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いよいよ来週8月21日からドイツ・ケルンで欧州最大のゲームショウ「gamescom 2024」が開催されます。
我々Game*Sparkはメディアパートナーとして現地取材も多数実施予定ですが、なんとなんと今回は出展者としてもgamescomに参加するのです。……どういうこっちゃ!というツッコミも聞こえてきそうですが、実はGame*Spark Publishingの名で『ウィザードリィ外伝 五つの試練』を販売しており、そのプロモーションとしてUkiyo Studiosのブース(Hall 10.1, Booth A.80.)内に設けられるジャパンブースに出展することになりました。
なにやら壮大な話ではありますが、経済産業省の「我が国の文化芸術コンテンツ・スポーツ産業の海外展開促進事業(コンテンツ産業の海外展開等支援)(JLOX+)」の一環としてVIPO(映像産業振興機構)が実施する事業にエントリーしたところ、本作がめでたく採択されたので、はるばるドイツの地でゲームをお披露目するというわけです。『ウィザードリィ外伝 五つの試練』のほかには、とーらい氏が手掛ける『ほりほりドリル』、WOOL STUDIOが手掛ける『CUBEN ―キューブン―』の2タイトルも出展されます。
折しも「クールジャパン戦略」のリブートが良くも悪くも世間を賑わせていたタイミングということもあり、Game*Sparkも参加する今回の事業の成り立ちや、国のゲーム業界への支援の実情はどうなっているのか?といった疑問を経済産業省の堀達也氏、VIPOの内島靖人氏に聞いてきました。
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ちなみに本インタビューは事業の採択とは何の関係もなく、編集部が独自で調整したものです。
[聞き手・編集:宮崎 紘輔]
[インタビューテキスト:FUN]
インディーゲーム支援のこれまで
――お堅い話になっていきそうなので、まずはお二人の自己紹介も兼ねてゲーム遍歴について教えてください。まずは、堀さんからお願いします。
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堀達也氏(以下、堀)経済産業省のコンテンツ産業課で総括補佐をしている堀と申します(※2024年6月当時。現在は大臣官房 秘書課 課長補佐(総括担当))。経済産業省に入省したのは2011年で、東日本大震災の年でした。当時は中小企業金融支援を担当していましたが、いくつかの部署を経て5年ほど前に文化庁に出向しました。
文化庁では、文化政策に経済原理を取り入れながら文化の保護・活用に結びつけていく「文化と経済の好循環」というミッションを実現するための政策立案を実施しておりました。現在の部署には、2年前の2022年6月に着任しました。ミッションは、「コンテンツ産業の振興」ということで、当時は新型コロナウイルス感染症対策にも取組み、直近では海外展開やデジタル化を中心に、産業独自の課題に対する政策の企画立案を担当しています。
私自身、コンテンツの中では特にゲームが好きで、プライベートでもGame*Sparkの記事もたまに拝見しています(笑)。
――鼻つまみ者だと思っていたのでありがたい限りです。ゲームを好きになったのはいつ頃ですか。
堀小学校3年生の時にプレイした『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』からです。『ファイナルファンタジー』『ドラゴンクエスト』シリーズは、一通りプレイしています。RPGとシミュレーション、特にスクウェア・エニックスや光栄(現:コーエーテクモゲームス)のゲームが好きです。世代的にはスーパーファミコン世代ですね。
今は隙間の時間でリメイク物をよくプレイしています。先日も“ねんがん”の『ロマンシング サ・ガ2』のリメイクが発表されたので、「これは必ず手に入れなければ」と使命感に燃えています。また、『東方Project』シリーズも、『東方紅魔郷 ~ the Embodiment of Scarlet Devil.』からプレイしています(一同笑)。
――『東方』までとは幅広いですね。内島さんはどうですか。
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内島靖人氏(以下、内島)映像産業振興機構(以下、VIPO)の内島です。この4月から出版・ゲーム事業部を立ち上げて部長をしています。VIPOは映像産業振興機構という名前の通り、もともと映像分野の支援が多く、ゲーム業界支援はあまり行っていませんでした。
