2025年1月9日にPS5/PS4/Switch/PC(Steam)向けにバンダイナムコエンターテインメントからリリースされた『FREEDOM WARS Remastered』(Steam版のみ1月10日リリース)。
2014年にソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント/SIE)からPS Vitaで発売された奪還マルチプレイアクション『FREEDOM WARS』のリマスター版となる本作は、一部のキャラクターの音声にHOYA社の音声合成ソリューション「ReadSpeaker」を導入しています。
オリジナル版に引き続き開発を手がけるディンプスのコアスタッフに、ReadSpeaker導入の経緯やReadSpeakerならではの魅力を聞きました。

「懲役100万年」などの尖ったフレーズや世界観が人気を獲得
――まずは自己紹介をお願いします。
塚本高史氏:ディンプスの塚本です。オリジナル版『FREEDOM WARS』ではディレクターを務め、リマスター版では制作プロデューサーを担当しています。
関哲之介氏:同じく、ディンプスの関です。リマスター版の開発ディレクターです。
原田創多氏:テクニカルディレクターの原田です。ReadSpeakerのテクニカルサポートとのやり取りは私が担当しました。
大島弘康氏:サウンドディレクターの大島です。オリジナル版の開発にも、サウンドデザインリードとして携わりました。

――あらためて『FREEDOM WARS Remastered』の概要を教えてください。
塚本:『FREEDOM WARS』は資源が枯渇しきった遠い未来のお話で、人は生まれた瞬間に懲役100万年というあまりに重い罪を背負うことになります。
舞台となるパノプティコンという巨大な完全環境型都市では、資源を効率的に管理するため、絶対的法典「PT法」に基づいて、リソースを徹底的に管理する超管理社会という世界観設定です。主人公も罪を背負った“咎人”の1人で、5歩歩いただけで懲役、横になって寝ても懲役、異性と近づくことも許されないなど、許可なく行動すると懲役がどんどん上乗せされていきます。

咎人は「ボランティア」と呼ばれる戦闘に参加し、社会に貢献することで刑期を軽くしつつ人としての権利を得られるようになっていきます。大きな特徴は、主人公を含む咎人たちは汎用監視型アンドロイド“アクセサリ”に常に監視されているということです。
アクセサリはボランティア(戦闘)にも同行して戦いをサポートしてくれるのですが、見た目だけでなくセリフもカスタマイズできるのが魅力です。このアクセサリの音声に、音声合成技術を活用しています。

――リマスター版の制作はどのような経緯で決まったのでしょうか。
塚本:本作は「懲役100万年」というキーワードや徹底された超監視社会などの設定がものすごく“尖った”タイトルで、この世界観は今の人たちにも興味を持ってもらえるはずだとずっと考えていました。

