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GameBusiness.jpは、ポッドキャスト番組「GameBusiness.fm: Select & Start」を配信しています。ゲームに携わる全てのビジネスパーソンに向けて、国内外のゲーム市場の動向を紹介しながら次世代のゲームビジネスのヒントとなる情報を発信していきます。本稿では、配信第3回の文字起こしをお届けします。
出演者
Game Server Services 代表取締役 CEO
丹羽 一智
GameBusiness.jp 編集部
多賀 秀明
配信第3回のテーマ:「時間短縮のためにする課金」というマネタイズ手法
――前回はモバイルゲームのゲーム性からハイブリッドカジュアルゲームの特徴を探っていきました。今回はハイブリッドカジュアルゲームのマネタイズについて教えてください。
丹羽ハイブリッドカジュアルゲームのマネタイズは、(アイテム課金に加えて)広告を収益の柱の1つにしています。ゲーム内で表示させる広告は、インターステイシャル広告とリワード広告に分けられます。
インターステイシャル広告は、たとえば1ステージクリアしたときなどに広告が挟まる(表示される)手法で、リワード広告は、任意のタイミングで閲覧できる動画広告を見たユーザーにゲーム内アイテムなどのリワードが付与される手法です。
リワードの具体例としては「1日に1回だけスタミナを回復できる」、「1日に1回だけ単発のガチャを回せる」、「1日に数回しかクリアできないデイリークエストの挑戦回数が増える」などというものがあります。ユーザーとの関係性をより健全に保てるということで、リワード広告のほうが多く使われていますね。
広告を非表示にする有料オプションの価格を決める基準
――ユーザーからすれば「報酬があるなら広告も見るよ」ということですね。
丹羽さらに、広告を見れば対価が得られるだけでなく「広告を見ない」選択肢も選べるのも、リワード広告が受け入れられやすい理由になっています。
また、ハイブリッドカジュアルゲームは有料アイテムとして「広告の削除」を用意するケースも多く見られます。その商品を購入すれば、広告を見なくとも見たときと同じリワードを得られるというものです。
この削除プランは、恒久的に効果が続く買い切りと、有効期間内のみ(広告を見ずに)リワードを受け取れる月額制のサブスクリプションという2つの選択肢が用意されていることが多いですね。
買い切り型は大抵の場合1000円以上に設定されます。一見すると強気の価格設定ですが、価格と、そのゲームをずっと遊んでいくうえで広告を見ずにリワードを受け取れる「時短効果」を天秤にかけて費用対効果がいいと思ってもらえるだけのリワードが提示されていれば、1000円以上でも買ってもらえます。
サブスクリプション型は安いと500円程度ですが、1000円以上するものも見られます。 1回ではなく毎月1000円支払うとなるとより多くの人が支払いに躊躇するのでは……と思うかもしれませんが、こちらもリワード次第ですね。
――なるほど。
丹羽開発側としては、広告削除オプションの販売で得られる利益と、広告を見てもらうことで得られる利益を天秤にかけて考える必要があります。
いろんなゲームを見ていると課金アイテムの売上と広告の売上はおおむね1対1です。課金アイテムの売上が月300円であれば、広告削除オプションも月額300円以上に設定すれば利益が出るでしょう。1000円など、数カ月分を一気に払ってもらえるなら買い切りにするのもいいですね。
しかし『キノコ伝説:勇者と魔法のランプ』は例外で、このゲームは1ダウンロードあたりの売上がなんと5,000円を超えています。それはこのゲームが今お話したようなマネタイズをいかに活用しているかということでもありますので、機会をあらためて説明したいと思います。
育成素材、クエスト挑戦権など課金通貨以外の商品パックを豊富に用意する
丹羽ハイブリッドカジュアルゲームも、モバイルゲームではおなじみの“石(以下、課金通貨)”を販売しますが、このジャンルはそれ以外の商品が非常に充実しているのがポイントです。
例えば「キャラを育成するための素材」、「回数制限があるデイリークエストの挑戦権」、「現実で一定時間の経過を待たなければいけない要素を短縮できるチケット」などが挙げられます。こういったものをさまざまなパックにして、160円、480円、800円というような価格帯で販売する商品が充実しています。
無制限に買えるとゲームバランスが崩れますので、購入回数には制限が課せられている普通です。そのうえで、ユーザーに「これはほしい!」と思ってもらえる内容にすることが大切です。
――きちんとお得感があり、魅力的なものにすることが重要なんですね。