日本のコンテンツ輸出額の6割はゲームという数値も出ているように、ゲームは日本の基幹産業です。その支援はしなければならないと思い、数年前からゲーム業界支援に力を入れ始めて、直近では主にインディーゲームの支援を行っています。
私も小さい頃からゲームはそこそこプレイしていました。堀さんより少し年齢が上のファミリーコンピュータ世代で、『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』からです。
――『ロマサガ2』もですが、『ドラクエIII』もリメイクされますね。
内島その世代なので、エニックスやスクウェア(現在は合併してスクウェア・エニックス)の『ライブ・ア・ライブ』や『クロノ・トリガー』といった作品をスーパーファミコンでよく遊んでいました。途中、ゲームをプレイしていなかった時期はありますが、最近はインディーゲームを中心に隙間時間で遊んでいます。
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――そこはかとなくお二人の嗜好も分かってきたところで本題に移りたいのですが、まず、いつ頃からこうしたインディーゲームの支援が始まったのかを教えてください。
内島VIPOは2018年から経済産業省のビジネスマッチング事業を受託していますが、初めはインディーゲームの支援はしていませんでした。2018年にジェトロ(日本貿易振興機構)が「gamescom 2018」にジャパンパビリオンを出展しましたが、1回きりになってしまったことを受けて、ワイソーシリアスの斉藤大地氏から2020年頃に「gamescomにインディーゲームを集めたジャパンパビリオンを出展できませんか?」という話がありました。私は弊団体の中でインディーゲームの支援をしていくべきだと主張したのですが、当時は話が進みませんでした。
契機となったのは2022年のことで、インディーゲームのオンラインイベントとして成功した「INDIE Live Expo」が中心となって、ジャパンパビリオンを出展することになりました。ところが、日本の公的な団体が関係していないと出展できないという制約があったため、最初に相談を受けたジェトロに代わり弊団体が参加しました。――ということで、VIPOとして本格的に動き始めたのは「gamescom 2022」のジャパンパビリオンからというのがご質問の回答になります。
その時には「INDIE Live Expo」を中心に、ワイソーシリアス、PLAYISM、集英社ゲームズ、講談社も入った座組で行いました。パブリッシャーからもゲームタイトルを出してもらい、一般公募で選ばれた作品もあわせて展示・紹介しました。こうした動きを経て、弊団体でも本格的にインディーゲームの支援を開始しました。
ちなみに2023年は経済産業省の事業ではなく、VIPOの自主事業という形で、BitSummitにおいてピッチイベントを実施しています。
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経済産業省はゲーム業界をどのように捉えているのか
――経済産業省としてのゲーム業界に対する向き合い方についても教えてください。
堀これまでこのビジネスマッチング事業は、海外の映画祭への出展サポートなど、VIPOが高い専門性を持つ映像分野が中心でした。しかし、先ほどもコンテンツ産業における海外売上の6割をゲームが占めるという話があったように、その規模やインパクトの観点から、最近ではゲームの領域が注目されるようになってきています。
2022年を振り返ると、『ELDEN RING』が世界的に大ヒットした時期(2022年2月25日発売)で、政府の中でもゲーム産業に注目が集まっていたところでした。gamescomは世界のゲームマーケットの中でも一番大きく、ビジネスマッチング事業として支援する意義があると思い、今期から取り組みを始めたところです。
――政府の中でも映画やアニメだけでなく、ゲームを支援していく動きがあるのですね。
堀はい。インディーゲームに目を向けると、優れたクリエイターの皆さんが生みだす新しいIP創出の動きや、大手にはない挑戦的な取り組みには新たな可能性や将来性を強く感じており、政策的にサポートする余地があるのではないかという議論があります。
――さまざまなクリエイターが活躍できるように支援していく方向という理解でいいでしょうか。
堀例えば、海外展開のためのローカライズやプロモーションの費用については、既に支援メニューが存在しており、様々な事業者に使っていただいております。近年は、それに加えて、インディーゲームや新しいIPを作ることに着目した支援にも展開し始めています。
