『NINJA GAIDEN 4』にも携わるXboxの女性開発者・𠮷野ジェニファー氏に訊く:ゲーム業界で働く女性のキャリア、現状とこれから | GameBusiness.jp

『NINJA GAIDEN 4』にも携わるXboxの女性開発者・𠮷野ジェニファー氏に訊く:ゲーム業界で働く女性のキャリア、現状とこれから

ゲーム開発において、女性の視点は新たな価値を生み出す重要な要素です。

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『NINJA GAIDEN 4』にも携わるXboxの女性開発者・𠮷野ジェニファー氏に訊く:ゲーム業界で働く女性のキャリア、現状とこれから
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本日3月8日は国際女性デーです。国際女性デーは、今から100年近く前の運動を起源とし、50年前に国連で制定された女性の社会的・経済的・政治的な平等と権利向上を目指して、世界中で祝われる特別な日です。女性の権利と尊厳を称える日として、各国でさまざまな取り組みやイベントが行われています。

そんな特別な日にあわせ、Game*SparkではXbox Game Studios Publishingのシニアテクニカルプロデューサーを務める𠮷野ジェニファー氏にメールインタビューを実施しました。幼い頃からゲームに親しみ、トロント大学でコンピューターサイエンスを学んだ𠮷野氏は、エンジニアからキャリアをスタートし、現在は先日発表された『NINJA GAIDEN 4』をはじめとする日本のタイトル開発をサポートする重要な役割を担っています。本インタビューでは、ゲーム業界を目指すきっかけから、日本と海外のゲーム開発の違い、そして女性クリエイターの視点がもたらす価値まで、多岐にわたるテーマについてお話を伺いました。



ゲーム業界に飛び込むまで―ジェイド・レイモンド氏との出会い

――ジェニファーさんの自己紹介をかねて、ゲームとはどのように関わってきて、なぜゲーム業界に進もうと思ったかを教えてください。

𠮷野ジェニファー氏(以下、敬称略)子供の頃からずっとゲームには興味があり、プレイすればするほどたくさんの喜びをもたらしてくれていました。幼い頃の思い出の中にはゲームに関するものが多く、たとえば新しい街に引っ越したとき、両親が私と兄弟のためにスーパーファミコンを買ってくれたことを今でも覚えています。また、日本語版『ファイナルファンタジーXI』を個人的に輸入し、ゲーム内のプレイヤーとコミュニケーションを取るために日本語を学び始めたのも大きな経験でした。

キャリアに関しては、トロント大学でコンピューターサイエンスを学んでいた学生時代にゲーム業界への道を歩み始めました。当時、学生主導のゲーム開発クラブに参加し、ゲーム開発に関する授業もいくつか受けていました。特に印象的だったのは、ちょうど新しく設立されたUbisoft Torontoスタジオの責任者であり、私にとって模範的な人物であったジェイド・レイモンド氏*に直接会う機会に恵まれたことです。この出会いに深く感銘を受け、ゲーム業界でのキャリアを本気で目指すようになりました。
※編集註:レイモンド氏は『アサシンクリード』のプロデューサーなどを務めた女性開発者として知られる

GDC2019で登壇するレイモンド氏(Photo by Justin Sullivan/Getty Images)

とはいえ、卒業後すぐにゲーム業界での仕事を得られたわけではなく、ソフトウェアエンジニアやテクニカルプロダクトマネージャーとして様々な業界を経験しました。しかし、ゲーム業界への夢はずっと持ち続けていて、あるとき業界のベテランメンターから「思い切って飛び込んでみたら?」と背中を押されました。その一言が大きなきっかけとなり、ついにゲーム業界でのポジションを得ることができました。そして最終的に、東京のXboxチームでプロダクションの仕事に就くことができました。

――日本に憧れて来日されたということですが、憧れていた頃の日本と今の日本に違いはありますか?