丹羽また、現金ではなく課金通貨で購入できる商品パックが展開されるゲームもありますが、こうした商品は現金でしか買えないパックより質の面で少し劣った内容にするのが一般的です。
課金通貨はある程度無料でも配布するものですので、これを使って魅力的な商品を買えてしまうと運営の利益にならないからです。
本当に魅力的なものは現金でしか買えない設定にして、そのうえで躊躇せずにユーザーに課金通貨配るのが大切です。
また、一般的なモバイルゲームでは「約1万円で購入できる課金通貨」が一番の売れ筋商品だと思います。もちろんハイブリッドカジュアルでもそのゲームを本当に気に入ってくれた人は買ってくれますが、こちらの主力商品は160円、480円、800円、1600円あたりの価格帯の商品になると思います。
時限セールでユーザーの少額課金をうながす
丹羽ハイブリッドカジュアルでよく使われる手法は「時限セール」も挙げられます。クエストなどを1章分終えたとか、そういうタイミングに合わせて制限時間があるセールを行うというものです。これも、やらないよりはやった方がいいと思います。
また、一部のタイトルでは普通に購入したときとのレートを比較した表記も行うことがありますね。たとえば「普通なら100円で1個買えるだけのアイテムが、この時間限定パックなら同じ額で8個手に入る、800%お得です!」というような具合です。
たまに「連続で買えば買うほど、コンテンツがアップグレードされる」というようなものもあったりしますが、多くの場合時限パックは価格設定がひかえめで、160円~1600円あたりがメインです。
本当に魅力的なものが安く販売されるからこそ、ユーザーが興味をそそられるわけです。
「ゴールを遠く設定しておく」のもアリ
丹羽課金通貨の無料配布についても触れておきましょう。多くのモバイルゲームと同じで、ハイブリッドカジュアルもデイリーミッションやクエストの初回クリア報酬で課金通貨が配布されます。
しかし、たまに明らかに配布量が多いゲームがあります。大抵のゲームにおける課金通貨の無料配布は「ひと月に10連ガチャを2~3回まわせる」程度の量だと思いますが、「毎日10連ガチャを何度もまわせる」ほどに配布するゲームも一部に見られます。
日本のタイトルでは『グランブルーファンタジー(グラブル)』がそれに近いでしょうか。総じて、こういうゲームはガチャをたくさん回せる代わりに、限界突破の上限が非常に高く設定されることが多いです。
私の知っているゲームでは、(1キャラに)限界突破を100回、1000回とさせるものもあります。
――育成のゴールを遠くすることでバランスを取っているんですね。
丹羽課金通貨の配布だけ見てもさまざまなが特徴がありますが、マネタイズの方向性としてはおおむね「キャラの育成にかかる時間を短縮する」というところに収束します。
また、共通する特徴としては「お得な商品を買えるマイクロトランザクション(少額決済)を何度もしてもらう」というところにあります。
プレイヤーに「課金通貨を買う」と思わせるのではなく、「お得な強化素材を買う」と思わせるくらいに商品の価値を高くするのが大切です。
そういう風に意識させることで、「強化素材を買っていたらいつの間にか課金通貨もたまってきたので、せっかくだからガチャを回そうか」という心理が生まれます。
これは海外で特にいい作用があって、「いつの間にか貯まった課金通貨でガチャを回せる」というプレイ体験を提供することで、「ガチャはギャンブルだ」という意識を抱かせづらくする効果が望めます。
そんなことをしたらガチャの存在意義がなくなってしまうのでは……という考えかたもできるかもしれませんが、意識的にたくさんの課金通貨を買ってガチャを回せば目当てのキャラの完凸(上限までの限界突破)にかかる時間を短縮できますので、完全にガチャの価値が失われるわけではありません。
「課金した結果、ついでにガチャも回せる」と感じてもらう
丹羽今回のお話でお伝えしたいのは「ハイブリッドカジュアルゲームは(無料課金通貨の大量配布で)ガチャをたくさんタダで回してもらうゲームである」ということではありません。
ユーザーに「ガチャを回すために課金してもらう」のではなく「魅力的なパック商品やインゲーム素材などを購入した結果、ついでにガチャも回せる」と感じてもらう考え方/マネタイズは、既存のモバイルゲームでも参考になる部分があるのではないか……ということです。
もちろん、「少しずつ貯めてもらった石で10連を回した時のドキドキ感を楽しんでほしい」というデザインもアリです。自分たちがどこを目指していくかを軸に考えるとよいのではと思います。
――ここまでお聞きいただき、ありがとうございました。次回もハイブリッドカジュアルゲームについてお話をうかがいます。
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