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――今回Game*Sparkでも応募した「gamescom 2024」のジャパンブース出展にはどのくらいの応募がありましたか。
内島今回はスケジュールがタイトで募集期間が3週間も取れなかったため、約20件でした。自費で渡航し、期間中は現地でプロモーション活動を行うという条件があったので、費用や時間の面で参加が難しい方もいたと思います。しかし、応募を締め切った後も問い合わせを4、5件いただきました。
業界関係者からは、「個社で出展するのはハードルが高いが、ジャパンブースとしてまとまっていると出展しやすい」という反応がありました。英語でコミュニケーションができないとブースを確保するのが難しく、現地の施工業者とのやり取りなども難しいという声を聞いています。
――こうした政府の支援について経済産業省にはどんな声が寄せられていますか。
堀ゲームは世界同時に展開することが多く、ローカライズにそれなりのお金がかかります。そのため、海外展開する際に使える支援メニューのお問い合わせやご意見はよくいただきますし、VIPOのローカライズ・プロモーション支援メニューは比較的ご利用いただいています。また、業界の方と話していると、海外の規制情報やマーケット情報に対するニーズが高く、そうした情報提供機能の強化も重要な課題と考えています。
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――日本のゲーム業界全体で海外展開のニーズは高まっていると思いますか。
堀はい。先ほど少し触れたとおり、今はマルチプラットフォーム展開がスタンダードで、マーケットがグローバルに直結しています。つまり、リリースした瞬間に全世界に広がっていくのが当たり前になっているので、海外も日本国内から地続きの市場と理解するのが当然、という認識が前提になってきているのではないでしょうか。
内島さらに、世界的に見ると、日本のゲームの市場規模は相対的にどんどん下がっているのが現状で、今や日本は全世界の10%くらいの市場規模しかありません。今後それが増えるかと言えば、少子高齢化が進む現状を考えると短いタームで伸びていく可能性は低いでしょう。そうなると、おのずと海外に活路を見出すしかありません。
先日「TOKYO SANDBOX」でクリエイターの方が、「国内におけるSteamの売上は限られているので、海外で売っていきたい」と話していました。自分で頑張ってローカライズしている方もいましたが、そういうところ(海外展開)をパブリッシャーに任せたいという声も聞こえてきました。前述のとおり、国内市場だけでは限界があるので、クリエイターも海外を見ている方がどんどん増えている印象です。
――VIPOの具体的な支援について、ゲーム業界からの反応はどのようなものがありますか。
内島最近チラホラと「VIPOってゲーム業界も支援しているんだ」という声が聞こえるようになってきました。多くの企業が協力して「gamescom 2022」にジャパンパビリオンを出展したときとは異なり、我々単体ですとインディーゲーム業界にリーチするのが難しい状況がありましたが、活動を継続することで伊東章成氏(元ソニー・インタラクティブエンタテインメント)をはじめ、サポートに動いてくれる業界の方々がどんどん増えてきています。
私自身もインディーゲームのイベントに参加することを心がけていて、VIPOとしてもなるべくイベントに協賛して認知を拡大しているところです。例えば、昨年12月に開催された「Indie Developers Conference 2023」に協賛し、先月開催された「BitSummit Drift」にも出展しました。そうした草の根的な活動を通じてVIPOの活動を周知した結果、徐々にクリエイターのみなさんからも好意的に受け入れられているのかなと感じています。
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――先ほども少しお話いただきましたが、経済産業省の立場からもう少し日本のゲーム業界の現状をどのように捉えているのか、どのような方向性で議論が進んでいるかをお聞きしたいです。
堀コンテンツ産業への注目度が非常に高まっていることは間違いないです。昨年、日本経済団体連合会(経団連)は、「Entertainment Contents ∞ 2023」という提言を出し、「エンターテインメント・コンテンツは日本の経済成長に重要な役割を果たす」と銘打ち、それもきっかけに政府内での議論も盛り上がってきています。例えば、内閣府知的財産戦略推進事務局では、先般「新たなクールジャパン戦略」を取りまとめておりますが、その議論の場にはゲーム業界の方も参加していただいています。