𠮷野日本に来たときは、ほとんど土地勘がないまま引っ越しをしたことを覚えています。なにせ、以前に一度旅行で訪れたことがある程度でしたから。当時は東京の巨大さと圧倒的なエネルギーに圧倒され、「この街のプレッシャーから逃れる方法はないのでは?」と悩んだことを今でも覚えています。 しかし、日本各地を旅するうちに、この国では都会の文化だけではなく、さまざまな環境に身を置くことができることを知り、その魅力にすっかり惹かれてしまいました。

――エンジニアからプロダクトマネージャーになろうと思った理由はなぜでしょうか?

𠮷野私のキャリアはソフトウェアエンジニアとしてスタートしました。プログラミングの論理的思考が大好きだったからです。同時に、ユーザーと関わりながらフィードバックを仕事に取り入れることにも魅力を感じていました。そんな中、当時のメンターであり、同じ会社のシニアプロダクトマネジメントリーダーだった方から「よりスケールの大きい役割に挑戦してみては?」とアドバイスを受け、約1年間プロダクトマネージャーの仕事を間近で学ぶ機会を得ました。エンジニアとして培ったスキルがプロダクトマネジメントにも活かせると実感し、その経験がとても良いものだったため、本格的にこの道を進むことを決めました。

――Xbox Game Studiosでのキャリアをどのように築いてこられましたか?現在のポジション・業務とあわせて教えてください。

𠮷野私の役職は、Xbox Game Studios Publishingのシニアテクニカルプロデューサーです。このポジションは、マイクロソフトが日本国内でファーストパーティーのゲームプロジェクトを支援する現地チームを立ち上げたタイミングに発足されました。私の主な業務は、マイクロソフトのグローバルチームと日本のゲーム開発パートナーの間での調整や、資料の英日翻訳です。また、開発チームをサポートするためのネットワークやサーバーなどのインフラ管理も担当しています。

――直近では『NINJA GAIDEN 4』のプロジェクトにも携わられていますね。具体的にどのような形で関わられているのでしょうか?またコーエーテクモさんとプラチナゲームズさんとのやりとりで印象的なことがあれば教えてください。

𠮷野「NINJA GAIDEN 4」では、私は広範囲にわたる技術的な制作管理の役割を担当しています。私のチームは、開発プロジェクトの技術面でできる限りサポートを提供しており、テストや最適化の手伝いを行いながら、Team NINJAとプラチナゲームズが素晴らしいゲームプレイ体験を作り上げることに集中できるようにしています。私たちは、Team NINJAやプラチナゲームズとこのような協力関係を築けたことを非常に光栄に思っています。その一環として、私たちは定期的にオープンなフォーラム形式で進捗状況を共有する会議を開いていて、誰でも議題を持ち寄って話し合える場を設けています。こうした取り組みは、3つの組織間での整合性を保つための非常に効果的な手段となっています。ゲームそのものは最近発表されたばかりなのですが、私たちはまるで忍者のように、陰でこっそりと協力をしていたわけです。

また、Team NINJAとプラチナゲームズの開発チームと一緒に仕事ができることに、個人的には感激しています。長い間、彼らのユニークなアクションゲームのスタイルの大ファンだったので、今でも今回のような機会に恵まれたことを非常に嬉しく思っています。

――現在『NINJA GAIDEN 4』以外の日本のタイトルにも携わられているのでしょうか?

𠮷野私の役割は、日本国内におけるXbox Game Studio Publishingのプロジェクトの担当です。進行している各ゲームプロジェクトに関わり、開発者らがそれぞれのクリエイティブなビジョンを十全に実現できるようサポートする機会を得ることができ、とても幸運に思っています。短期的には、今後発売の『NINJA GAIDEN 4』を皆さんに手に取ってもらえる日を非常にワクワクして待っています。

ゲーム業界における生成AIとマイクロソフトの役割、日本と海外のゲーム開発の違い

――CEDEC 2023で登壇されたセッションでは生成AIについてもお話されていました。ゲーム開発における生成AIの可能性についてどのようなお考えをお持ちですか?また、CEDECでの講演時からXboxチームの中で生成AIについての向き合い方に変化はありましたか?