SIEさんとも何度かお話させていただき、10年目という節目についにリマスター版を実現する機会に恵まれました。再び日の目を見られるなら海外にも強くアピールしたいと考えていましたので、グローバルな販路を持つバンダイナムコエンターテインメントさんにパブリッシングを受けていただけたのも僥倖でした。
――リマスター版では、どのようなところが進化/改善されているのでしょうか。
関:一番目を引くのはグラフィックの進化です。現行機に合わせた高解像度のものになっており、PS5版とSteam版は4Kにも対応していますし、Switch版以外は60fpsでプレイできます。バランス面についても、オリジナル版を遊んでくださったみなさんの声を参考に、難度を調整したり武器生産システムを刷新したりと、より遊びやすくしています。
ReadSpeakerで自由に設定したセリフを発声してくれるアクセサリに思い入れを持ってほしい
――今回のテーマである音声合成技術についてお聞きします。汎用監視型アンドロイド“アクセサリ”の音声は、オリジナル版の頃から音声合成技術が採用されていました。
塚本:オリジナル版を開発していた2010年代初頭は「初音ミク」という合成音声を使った技術でボカロP(ボーカロイドプロデューサー)が自由に歌詞を作り、曲を作って歌を歌わせたものを配信するのが流行っていましたよね(編注:「初音ミク」は2007年リリース)。とても視聴率も高く人気のコンテンツでした。
バディーであるアンドロイドのアクセサリについても、ただ戦いをサポートするだけではなく、外見を変えたり、好きなセリフを自由に喋らせたりできる「カスタマイズ要素」があれば、アクセサリに対してより強い思い入れを持ってもらえるのではないかと考えました。これは、オリジナル版開発メンバーの間ではかなり初期のころに考えていましたね。
バトルでは、アクセサリが状況に応じてプレイヤーの援護や回復、またはプレイヤーの指示で行動する際のセリフを自由に設定変更することができます。実際にプレイヤーのみなさんが設定したセリフを見ていると本当にさまざまで、アクセサリへの愛情のようなものが感じられ、音声合成技術を採用して正解だったな、と。
<『FREEDOM WARS Remastered』アクセサリの音声再生シーン>
また、資源が枯渇しきった未来世界ではアクセサリ自身も重要な資源なので、アクセサリが倒れてしまったまま放置すると敵に奪われてしまう場合があります。
そうなると、プレイヤーのもとにプレーンな“代替アクセサリ”が新たな監視役として着任するのですが、それを見ると「やってしまった……!」と後悔するんです。
――自分の監視役のはずなのに、いつの間にか愛着が湧いていたというわけですね。
関:はい(笑)。ストーリーではベアトリーチェというヒロインがいるのですが、「真のヒロインはアクセサリだ」とおっしゃってくれる方も多く見られました。
塚本:また、音声合成技術はアクセサリだけではなく、牢国都市パノプティコンの超高性能汎用窓口(マスコットキャラ)であるプロパくんにも採用しています。プロパくんはなにかと主人公をアオりますが、子供のようにたどたどしく舌ったらずな声色・口調に設定を調整することでギリギリ許せるラインを保ちつつ、ディストピアな世界観をうまく表現できたと思います。

――ReadSpeakerはリマスター版からの採用とのことですが、導入の経緯や決め手となった理由を教えてください。
関:先ほどもお話しましたが、リマスター版は「国内だけでなく海外のユーザーにも強く訴求する」のがねらいのひとつになっています。しかし、オリジナル版で採用した音声合成技術は日本語のみの対応でしたので、英語にも対応したソリューションへの変更は必須だと考えていました。
<『FREEDOM WARS Remastered』アクセサリの音声カスタマイズ編集シーン(英語)>
原田:さらに、PS5、PS4、Switch、Steamのすべてに対応し、どのプラットフォームにも負荷をかけず組み込めるものであることも必要な要件でした。
他には、話者数が豊富であるか、その中にプロパくんを任せられる特徴的な話者がいるか、本作独自の用語をきちんと読み上げてくれるか……などですね。そういった細かい要件まですべて満たしてくれるソリューションはReadSpeakerだけでした。
大島:子供の声を模した話者が複数いて、選択肢が確保されていたのは嬉しかったですね。
原田:組み込みができるけど対応言語は日本語のみ、日本語と英語に対応しているけど組み込みができずクラウドのみ……というソリューションも多く見られますので、「なぜReadSpeakerを選んだか」というよりは「ReadSpeaker以外の選択肢はほぼない」という状況に近かったです。話者が豊富なおかげで、アクセサリの音声パターンも8種類用意できました。
――数と種類が豊富な話者数と、マルチプラットフォーム対応が決め手になったということですね。
CVAA法への対応も容易に
――ReadSpeakerを導入した感想を教えてください。
塚本:音声合成エンジンを提供されている企業が目指しているのは「流暢な言葉を話す」というところにあると思いますし、ReadSpeakerもとても優秀なソリューションだと感じました。
原田:初めて触るミドルウェアを採用してスケジュール通りに進められるだろうかという不安もありましたが、組み込みやすく、ボイスの確認が容易なのもよかったです。ReadSpeakerには、他の点でもいろいろと助けられました。
――具体的には、どのようなことが挙げられるでしょうか。
原田:まずはCVAA法(21st Century Communications and Video Accessibility Act/21世紀の通信と映像のアクセシビリティ法)への対応です。2019年からゲームもこの法律の対象となったことで、北米でゲームをリリースする際はゲーム内のテキストチャット部分を音声読み上げに対応させる必要があります。その読み上げにもReadSpeakerを使用しています。
あとは広報展開ですね。プロモーション動画で使用されている音声もReadSpeakerによるもので、事前にご相談したうえでゲーム外でも活用させていただいています。最終的には、音声合成でやりたいと思っていたことはReadSpeakerのおかげで全てやりきることができました。
――導入に際し、ReadSpeakerとはどのようなやり取りをされましたか。
原田:基本的にはメールベースで、最新の環境にアップデートするときなどにサポートの方に相談させていただきました。音声合成技術をゲームで採用する事例がまだ少ないようですが、非常に丁寧に対応していただいたのでスムーズでした。
――ディンプスからの要望を伝えることはあったのでしょうか。
原田:品質向上のためのノイズの処理や、APIの追加などを相談させてもらいました。無理なお願いだったと思いますが、そういうところも迅速に対応していただいて感謝しています。