そうした場で、先ほどの海外市場の情報収集や「新しいIPを作っていくことが大事」という議論が提起されました。例えば、海外のタイトルでは『Minecraft』のような最近10年くらいで登場したものがゲーム売上の上位にいるのに、日本のタイトルだと、もちろん新しいタイトルも出てきていますが、やはり既存のIPが牽引している傾向です。ゲーム業界の中でも「このままで良いのだろうか?」という問題意識が出てきていると聞いています。
――戦略会議の場でもそのような議論がされているのですね。
堀おっしゃるとおりで、内閣府知的財産戦略推進事務局の「コンテンツ戦略ワーキンググループ」で議論されています。もちろん、日本の既存IPが非常に強いブランド力を持っていて、ファンの購買力が高いことは重要なことです。魅力的なIPが何十年にもわたり、世代を超えて愛されていくことは素晴らしいことではありますが、その上で、10年後、20年後にも世界で支持されるような新たなゲームが生まれてくる環境を整えていくことも極めて重要です。最近では、インターネットで個人制作を行って発表される方や、大手ゲーム会社から独立するクリエイターの方も出てきていますが、そういう挑戦的な取り組みも含めてサポートしていける枠組みができると良いと思っています。
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――ありがとうございます。国レベルでもそうした議論が行われているのは知りませんでした。さて、少し話題が変わりますが、選考された側から聞くのも野暮だと思いつつ、今回なぜこの3作品をgamescomのジャパンブース出展タイトルに選出したのでしょうか。
内島審査基準は公開しないことになっていますが、海外のユーザーにとって魅力がある作品か、なにかしらの成約が期待できるかの2点は考慮しています。国のお金が入っている以上、単純に「海外のユーザーに遊んでもらいました」だけでは困りますから。結果的に、『ウィザードリィ外伝 五つの試練』以外は個人開発の作品になったので、前段からお話しているクリエイター支援という文脈にも合致しています。
――出展したことでヨーロッパへの販路が拓けると期待されているのが我々のタイトルなのですね。我々以外に有名な法人からの応募はありましたか。
内島名の知れたパブリッシャーからの応募もありました。
堀「インディー」という言葉の概念がどんどん広がっているので、必ずしも個人レベルで開発しているデベロッパーだけが応募するということでもないのでしょう。
内島はい、多様性があって良いと思います。個人開発のタイトルもあれば、ある程度の規模の企業、それこそ受託開発をしている企業が初めて手掛けるオリジナルタイトルがあっても構いません。そうした多様性は今後も考慮していきたいと思っています。
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――我々はインディーパブリッシャーだという自負があり、自分たちで一から各所と折衝し、限られた人数(2名程度)と予算でゲームの開発・パブリッシングに臨んでいます。一方で読者やイベント参加者の一部からは、IPの認知度や運営する会社の規模(東証グロース市場上場企業)からインディーじゃないだろ、というツッコミが入ることもあります。お二人はインディーゲームやインディーパブリッシャーの定義をどう考えますか。
内島そもそものインディーゲームの定義は、「クリエイターが自分の作りたいものを自由に作る」ゲームだと思っています。誰かに「こういうゲームを作れ」と言われるのではなく、自分の作りたいものを自分の表現方法で表現していくゲームです。それをサポートしてくれるのがインディーパブリッシャーですね。
しかし、最近では大手のパブリッシャーもインディーゲームを扱うようになり、インディーゲーム専業のパブリッシャーとの棲み分けがなくなってきています。個人的には、いずれ「インディー」という言葉自体が無くなる可能性もあると思っています。
堀インディーゲームを、政府として定義したことはありませんが、内島さんが述べたように、受託などの大規模な形で開発するゲームよりも、クリエイターが主体となって小規模なチームで開発するゲームなのだろうと思います。
昔はゲームの開発ツールがなかなか個人には手が届きませんでしたが、今はUnityやUnreal Engineといったツールを使って開発することができる個人クリエイターがたくさん出てきました。その結果として、「インディー」という言葉がだんだんと浮き出てきたのだろうと理解しています。また、コンテンツの2次創作も盛んになり、そこでも個人クリエイターの皆さんが重要な役割を果たしています。こうした現象は、映像産業でも同じことが起こっていますが、クリエイターの「個」の力がとても強くなっていることの一つの発露ではないかと思います。とはいえ、最近のムーブメントというわけではなく『東方Project』のように、そうした活動は昔からあるわけですが(一同笑)。
