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「東京ゲームショウ2023」で実施された、日本テレビ放送網のeスポーツカンファレンス「日本テレビの考えるeスポーツビジネスの最前線と未来像」を取材しました。筆者の視点も交えながらレポートします。
多角的なアプローチでeスポーツコンテンツを制作
本セッションでは日本テレビと、先日同社の子会社となったJCGから計5名が登壇し、日本テレビの取り組みについて紹介しました。
イントロダクション(日本テレビ放送網 社長室新規事業部/アックスエンターテインメント代表取締役社長 小林 大祐氏)
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日本テレビの小林氏からは、eスポーツの現状、これまでの日本テレビの取り組み、JCGの買収について説明がありました。
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小林氏はeスポーツ番組「eGG」のプロデューサー、eスポーツチーム「AXIZ」の運営として、長らくeスポーツ業界に寄与してきた実績があります。
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日本テレビが手掛けてきたeスポーツ事業は、3つの軸(「大会/イベント」「地上波番組『eGG』」「チーム『AXIZ(アクシズ)』」)で展開されてきました。
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小林氏は、従来型eスポーツ(ゲーム関連企業が主体の構造)から、将来型eスポーツ(チームやプレイヤー主体のファンビジネスの構造)にシフトしていく必要があると指摘します。
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また、日本テレビが考える、eスポーツに関するビジョンについても共有がありました。現在の中心事業である「チーム」「大会・イベント」「番組」の柱は変えずに、世界の潮流(メタバース化)に乗りつつ、ファンビジネスへのシフトを思い描いているとのこと。
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最後に、2023年9月にeスポーツイベント運営会社であるJCGを買収したことに関し、今後はイベント事業を強化すると宣言がありました。
JCG社と実績の紹介(JCG 代表取締役CEO 松本 順一氏)
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日本テレビの子会社となったJCGを代表して登壇した松本氏は、日本テレビグループにおけるJCGの役割について、「テレビ地上波でのeスポーツ大会の生中継を実現する」と説明。
日本テレビの放送網とJCGのイベント運営技術の相乗効果に期待が高まります。
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さらに松本氏からは、具体的な課題についても提言があり、「コンプライアンスを満たして万人に指示されること」「統制がとれたファンコミュニティがあること」「持続可能なチーム事業として成立すること」の3つがポイントとして挙げられました。
日本テレビが手がけてきた大会・イベント(日本テレビ 平野プロデューサー)
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日本テレビがこれまで手がけてきた大会・イベントについて、日本テレビ 平野氏から説明がありました。
前述の番組「eGG」に加え、「ポケモンユナイト甲子園」、「REALFORCE TYPING CHAMPION 2023」などの大会が主な実績として挙げられます。
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平野氏はグループ内の制作体制の充実をアピール。地上波番組を手がけてきた制作クオリティでeスポーツ番組のレベルを上げていくことが宣言されました。
eスポーツ×法人ビジネス(日本テレビ/AXIZ 岡本プロデューサー)
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AXIZのプロデューサーを務める岡本氏からは、AXIZを中心としたeスポーツ事業立ち上げの経験に基づいた知見からの知識共有がありました。
岡本氏は、ここ5年間のeスポーツ業界の大きな変化として『チーム数の増加』『ファンビジネスの注力』があると分析します。
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加えて、この5年で大会の構造が変化しているとの指摘も。パブリッシャー中心の大会の構造(左図)から、チーム主催大会の構造(右図)に変化しているといいます。
これは、ファンビジネスとしてのeスポーツが活発になっていることが変化の背景にあるようです。
eスポーツ×ファンビジネス(日テレ/AXIZ 石井プロデューサー)
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日本テレビ 石井氏からは、そのファンビジネスについてさらに説明がありました。石井氏は、eスポーツ業界の市場構造が「スポンサー料」「大会賞金」に傾倒していると指摘したうえで、各企業は「スポンサー料」「大会賞金」以外の収益源として、ファンビジネスに注力してきていると分析します。
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さらに、ファンビジネスの観点では、視聴してくれることだけなく、グッズを購入してくれることも重要であるとしたうえで、グッズを購入するファンの60%は10代~20代の女性であるというインサイトの共有もありました。
まとめ:いかに価値観の違いを見極め、ライト層とエンジョイ層をeスポーツに取り込むか
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今回、特に興味深かったのは、セッション中に松本氏が提示した、eスポーツに関わる人たちの分類です。
松本氏曰く、これまでeスポーツを楽しむ人たちとは、プロやセミプロのような「ゲームをプレイして楽しむ人たち」のことを指していましたが、現在では「(プレイするかどうかは問わず)純粋にeスポーツをコンテンツとして楽しむ層」(つまりファン)が生まれてきたとのこと。そのうえで、eスポーツ業界の拡大を目指すうえで、ライト層やエンジョイ層といった「一般的にゲームを遊ぶ人たち」を取り込むことが重要である、と松本氏は指摘しました。
ここからは筆者の主張になりますが、松本氏の指摘のとおり、ライト層やエンジョイ層は、人口全体に占める割合が大きく、事業拡大の観点において、この層を取り込むのは必然といえるでしょう。
とはいえ、既に“ゲーム”として十分楽しんでいる層に対して、第三者が追加で“eスポーツ”としての価値を提供するのは一筋縄ではいきません。1日に何時間も1人用ゲームをプレイするようなコアゲーマーも、この分類では「ライト層に分類される」または「切り捨てられている」ことにも注意が必要です。
ソーシャルゲーム&コンシューマーゲーム大国である日本において、eスポーツタイトルに限定したゲームを、カジュアルに遊んでいる層がどれだけいるかは議論の余地があります。
一般的なゲーマーが楽しんでいるのが「自分たちの物語」だとしたら、eスポーツファンが楽しんでいるのは「他人の物語」。そういった価値観の違いを正しく捉えることが重要であり、「ゲーム好きをeスポーツ好きとしてカウントしない勇気」または「ゲーム好きとeスポーツ好き、それぞれの価値観の違いを正しく見極めて打ち手を考えること」が、eスポーツビジネスを推進させるうえで重要になってくるように思えました。