2024年12月3日から6日まで、東京国際フォーラムで研究、アート、アニメ、ゲーム、インタラクティブ技術、新技術などさまざな技術分野/クリエイティブ分野で活躍する業界関係者が集結する「SIGGRAPH Asia 2024」が開催されました。
本稿では映像制作プロダクションの白組とOLMによるセッション「Discussion with VFX Producers in Japan: How to get the work? / How do we create an R&D department in studio?」のレポートをお届けします。
白組とOLM、それぞれのR&Dとの向き合い方
セッションは「この10年でVFXの現場が何が変わったか」をテーマとするディスカッションで、前半は社内にR&D専任部門を持つOLM Digitalと、部門を持たない白組の双方の視点からR&Dとの向き合い方を探るクロストーク、後半は白組プロデューサー3名の立場からVFXの仕事を受注する際のアプローチが語られました。
OLMはR&Dを積極的に行い、知識は業界で惜しみなく共有

セッション前半・後半を通して白組の鈴木勝氏が進行を務め、前半はOLM Digitalの安生健一氏と、白組の高橋正紀氏が登壇しました。白組は1974年の設立当初に小規模なR&Dチームがあったものの、基本的には映像制作一筋で、R&Dは必要が生じたときにスタッフが都度行う形になっています。


一方のOLM Digitalは、1997年に設立されると同時に安生氏がR&D専任チームを設立しました。当時代表取締役だった奥野敏聡氏による「デジタル技術はこれから普及していくので、もっとパワフルな会社にならなければならない」という鶴の一声で始まったとのことです。

2000年になると、白組は山崎貴氏の映画監督デビュー作となる『ジュブナイル』を公開。当時はさまざまな映像制作プロダクションがオリジナルツールを作って活用していたものの、白組は「既存のツール/ソフトを使いこなす」方向に注力しており、同作はピクサー・アニメーション・スタジオによる「RenderMan」で制作されたそうです。
OLM Digitalの母体であるOLMは、98年に『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』を公開し、翌99年にハリウッドでリメイク作品『Pokemon: The First Movie - Mewtwo Strikes』を公開。手書きになじむ3D効果を加えたハイブリッド式の作品となりました。
安生氏によれば当時は「CG制作のベテランスタッフと、ワークフロー、パイプラインの更新について話し合っていた時期」であるとのことで、知識を共有するためにR&Dチームによる社内勉強会も実施。また、蓄積した知識や技術を業界で共有すべく、勉強会の内容をまとめた書籍「テクニカルアーティストスタートキット -映像制作に役立つCG理論と物理・数学の基礎-」を2012年に出版しています。

2005年から白組は最新技術を作品制作に導入、軋轢を生むことも
2005年を過ぎると、白組は『ALWAYS 三丁目の夕日』や『K-20 怪人20面相・伝』などのヒット作を制作。同時期から、ポスプロ(ポストプロダクション/収録・撮影後の技術的仕上げ作業の総称)との共同作業がスタートしました。
ポスプロとの連携が始まった経緯は、当時まだ使用されていたフィルムが気候などの外的要因で色味が変わってしまうことから、仕上げの工程から変えていくのがよいと判断したとのことです。
R&Dに関しては、専任チームを作るのではなく最新作の制作に少しずつ新しい技術を取り入れるようにしました。しかし、「専用のモニターでなければ仕上がりを確認できないのに、そのモニターを1台しか導入できなかった」ことなどがあり、スタッフから反感を買ってしまうこともあったようです。

2010年以降は両社が社外との連携を強化
2010年を過ぎると、2社ともに社外に協力を求め始めるようになります。白組はメインで使用するソフトをRenderManから「Mental ray」に変更。CGや映像の最終ルックが「他社が手がけたものよりも、クオリティが一段階上」のものにできるよう、ソフトをとことん使い倒しました。
最終ルックの善し悪しの大半はグレーディング(最後に映像の階調や色調を整える画像加工処理)で決まるため、ツールなどを提供してくれる他社に積極的なフィードバックも行ったとのことです。
高橋氏は「社内にR&D専任チームがいて、社内だけで理想の絵作りをできればそれが理想」であるとしつつも、映像制作を専門に行うプロダクションでその体制を整えるのは難しいとも述懐。それよりも、特定の技術やツールの活用先を求めているメーカーと協力し、最先端の作品でとことん使い倒してフィードバックすることでWin-Winとなる体制を選んだと語りました。
OLMは、デザイナーとのコミュニケーションを通して開発されたツールの一部を「OLM OpenTools」として他社に提供し、そのフィードバックを得るという形で他社との関わりを強めるようになりました。
さらに、今では2年に一度のペースで研究・開発中のものや実用段階に至った独自の映像制作ツール群をお披露目する「OLM R&D祭」を開催中。社外のニーズを知り、さらなる開発・改善につなげる構えです。
単一のソフトとしてブラッシュアップし、リリースすることも検討されましたが、十全にサポートする体制まで整えるのは困難であるとの判断から、ツールの(無償)配布という道を選びました。
映像制作一本に特化し、技術やツールを提供してくれる他社と協力することでR&Dの代わりとするか。映像制作とともに積極的なR&Dを並行して行い、他社からのフィードバックも得るか。白組とOLMのスタンスは対照的ですが、鈴木氏は「(どちらの道にせよ)継続し続けることが大切」であるとし、セッションの前半をまとめました。