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リブートする「クールジャパン戦略」はどうなる?
――ちょうど話題になっているので伺いたいのですが、今回の支援は「クールジャパン戦略」の一環として理解してもいいのでしょうか。
堀おっしゃるとおり、「クールジャパン戦略」は国全体の政策であり、コンテンツの海外展開もその中に含まれるとご理解いただいて構いません。今年6月に、「新たなクールジャパン戦略」が策定されておりますが、コンテンツ産業を基幹産業にする、などといったスローガンが掲げられており、コンテンツ産業政策もそうした目標の実現に向けて、更なる取組を進めていくこととなります。
――10年前になるので現状は変わっているかもしれませんが、「Brasil Game Show」を取材した際、韓国政府の力の入れように驚きました。一方、日本のパブリッシャーはあまり出展しておらず、そこそこ国際的に知名度がある会社でも、小さなブースしか展開していませんでした。現状を踏まえて、海外に勝負に出て行く際のお金のかけ方について、お二人の私見をきかせてください。
堀韓国は、30年前に直面した通貨危機の時から、国として力を入れてきています。日本との違いは、国内の市場規模が日本ほど大きくないこと、大きな経済的危機を迎えたことです。通貨危機に直面した韓国政府は、官民で密に連携して、「エンタメで稼ぐんだ。海外の需要を取るんだ。」と腹を決めました。そうした意思決定に基づく政策が、20年、30年と取り組まれた結果が、現在の世界的な韓流ブームです。まさに、最初から、官民連携=オールコリアで、まとめて海外に出ていったのが強さの背景でしょう。
逆に、日本は国内市場も比較的大きく、海外需要を取りに行かなければならないような危機に見舞われることもなく、韓国ほどに注力できていません。そもそも90年代、00年代までも、やはり製造業中心の産業政策が主でしたし、その間、ゲーム産業は自分の力で海外におけるブランド力を獲得してきました。そのこと自体は大変素晴らしいことですが、今後20年~30年を見据えたときに、「果たしてそのままで良いのか?」という議論が出始めている、というのが今の状況です。
韓国はマーケットに合わせた作品づくりも非常に上手ですし、韓国の手法から我々ももっと学ばなければなりません。一方、我々にはクリエイターの皆さんが作り上げた「多様性」の「蓄積」があります。我々の持っている多様なコンテンツをいかに売っていくか、こうした考え方は韓国のやり方を大いに学べば良いのですが、日本の様々なクリエイターが生み出す多種多様なクリエイションや、それを支える環境は競争力の源泉なので、絶対に失ってはなりません。全て韓国のやりかたをそのままやれば成功する、ということではないと考えています。
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内島実は、日本も国の支援メニューは充実しています。我々が経済産業省から受託している「JLOX+」という補助金は海外プロモーションにも使えて、海外にブースを出す際の出展料や施工代、渡航宿泊代も補助されます。これだけ手厚い支援をしている国は他にあまりないと思います。
ゲーム業界ですと、大手企業が「gamescom」や「ChinaJoy」、「Taipei Game Show」に大きなブースを出すために利用しているケースが少なくありません。弊団体のホームページに行っていただければ活用事例が見られるのですが、そうした事例が多いため、なかなか小規模な企業が利用していないのが現状です。今後は小規模な企業にも活用していただけるようにきちんと広報活動、周知活動を行っていければと考えています。
直近では「404 CREATIVE JAM」や国際ゲーム開発者協会日本のセミナーで補助金の説明会を行いました。「BitSummit」でも補助金の個別相談会を実施しました。まだまだ知らない方が多いので、ぜひ「JLOX+」を活用していただければ海外展開がしやすくなると思います。
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――自動車産業や半導体産業が国の力でレバレッジを効かせているのに対して、ゲーム産業はコンテンツの力だけで頑張っている印象があります。この点についてはどう考えていますか?
