ゲーム業界でよく使われる用語に“IP”という言葉があります。例えば、任天堂は「任天堂IPに触れる人口の拡大」を経営戦略に掲げています。これはどういう意味なんでしょうか?
もちろん、そんなの知ってるよ! という人もいると思いますが、なんとなくしか分からない人、全然分からない人もいるかもしれません。今回は、このIPの意味について解説して、最後に「任天堂IPに触れる人口の拡大」ってどういうことなのか、お話してみたいと思います。
■IP=知的財産
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IPはintellectual propertyの略なんですが、intellectual(インテレクチュアル) は、知的な、とか、知性といった意味。property(プロパティ)は財産、所有物という意味です。なので、intellectual property、すなわちIPは日本語にすると知的財産ということになります。
ちょっと難しいんですが、法律的な話をすると、土地や建物などの動かせないものを不動産、それ以外の現金や機材などの動かせるものを動産、これらすべてを含めて、有体物といいますが、有体物を私のものですよと主張できる権利のことを所有権と言います。
この有体物の所有権に対し、形のないもの、無体物を自分のものだと主張できる権利を知的財産権といって、著作権、商標権、特許権などが含まれます。IPといった場合には、こういった著作権や商標権に関わるような、形のない財産を指します。
■ゲーム業界的なIPの意味
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ゲーム業界でIPといった場合、知的財産にあたるものは幅広くあるんですが、おおむねゲームとその関連コンテンツのことを指すでしょう。もっと言えば、ある程度売れて認知が広がったりファンがついたりしているゲームシリーズを指してIPという場面が非常に多いと思います。
「新規IPで10万本売れればたいしたものだ」という時の新規IPは、すでにファンがついているシリーズではなく、完全新作のことを指しています。『天穂のサクナヒメ』は、インディーズの新規IPにもかかわらず、大ヒットした、と言えますね。
「既存IPを幅広いゲームに活用していく」という言い方をした場合には、人気シリーズのゲームのタイトルやキャラクター、世界観を流用して、スピンオフのゲームを作る、ということになります。『ポケモンGO』などがそれにあたるでしょう。
他社IPという言い方をすることもあります。「バンダイナムコエンターテインメントは他社IPのゲームを多数開発している」と言えば、『鉄拳』シリーズや『アイドルマスター』シリーズのことではなくて、『ガンダム』シリーズや『仮面ライダー』シリーズのことを言います。この場合のIPは、必ずしもゲームとは限りませんね。
ちなみに、“アニメ版権”のゲーム、という言い方をすることもありますね。版権は著作権の古い言い方だったんですが、現在のゲーム業界ではおおむねIPと似たような意味でつかわれます。
■「任天堂IPに触れる人口の拡大」の意味
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さて、IPの意味が分かったところで、「任天堂IPに触れる人口の拡大」に戻ってみます。昔は任天堂のIPに触れる機会というのは主に任天堂のハードで遊べるゲームソフトだったんですが、これをさらに増やしましょう、という意味で、ゲーム以外にも積極的にIPを展開させる、つまりゲームのキャラクターや世界観を色んなものに使いましょう、ということですね。
具体的には、『ピクミン ブルーム』などのスマホゲーム化はその一例と言えるでしょう。さらに、ゲーム以外のキャラクターグッズと、そのグッズを売るオフィシャルストア。オンライン上にマイニンテンドーストア、さらにリアル店舗はNintendo TOKYOがあります。アミューズメント分野では、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン内にスーパー・ニンテンドー・ワールドが登場しました。映像化分野では『スーパーマリオ』のハリウッド版映画が2022年公開予定となっています。
もう少し詳しくお話すると、この「任天堂IPに触れる人口の拡大」という基本路線は、やや珍しい方針であると言えます。自社IPをできるだけ多くの人に触れてもらうのだからおかしくはないのですが、本来はそれによって利益拡大を掲げるのが普通でしょう。しかし任天堂はIP展開による利益拡大は敢えて大きく謡わず、「ハード・ソフト一体型のビジネスを基軸にする」と言っています。つまり、あくまで軸は家庭用ゲーム専用機とそのソフトですよ、というのです。
これは少し時間を戻すと分かりやすいんですが、2016年に任天堂がスマートフォンに初めてゲームを出す時に、世界中で、任天堂もとうとうスマートフォンビジネスを柱にするのか、と思った人がそれなりにいたのです。しかし任天堂の回答は、もちろんスマートフォンのゲームも収益化は目指すのですが、ビジネスの柱が家庭用ゲーム機からスマートフォンへと変わっていくというようなことではなく、任天堂IPに触れる人を増やすチャンネルとして使っていく、というものでした。
この流れから、任天堂はIPの活用について、それ自体をビジネスの柱にするというよりは、「任天堂のIPに触れる人口の拡大」が基本路線であり、ハード・ソフト一体型のビジネスが基軸である、と言っているわけなんですね。これは、儲かるのであればなんでもいいからIP展開をするぞ、ということではなく、軸となるゲームの価値を高めるようなグッズであったり、コンテンツ制作をしていくぞ、ということでもあります。
「任天堂のIPに触れる人口の拡大」という方針は、任天堂の企業姿勢のようなものが現れていて、なかなか興味深いところです。いかがでしょうか、IPについて、バッチリ分かりましたでしょうか。用語を理解して、ゲームニュースをいつもより少しだけ深く、少しだけ楽しく読んでいただけたら嬉しく思います。