのではなく、配信画面全体も含めてコンテンツになることを感じています」
画面うえで目立ちすぎないこと、人体構造としておかしなところはないか、呼吸の時のふくらみはどこか。人としての自然な動きを求めていると答えました。Hさんはこのように答えました。
H「主に3つのことを意識しています。1つ目はデータ管理がしっかりされているか。2つ目は可動域について。3つ目は表現です。レギュレーションをしっかり決めているので、基本的な技術は大前提。そこからモデラーさん一人一人の個性がモデルに込められているかを重視して見ています」
3つ目の質問は「どこでクリエイターを探していますか?」という点について。基本的に社員募集をかけているANYCOLOR社の野久保さんに対し、Hさんはこう答えます。
H「モデラーは、TwitterのほかLive2D社さんが運営しているnizimaで探すことが多いです。nizimaだとLive2Dそのものが掲載されているので、モデルの可動域や表現をしっかり見ることができるので重宝しています。Twitterだと自分の作品を掲載している方も多く、どのような方かを知ることもできるので、どのようなキャラクターならお話を頼めるかを見れます」
このトークセッションとは別の歓談では、Live2Dモデラーとして活躍するfumiさん、けっふぃーさん、ナナメさんも同じくSNSを通じて案件を頂いたということを話されており、現在でもVTuberのモデリングに関わるスタッフらが注視しているのがわかります。
ここで司会の須田さんから「モデラーさん一人一人のクセや特徴をどのようにしていますか?」という鋭い質問が。
野久保「モデラーに染みついたクセは当然あるもの。モデルに合っていればオッケーですし、キャラクター性にマッチしているかだと思います。『この子はこの動きしないでしょう?』とか『こんなに元気な子なのに可動域が狭くないですか?』など、日々色んな注文や指摘も出てきます。モデラーさんが実際モデリングしたものを見て、キャラクター性の担保という部分をディレクションでコントロールしています」
モデラーさん一人一人のクセを見抜き、キャラクター性とマッチしているかをコントロールする。一言でいえばそのようになりますが、100人以上在籍しているにじさんじライバーがどのような性格をしているのか、普段の配信でどのような動きをしているのかを熟知していなければ、ファンに納得されるどころか個々のキャラクター性すら損なう危険性もあります。その任はまさに重責です。
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4つ目の質問は「制作実績やポートフォリオではどのようなポイントをチェックしていますか?」という点。
野久保「社員として雇うことを前提にしてポートフォリオを拝見しているので、ポートフォリオ一つ取っても、その方独自の考えが見えてくるんです。同じの会社の一員として一緒に働けそうか?という部分が見えてくれば良いと思います」
H「一番重要なのは、技術の基礎部分ができているかどうか。沢山のモデルを制作しなくてはいけないなかで、基礎技術がしっかりとあればその他にも展開できる。表情や人体構造をしっかり作りこめているか、そこを見ています」
加えて、可動域がどこまで動くか?といった尖った部分を持つよりも、モデル全体の完成度が高く基礎技術がしっかりとしていれば、どのようなモデルを制作するにしても「なんでも頼める」とふたりが口をそろえていたのが印象的でした。
2人が同意したのはもう一つ「イラストや絵を見る力」です。イラストレーターと兼業でLive2Dクリエイターをこなす方も多い実情のなかで、ふたりはこう話します。
H「イラストを描けるにこしたことはないのですが、Live2Dを作るうえではイラストを見る力ももちろん大事です。イラストに沿ってモデリングできるんです」
野久保「描けなくてもイラストを見る力があれば、リファレンスを探せますよね。似ている2つのモデルを見つけ出して、同じような動きをさせることができるんです」
絵を見る力があればリファレンス(参照する)力が高まり、作業効率が一気にあがるということ、これは仕事としてこなすうえでも重要になります。
5つ目の質問は「制作スキル以外ではクリエイターのどのようなポイントに注目していますか?」です。
野久保「技術力があるかどうか以外ですと、前職までに社会人としてチームで仕事をした経験があるかどうか。これはとても重要です。モデラー、制作進行、マネジメントで連絡しあうことが多い中で、いくらモデリングが上手くても報連相ができないと一緒に仕事はできないですからね」
H「社会人スキルがある、というのは重要ですよね。外部のモデラーとのやり取りやマナーがなければ、制作が遅れたり完成しなくなってしまいかねないわけで、非常に重要です。もう一つ挙げるとすると、モデリング制作以外にもアニメーション動画制作やモーション制作ができるようなスキルもあれば、仕事をお願いしやすいのは確かです」
その後、イベント参加者からの質問に答えていくコーナーに入りました。一つ目にあがったのは「最近の配信モデルは昔と比べてこんなところが進化したなと感じる点はありますか?」という点。
4名とも長くLive2Dに触れてきたこともあり、話題にあがったのは「業界全体として技術がインフレしている」ということ。多くのクリエイターや個人ユーザーが参加してきたことにより技術が大きく更新され過ぎていて、Live2Dスタッフの目から見ても想定を超える技術や動きを目にすることもあるとのこと。
「そういった所から智恵を借りることもある」と野久保さんは正直に語りつつも、川上さんが「チームで制作するとして見たときに、制作者以外の方にも監修できるようにしなくてはいけないですよね」とツッコむと、これには野久保さんとHさんも首を揃えて同意しているのは印象的でした。
おふたりから窺い知れたのは、何よりも基礎・基本をしっかりとマスターし、どのようなオーダーにもしっかりと応えられる技術・姿勢が求められている点です。不自然さや奇妙な動きをできるだけ省きながら、「自然な動き」を求めていくこと、それがキャラクター本人にしっかりとマッチしているかどうかにも繋がっていく。この点は、Live2Dクリエイターを目指す方にとって一つの指針になるでしょう。