インディーズゲームとして3次元のコンピューターグラッフィックスを駆使した格闘ゲーム「EF-12」を無料提供しているクリエイター小野口正浩氏(株式会社クアッドアロー代表)を訪ねてきました。小野口氏は「自分がコンピューターゲーム開発に関わって、拘っているのは、自分が生きている間や、まして、死んだときにこれを創ったというのを残したいからだ」というものでした。モノ創りに携わるものならば誰もが持っているだろうと思われますが、会社経営を優先するがあまり、その部分をいつのまにか忘れ去ってしまうクリエイターも多いのは事実です。さらに「コンピューターゲームを映画や文学やスポーツなどと同等の文化にしたい。そのために自分ができることを貫く。そして、自分は道を切り開くことができればいい。そしてその道を舗装するのは自分たちでなくてもいい。舗装や整備は、後進がやってくれればそれでいい。ただし、自分が生きた証として、自分が創ったものとしてEF-12を世に残したい」とも言いました。『EF-12』は全て無料ダウンロードで、あとから追加で何か費用をとられることもありません。むしろ無料にもかかわらずユーザーからのレポートに応じてバグ(問題個所)の修正やプログラムの追加を行っています。そのプログラムのダウンロード実数に関しては把握していないそうですが、多くのユーザーは、プログラム自体を様子見しているようで、もっと多くの機能プログラムが実装されるのを待っているではないか・・・というのは小野口氏の分析です。大手のメーカーの有名な格闘ゲームの完成度から見たら3割程度の出来なので、それは致し方ないとも言います。コンピューターゲームの歴史は30年と短いものです。小野口氏はコンピューターゲームと将棋を対比します。そこには文化的な違い、もしくは格式的な違いを感じているように見受けました。先ごろ行われたプロ棋士対コンピュータの電王戦を例に挙げて、「あれは人間とコンピュータだから話題になるのです」という。つまりゲームに興味が無い人にも将棋と言うコンテンツを通じて訴求できる貴重なチャンスであり、イベントだからと言えます。つまり電子機器同士が対戦してもそれは特段話題にはならない単なるゲームにすぎないということです。その解釈に基づけばコンピューターゲームはまだ文化としての格式を得ていない。もしくは他の文化との対比のなかでしか語られないということになります。かつてコンピューターゲームの黎明期にはプレイヤー(当時は小中学生)にゲームの面白さを伝える「名人」という存在がいました。しかし、それらも時代に流れのなかで、メーカー側の売らんかなという姿勢や危うさのなかで徐々に姿を消していきました。小野口氏に言わせれば「あのゲーム名人ブームがいいかたちで継続していれば、現在のコンピューターゲームやプレイヤーのライフスタイルも違ったものになっていたかもしれない」というものです。それは海外ではコンピューターゲームプレイで年間1億円近くを稼ぐ「プロゲーマー」という存在があるからです。おそらくそれは将棋の「名人」に近い存在なのかもしれません。現時点、これから先も小野口氏が開発した『EF-12』は彼がポリシーを変えない限り、収益を生み出すことはありません。それでも、『EF-12』の事例を見て別件の開発案件の受託ができればそれいいと彼はいい切ります。そして著作権も独自の解釈で自由に第三者が使いまわすことも是としています。一般的には見れば、それでいいのか?という見方もあるでしょう。小野口氏のチャレンジは一般的には理解されにくいでしょう。しかし、あと20年経ったときにコンピューターゲームが消費財ではなく文化的な色合いを帯びたものとして広く一般に認知が高まったとしたら『EF-12』と小野口正浩という存在はゲームの歴史に名前を残しているのかもしれません。もしくは小野口氏でなくとも、コンピューターゲームが文化に昇華されるときが来ることを私もゲームに関わる一人としてそれを応援し、実現したいと思っています。■著者紹介くろかわ・ふみお 1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックス、NHNjapanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。コラム執筆家。黒川メディアコンテンツ研究所・所長。黒川塾主宰。現在はインディーズゲーム制作中「モンケン」 電子書籍 「エンタメ創造記 ジャパニーズメイカーズの肖像 黒川塾総集編 壱」絶賛販売中ツイッターアカウント ku6kawa230ブログ「黒川文雄の『帰ってきた!大江戸デジタル走査線』」「ニコニコチャンネル 黒川塾ブロマガ」も更新中。
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