堀経済産業省の産業政策は、歴史的に製造業が中心です。コンテンツ産業課も、商務情報政策局という組織の中にありますが、我々が「これからはコンテンツの生み出す付加価値が成長のドライブになる」と言っているのに対して、向かい側の部屋では「半導体産業が日本の未来の成長を左右する」という議論が行われています(一同笑)。
経済産業省は長らく製造業の支援に力を入れてきました。製造業の製品の多くは、明確なサプライチェーンが形成されており、顧客ニーズも利便性や効率性、あるいは価格などといったわかりやすい価値観がベースにあります。
一方、コンテンツは「価値基準の多様性」が非常に高い分野です。例えば、私と内島さんのゲームの趣味は違うかもしれませんし、人によって好きなコンテンツは異なるわけです。そうした状況で産業政策をどう設定するかというのは、難しい問題ですが、少なくとも既存の製造業で描いていた政策群では対応できません。
製造業は、良いものを作り、適切な売り方をすれば、売上の見込みも立ち、予見可能性が高い。そのため、次の打ち手の検討に進みやすく、その広がりとしての政策的な乗数もはじき出しやすい。一方、コンテンツ産業の場合は、そもそも何がヒットするかがわからない。例えば「Bling-Bang-Bang-Born」のヒットは誰が予想したでしょうか。政府にコンテンツの目利きはできないので、政策として創作活動そのものに対する支援は難度が高く、そもそも何をどのようにサポートすべきなのかは難しい課題です。
EBPM(Evidence Based Policy Making)が重要視され、「政策は“勝ち筋”を見通して、一定の予見性をもって行わなければならない」という要請が高まる中で、コンテンツ産業の政策的支援を実施することには難しさが伴います。しかし、世界の人々の可処分所得や可処分時間が増えていく中で、エンタメやコンテンツの分野に対する需要が高まってくるのは自明です。だからこそ、新たな時代で価値を生み出す分野であって、稼ぎ頭になる分野と考えて、政府としても力を入れていかなければなりません。
しかも、日本には、クリエイターの皆さんが作ってきた「多種多様な創作物」が、これだけたくさん「蓄積」されているのです。まだまだポテンシャルがあると考えて、海外支援やデジタル化などの産業基盤強化には、政策的にも力を入れています。他方で、リソースのかけ方として、「それでは1兆円かけて工場を作りましょう」という話ではおそらくないので、コンテンツ産業あるいは新生文化創造産業課として、どこに政策資源を振り向けべきるべきかは、しっかり議論を進めていく必要があるでしょう。
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――しかし、リソースのかけ方は既存の基幹産業の方が圧倒的に多く、コンテンツは少ないのではありませんか。
堀今は間違いなくそうです。例えば、現在の文化予算は政府全体で約1千億円と少ないのが現状です。また、経済産業省の中でも、他の予算に比べるとクールジャパンやコンテンツに対するリソースは相対的には小さいのが実態です。そこで、先ほどご紹介した「新たなクールジャパン戦略」では、内閣府が主導して「今後は基幹産業にしていくんだ」と宣言しましたので、今後、関係省庁で議論を進めていくことになります。
――新たな「クールジャパン戦略」が発表された時にX(旧Twitter)を見ていたところ、様々な意見が賑わっていました。一部ではクリエイターが「そんなことより、現場に金を落とすのが一番のクールジャパン戦略」というような主張をして、同調する声も見られました。クールジャパン戦略そのものへの意見や反応について、経済産業省としてはどう考えていますか。