ゲームをグローバル展開するならReadSpeakerは強力な選択肢
――細かくコミュニケーションを取りつつ、要望も反映されたということですね。『FREEDOM WARS Remastered』リリース後の展望や目標を教えてください。
塚本:このリマスター版が成功といえる結果を出せれば、ここから続編にもつなげられると思います。世界中の方々に本作に触れていただき、好きになってもらうことでシリーズ化できたらよいなと考えています。
――先ほど、ReadSpeakerをゲームに導入する事例はまだ少ないというお話がありましたが、今回の導入を通してどのような可能性や魅力を感じましたか。
塚本:本作にかぎった話ではありませんが、今日はクロスプラットフォームのゲームをグローバルにリリースすることは珍しいことではありません。世界中のプレイヤーたちが、一つのミッションをクリアするために協力することだってあるわけです。そして、そんなときに今も立ちはだかるのが言語の壁です。
言葉を使わずとも相手の動きや定型文などで判断することはできますが、将来的には日本語で「援護してくれ!」と言ったらリアルタイムで英語に翻訳されて相手にも音声で伝わり、さらにどのような音声(声優さんの種類)にするかも好きに選べる……というような未来が音声合成エンジンで実現できたら面白いなと思います。
また、間に音声合成を介することで、公序良俗に反するようなNGワードが出てきたときも違う言葉に変換したり、自主規制音をかぶせたりということも可能になるかもしれません。海外の人たちと気軽に言葉でコミュニケーションできるようになったらいいですね。
大島:昨今はAIを活用してNPCのセリフを考えさせる研究が見られますが、実用化に至ったときに、文脈を読み取って感情を乗せられる音声合成に発声させたらおもしろそうですね。文章をAIが考えて、演技は音声合成ソリューションが考える。人の手を介さないゲームキャラが実現する未来は遠くないのかもしれません。
ただ、ゲームは緊迫したシーンでは感情を大きく乗せた演技が必要になりますので、音声合成がそこをどう乗り越えるかは課題になりそうです。

塚本:前後の文脈や言葉の意味合いを動的に拾い上げるだけでなく、適度にブレス(息つぎ)が入ったり、間(ま)のようなものが絶妙な感じで表現できたりするようになると、ゲームでの需要も大きく増すのではと思います。
関:繰り返しになってしまいますが、ゲームを北米市場にも展開するならCVAA法への対応が必要になりますので、流ちょうにテキストを読み上げるReadSpeakerは強力な選択肢になると思います。
ReadSpeakerの発音は、本当に流ちょうですからね。『FREEDOM WARS Remastered』では、意図的に機械的に聞こえる調整をしているほどですよ(笑)。
――テキスト読み上げ機能としての有用性に加え、アクセサリのようなキャラクターであればキャラボイスとしての採用も折り紙付きということですね。ありがとうございました。
尖った世界観や監視型アンドロイド“アクセサリ”の存在によって、コアなファンを多く生み出した『FREEDOM WARS』。リマスター版ではその魅力をより多くの人に届けるため、グローバル展開する音声合成ソリューション「ReadSpeaker」が採用されました。多言語、マルチプラットフォームへの対応により、本作のグローバル展開における強力な推進力となっています。
ReadSpeakerの高い品質とカスタマイズ性は、ゲーム開発における音声ソリューションの新たな選択肢といえるでしょう。
ReadSpeaker 公式サイト©2025 Sony Interactive Entertainment Inc. and Dimps Corporation. FREEDOM WARS is a registered trademark of Sony Interactive Entertainment LLC and related companies in the United States and other countries.
Published by Bandai Namco Entertainment Inc.
「ReadSpeaker」は HOYA株式会社 または HOYAグループ会社が保有する 日本国およびその他の国における登録商標です。