『Rez』や『スペースチャンネル5』の生みの親として知られ、近年では『Child of Eden』などを生み出したゲームクリエイター水口哲也氏。先週末に京都みやこメッセにて開催されたBitSummit 2014にて登壇した水口氏は、「Independent DNA」と題した基調講演を行い、いかにしてインディーらしいイノベーティブなゲームを作るのかを語りました。
1993年にセガへと入社し、『セガラリー』に始まり『Rez』や『スペースチャンネル5』などの有名タイトルを手がけてきたことで知られる水口氏ですが、そんなゲーム業界へと入るきっかけになったという2つのモノを同氏は紹介。1つ目は人工知能の研究者であるマーヴィン・ミンスキー氏が書いた「The Society of Mind(心の社会)」という一冊の本です。
またもう1つが「Powers of Ten」と呼ばれる1977年に製作された映像作品。家具メーカーであるハーマンミラー社に椅子のデザインを提供したことで知られるチャールズ・イームズとレイ夫妻がIBMに依頼され手がけた同作品は、10のべき乗を繰り返して地球から宇宙全体へ、さらに宇宙から地球へ戻りさらに原子の世界を探索していく教育映画で、初めは公園に居る男性の姿を捉えた「1m×1m」から「10m×10m」、「100m×100m」から「1,000m×1,000m」へと範囲を拡大していき、今度は逆回転でミクロの世界へ入り込んでいく。人類が月に行った10年後、まだCGの技術も無い時代に生まれたこのアートを水口氏は、「人間の意識に凄く影響を与える、新しい考え方のスイッチを入れる」ような映像作品としています。
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水口氏はゲームを作る上で、このサイエンスを象徴する「心の社会」とアートを象徴する「Powers of Ten」が常に心の中にあったと説明。実際に自身の作品作りにどのように影響したのか、2001年に発売された「ミッドナイト・ハイ・シューティング」から語りだしました。
一冊の本「心の社会」と同様に、「What is groove?(グルーヴはどうやっておこる)」という疑問を自らに問いかけ始めた水口氏は、シューティングゲームにて撃つと出る効果音が音楽化していく体験が出来ないかと考え始めました。当時はそんなゲームは存在せず周囲からもなにを言ってるのかよくわからないと反応を返されたものの、ゲームを達成して面白いという感じと、音楽を演奏してだんだん気持ちよくなっていく感じを、どういう風にしたら組み合わせられるかを念頭に着想は進みます。
「グルーヴ」はどうやって起こるのか?音楽では先述のアフリカでの映像やバンド演奏などで見られる「Call and response(呼びかけと反応)」や「Act and react(能動と受動)」があり、ゲームのそれと同じだと水口氏は発想。双方が持つそれぞれの要素を組み合わせることで、「Making chemistry of resoname(そして共鳴や共振が起こる)」のではないかと考えた さてこの着想から『Rez』の開発へと続く中で、水口氏が最も重要としたのが「Quantization(クオンタイゼーション: 同期)」。人種や国境に関係なく、"人間は誰しもが"リズムがシンクロすると気持ちい。バラバラだったものが同期すると、気持ちいい。そこで、不確実なリズム入力を、気持ちのいいリズムの拍に強制的にクオンタイズ(同期)したらどうなるというアイディアにたどり着きます。『Rez』の誕生です。
ミュージックやビジュアルライブといった様々なジャンルでも展開されていく水口氏の「どうして面白いのか?」に対する実験。筆者と同様に、セガ時代に水口氏の作品に慣れ親しんだゲーマー達がゲームジャンルへの回帰を願っていた事は想像に固くありませんが、これらの別ジャンルでの体験が新たにゲームへと2011年戻ってきます。『Child of Eden』です。
2010年ロスで開催されたE3にて正式発表された『Child of Eden』は『Rez』の精神的続編とも言える作品。ウイルスに侵されたクジラを浄化していくと浄化した部分が美しい声を奏で、ボイスオーケストラや歌のようになっていく。音楽に合わせて撃っていくとスコアが上がるようになっているな。『Rez』のテクノ的なサウンドは減少したものの、水口氏が近年プロデュースしてきた「Genki Rockets」のサウンドを多用し、幸福感の強いグルーヴを生み出す今までの活動を組み合わせた集大成的な作品となっており、またKinectで音楽の指揮者のようなプレイが可能というアピールも話題になりました。
『Child of Eden』では、最初にシナリオを書くのではなく40ページほど日本語と英語の詩、さらに2,000枚ほどの詩を書き、スタッフにクリエイティビティや創造性を引き出すため、100パーセント説明したモノではなく詩のようにその間を自分で想像し、その想像した世界観を前に出してくれということをスタッフに願ったと伝える水口氏。同作では音とフィジクスを連動させたビジュアル、また音楽のデータや波形を拾ってオートマチックにパネルの動きや映像の変化、パーティクルの量や飛び方を計算するシナスタシアエンジンの製作などを実現。またKinect操作に関しては直感的に指揮者のような体験を求めたものの、Kinectがリリースされた初期の頃であったため、バックエンドで様々なエンジニアが働きレイテンシの幅を狭めていってくれたとも伝えています。