𠮷野ゲームは世代を重ねるごとに、今後も技術的および芸術的な表現の複雑さと深さが増していくと考えています。そのため、時間が経つにつれて、ゲームクリエイターにはより大きな投資が求められるようになるとも考えています。最近、Microsoft Researchと共に、Xboxは「Muse」という生成AIモデルを発表しました。このモデルは、将来的にはゲームの開発チームがクリエイティブな手法で新しいゲームプレイ体験のプロトタイプを作成したり、アイデアを出したりするのを手助けできるポテンシャルを持っています。もちろん、最も魅力的な体験は、人間のクリエイターによるサポートとガイダンスによって得られるものであるとも感じており、クリエイター自身の創造性がゲーム開発プロセスの中心にあり続けることが重要だと思います。



CEDECでのパネルディスカッションだけでなく、日本と海外のゲーム開発の違いについて新たに気づいたことやずっと感じていることはありますか?

𠮷野ここ数年、日本の開発者が海外市場のゲーマーに直接ゲームをアピールしようとする傾向が強くなっているのを感じています。多くのゲームが全世界で同時に発売されるようになり、セリフの音声や字幕のトラックが複数用意され、アラビア語など右から左へ読む言語に対応した機能も増えてきました。中には、海外で人気を集めたオープンワールド形式が日本で開発され、成功を収めているゲームに取り入れられるケースもありますが、それでも精緻に作り込まれたストーリーやゲームプレイ体験がこの市場では依然として主流です。技術的な視点から見ると、日本のスタジオが新しいクラウド技術やアニメーション技術を取り入れ、海外市場で主に開発された知識を元に、それらを開発フローに組み込んでいるのがわかります。こうした技術や知識は、Game Developers Conference(GDC)のような国を超えた集まりではよく議論されてきました。

ゲーム業界における女性の視点とキャリアについて

――ゲーム開発において、女性の視点が特に活きた具体的な経験を教えてください。

𠮷野若い頃は、キャラクターやゲームデザインの面で情緒をくすぐりつつも、女性である私自身に向けて明確に語りかけてくれるゲームに強い共感を覚えました。ゲームは非常に多様で幅広いプレイヤー層に楽しまれていますが、女性がゲーム開発において十分に関われていないことがあるため、実際にゲーム開発に関わる立場の女性たちが、ゲーム内で女性のありのままが表現されるよう、手助けをすることは必要と考えています。そうした点から、私は自身の視点を伝え、そんな大きな顧客層の視点を共有し、代表できることは幸運だったと思っています。このおかげで、女性キャラクターのキャラクターデザインや開発プロセスに参加する機会を得ることができました。若い女性が私たちのゲームをプレイする際、彼女たちがキャラクターやゲームの世界観をすんなりと受け入れられ、その中で活躍する女性たちが丁寧に表現されていると感じてくれることを願っています。

――男性の開発者が女性の開発者と協働する際に意識しておくべきことはなんでしょうか?

𠮷野女性のゲーム開発者を含め、すべてのチームメンバーが歓迎され、参加できる環境を育むことは非常に重要であると思います。協働をするにあたっては、すべてのメンバーがチームに貢献する重要な役割を果たし、誰もが快適な環境で十分に支援を受けられていると感じられるようにすることが大切です。その上で、あらゆるチームに向けて、才覚のあるメンバーは見つけ次第、その才能をより高みへと引き上げられるような体制を作ることを奨励したいと思います。 次世代のリーダーたちを育てる上で、模範となる存在がどれほど重要かは計り知れません。

――ゲーム業界を目指す若い女性たちへ、キャリア構築のためのアドバイスをお願いします。

𠮷野キャリアの初めは、どの役割からスタートすべきか迷うこともあるかもしれませんが、あまり気にしすぎなくても大丈夫です。特に若い女性には、意識的に多様な仲間やメンターとのネットワークを築くことをおすすめします。そのつながりや新しいスキルの習得を通じて、キャリアの選択肢が広がり、思いがけないチャンスも増えていくはずです。何よりも、自分の情熱に従って自由にキャリアを築いていってほしいですね。そして、ゲームを作る仕事は本当に楽しいので、ぜひ思いっきり楽しんでみてください!

ゲーム業界の現状とこれから

――日本のゲーム業界における女性の割合について、どのように感じていますか?海外との違いを感じる点はありますか?

