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いま日本のインディーゲームシーンは “市場”として活気づいている、と言えるでしょう。
かつてこのジャンルは完全な自主制作ゲームをクリエイター自ら販売していくものでもありました。現在でも基本的にその流れは変わりません。
しかし近年、新規参入する企業などを見るとクリエイターを取り巻く環境が変わってきているのを感じます。それが顕著に表れているのが大手企業の参入でしょう。例えば集英社や講談社といった大手出版社のほか、ゲーム業界内でも大手メーカーのバンダイナムコスタジオがインディーゲームレーベル「GYAAR Studio」を設立するといった事例から、インディーゲームがひとつのビジネスとして注目されていることが見て取れると思います。
ビジネスとしての傾向が強まるにつれ、国際展開やクリエイターへの出資なども話題になります。その動きのひとつと言えるものが、今年の7月14日~16日に京都みやこめっせにて開催された「BitSummit Let’s Go!!」に登場しました。
それが「VIPO Indie Game Pitch Showcase」です。これは国内外のパブリッシャーや投資家に向けたピッチイベントで、「日本のコンテンツ産業の国際競争力の強化を推進し、日本経済の活性化に寄与することを目的に、2004年に設立されたNPO法人」(公式サイトより)である特定非営利活動法人 映像産業振興機構(VIPO)が主催しています。
本イベントでは、有識者により選考された5作品のクリエイターが自らの作品をプレゼンテーションしました。ここでのプレゼンは海外の投資家も視野に入れ、ほぼすべて英語で行われています。投資家を説得するようなプレゼンとはどんなものかーーその模様をお届けします。
スーパーヒーローを体験するオープンワールド『UNRESTRICTED』・デベロッパー:Indie-us Games
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まず最初に登壇したのはIndie-us Gamesの兵藤大瑚氏と篠原友磨氏です。同社が開発する『UNRESTRICTED』のプレゼンは、投資家の説得に向けた具体的な情報を器用に織り込んだものです。「インディーゲーム開発を事業と捉え、パートナーシップを求める相手に説明する」プレゼンの好例として、興味深い内容でした。
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『UNRESTRICTED』とは一言でまとめると「スーパーヒーローアクションRPG」だと言います。プレイヤーはスーパーヒーローとなって広大なオープンワールドを自由自在に飛び回り、敵と戦っていくというもの。篠原氏は学生時代に本作の前身となる『UNDEFEATED』を無料でSteamにリリースしており、スーパーヒーローアクションの爽快さから約170万ダウンロードを達成した実績も紹介されました。
『UNRESTRICTED』はそれをアップデートしたタイトルとも言えるでしょう。プレゼンでは想定しているゲームクリアタイムが約5時間と紹介されました。ゲームの具体的な尺まで説明されることで、本作の規模がどれくらいなのか、想像が容易になります。
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さて、プレゼンで興味深かったのは具体的なターゲット層を説明するパートです。例えば「どういった人が私たちのお客さんか?」というスライドでは、類似作品の名前をはっきりと挙げながら説明しています。
スーパーヒーロー物として、著名なヒーローを描いてきたDCコミックスやマーベル・コミックといったブランドが例に挙がるのはわかりやすいでしょう。ビデオゲームでの例でも、本作に近いとされる他社タイトルを実名でそのまま挙げていたのには興味深く聞き入ってしまいました。
例えば「ヒーローゲームが好きな人」向けということで類似タイトルに『inFAMOUS Second Son』が、「アクションRPGが好きな人」向けにリブート版『ゴッド・オブ・ウォー』や今年発売された『FORSPOKEN』が提示されています。これは類似タイトルもプレゼンでそのまま語ることで、投資サイドに具体的な内容をイメージさせる狙いなのでしょう。
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また具体的な開発のロードマップも提示されました。『UNRESTRICTED』は2024年5月にα版を、同年の10月に最初のβ版を作り、2025年8月に完成させることを説明。さらに2026年2月にコンソール版の展開を予定するなど、はっきりとした開発計画を立てています。
クラフト×プログラミング『Omega Crafter』デベロッパー:Preferred Networks
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続くPreferred Networksの佐藤拓弥氏によるプレゼンも、開発するゲームの内容とターゲットの設定、開発計画が具体的でした。
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『Omega Crafter』はオープンワールドのサバイバルクラフトに、プログラミングの要素を組み込んだタイトル。プレイヤーは相棒となるロボット・グラミーに行動をプログラミングして、素材の発掘をしてもらったりダンスをさせたりと、自由に楽しめるゲームプレイを特徴としています。
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Preferred Networksは、機械学習や深層学習を利用した事業をメインに行っている企業で、小学生向けのプログラミング教材「プレイグラム」も提供しています。『Omega Crafter』では、小学生だけでなく全ての世代がプログラミングに関わってほしいという思いが込められている模様です。