堀さまざまなご意見ですとか、政策的に注目されている中でのリアクションは、Xでよく拝見しています(一同笑)。
ゲームに限らずコンテンツ産業の中で、制作現場に対してどれだけサポートが行き届いているのか、制作現場の環境がどうあるべきかといった議論は、国の新しい成長戦略(新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版)に係る、新しい資本主義実現会議の議論の中でも行われています。
省庁間での役割分担はもちろんそれぞれの目指すべき姿に応じてそれぞれありますが、政府全体として整理していく必要があるでしょう。経済産業省は海外展開や海外状況を長く担当してきましたし、海外の需要をしっかり取ってきて、それが現場に行き渡るような仕組みやあり方を政府全体でしっかり考えていくことが重要だと思っています。
「クールジャパン」という旗を振るのは「海外に出て食べていこう」ということなのですが、現場目線ではそれが実際に改善に繋がっていくプロセスがなかなか見えにくく、「そんなことよりまずは目の前の環境改善を」というご意見は大変よく分かります。
海外から取ってきた需要がきちんと現場に行き渡る仕組みにどのような物があるのかという議論は、経済産業省だけでなく政府全体で始まっています。文化振興なら文化庁、放送なら総務省、外交なら外務省といった具合に、コンテンツにはさまざまな省庁が関わってきます。そうした省庁と連携しながら進めていく必要があると思っています。
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――最後に、今後の展開についてお聞かせください。
内島先ほど韓国の事例が話題にあがりましたが、韓国コンテンツ振興院は今年「ChinaJoy」、「gamescom」、「東京ゲームショウ」の3か所に大規模なパビリオンを出展すると発表しています。インディー中心の支援として、「BitSummit」にも韓国パビリオンを出展していました。かたや、日本は「gamescom」に3タイトルの試遊台だけです。今回は規模が小さいのでジャパンブースと呼んでいますが、今後はもっと大きなスペースを取ってパビリオン化していきたいと思っています。
また、ゲーム開発者からパブリッシャーに向けてのピッチイベント(Sakura Game Pitch)を9月29日に開催する予定です。日本は海外に比べて自分のゲームをパブリッシャーや投資家にピッチをする機会が極端に少ないので、そうした場を提供していきたいと考えています。
堀政府全体としては、本年6月のタイミングで様々な戦略が発表されました。国としてもコンテンツ産業戦略を大きく打ち出していますので、我々は民間事業者の方が作るものをしっかりデリバーできるようにサポートしていくつもりです。政府全体の司令塔は、内閣府の知的財産戦略推進事務局ですので、関係省庁が一体となって連携をさらに深めていくのが大事だと考えています。
ゲームは日本のさまざまなクリエイションの中でも総合芸術的で、非常にコミットメントが高く、ファンが生まれやすいコンテンツです。今まさにVIPOが実施しているような支援を通じて、新しいIPがたくさん出て来るように、そして海外に出て行けるように、しっかりサポートしていきます。
――本日は多岐に渡るお話をありがとうございました!
※UPDATE:Sakura Game Pitchの開催日に誤りがあったので修正しました。