𠮷野日本のゲーム業界には確かに性別によるギャップがまだありますが、新しい才能が頭角を現しつつあるという点に関しては特に前向きに感じています。 以前よりも、優秀な女性クリエイターがプロジェクトのリーダーとして活躍する姿を目にする機会が増えてきました。こうした主導的な立場にいる女性の存在が、クリエイターを志望する若い女性たちに業界への興味を持ってもらうきっかけにもなっています。

――日本には世界的にも著名な女性クリエイターやアーティストは多数いますし、仰るように業界で活躍する女性は増えてきていると感じます。一方で経営層やプロデューサー層ではまだまだ男性が多いのが現状です。大規模なイベントでプレゼンをするのもほとんどが男性、メディアに登場するインタビュイーもほぼ男性。さらに自らを省みるとメディア側もほぼ男性……という状況です。日本と海外を比べてその比率がどうか、また現状をどう見ていますか?

𠮷野日本のゲーム業界はまさに世代交代の時期を迎えており、私はこの変化を悲観的には捉えていません。私自身の経験を振り返ると、マイクロソフトやXboxに惹かれた理由の一つは、特にGaming部門において、私と似たバックグラウンドを持つ女性が多くのシニアリーダーシップの役職についていることでした。実際に入社してみると、会社全体、さらには業界全体が女性の才能への投資を積極的に支援していることをすぐに実感しました。





この10年、ゲーム企業に限らず北米や欧州の企業を中心として確実にDEI(「Diversity(ダイバーシティ、多様性)」「Equity(エクイティ、公平性)」「Inclusion(インクルージョン、包括性)」)が推進され、ゲームにも少なからず影響を与えたと思います。具体的にどのような変化があったと思いますか?クリエイティブ(ゲーム)に対する直接的な影響だけでなく、組織的環境(例:労働環境やチームのダイナミクス)と技術的環境(例:アクセシビリティ機能やユーザーインターフェースの設計)について、ご意見をうかがいたいです。

𠮷野先ほどもお話ししたように、ゲームは非常に幅広く多様な人々に楽しまれています。根底では、ゲームとは誰もが作ることができ、誰もが楽しめるものである、という認識を私は持っています。そのゲーム開発のプロセスに新しい声を招き入れる流れが強まっていることを、私は強く感じています。

例えば、コントローラーのリマッピングや色調調整などのアクセシビリティ機能を予め備えた製品を開発するチームが増えており、これまでゲームを楽しむことが難しかったプレイヤー層にも楽しみに加わる機会が提供されています。こうした機能を開発するチームは、決して独自の判断だけで進めているわけではありません。成功させるためには、実際の経験を持つ人々の意見を取り入れ、プレイヤーの期待に応えることが不可欠なのです。

個人、そしてゲーム業界の未来

――今後のキャリアにおいて、特に取り組みたいプロジェクトや目標はありますか?

𠮷野私には追求する機会を探している二つの個人的な目標があります。まず一つ目は、女性が主導するチームやプロジェクトの才能と多様性を促進すること、そして二つ目は、ゲーム開発の技術的な複雑さを減らし、プレイヤーにとってより多様で魅力的な体験を促進することです。女性の声や才能が登場している一方で、ゲーム開発は今や非常に技術的に複雑になっています。この両方を達成することは大きな挑戦ですが、私は今、私たちのチームと業界がその成果を上げられると確信しています。

――日本のゲーム業界が国際市場でさらに競争力を高めるために、どのような戦略が必要だと思われますか?

𠮷野個人的には、日本のゲーム業界は極めてユニークであると考えています。なぜかと聞かれれば、芸術やデザインのようなクリエイティブな分野で若者たちが役職や成長を達成できるよう、非常に洗練された教育システムがサポートしているから、というのが私なりの解釈になります。改善できる点としては、エンジニアリングの才能にも同様のアプローチを奨励すべきと考えています。現状、優れた若手エンジニアは、国内ではなく海外での役職を求めることがあるからです。企業が協力し、こうした才能の育成に特化して、例えばキャリアの発展に注力することで、日本のゲーム業界全体の強化につながると強く信じています。

――ありがとうございました!


《宮崎 紘輔@Game*Spark》

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