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Tokyo XR Meetupは、2月上旬に都内のデジタルハリウッド大学大学院 駿河台キャンパスにて「Tokyo XR Meetup #27 開発チームに聞く「エースコンバット7」VRモードに込めた想い」を開催しました。
このセッションは、バンダイナムコエンターテインメントのフライトシューティングゲーム『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン(ACE COMBAT 7: SKIES UNKNOWN)』のVRモード開発の舞台裏に迫る内容です。『エースコンバット』においてVRモード開発へたどり着くまでの経緯や、ボツになった要素、そして演出などが語られました。
このセッションの内容は、VRモード開発者インタビュー「『エースコンバット7』VRモード発売後インタビュー!何故メビウス1は再び最前線へ復帰したのか?」の体系的な解説と補足とも言える内容でもあるので、こちらも合わせてお楽しみください。
登壇者は、VRモードプロデューサーの玉置絢氏とVRモードディレクターの夛湖久治氏、リードVRエンジニアの山本治由氏の3名です。
■VRモード開発への道のり―発端は28人版『ギャラクシアン3』
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初めに登壇した玉置氏は、『エースコンバット7』のVRモード解説の前に、1990年の大阪「国際花と緑の博覧会」などで稼働した UGSF関連作『ギャラクシアン3』について話を始めます。同作は、ナムコがテーマパーク向けアトラクションとして開発したシューティングゲームで、円周状に配置された砲台から28人のプレイヤーが参加出来ます(他にも少数人で楽しめるように16人版と6人版が開発。6人版は「 「UGSF-WEST」&有志団体アーケードゲーム博物館計画」で保存/稼働されている)。
玉置氏は、『ギャラクシアン3』の特徴を説明しつつ注目ポイントを挙げていきます。『ギャラクシアン3』は座っていればゲームが始まるシンプルなもので無く、ゲーム体験を盛り上げるために、暗号解読シーンや緊急通信シークエンス、エアロックの開閉など、テーマパークのアトラクション的な施策が施されたことで、単純な大型可動式アトラクションという枠を超え、最初から最後までがパイロットである体験に繋げることで面白くしていると解説します。
ここで同氏は『エースコンバット7』VRモードへ話を接続。VRモードは公式サイトにて「統合されたパイロット体験」と説明され、ハンガーでのブリーフィングから機体選択後のタキシングから離陸、任務終了後に着陸までも作られています。
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ここまで作り込まれた理由として「前後を含めたパイロット体験が重要」と説明。VRモードは先の『ギャラクシアン3』から続く体験型アトラクションの系譜上に成り立っており、そのライン上に立つ『エースコンバット7』VRモードがやっていることも同様の「体験」であると語ります。
1993年にアーケードで誕生した『エアーコンバット』は、1995年に『エアーコンバット22』が稼働したとほぼ同時期に家庭用へ移植され、タイトルを『エースコンバット』と変えてシリーズは進んでいきます。
2001年には『エースコンバット04 シャッタード・スカイ』が発売。玉置氏は、『エースコンバット04』のスタッフロールを見てナムコ(当時)の名前を覚え入社したと言ったと過言ではない、と過去を振り返ります。また同年には、 第39回AMショーにて半球スクリーン筐体「O.R.B.S.」と『STAR BLADE OPERATION BLUE PLANET』が出展されていました。
この「O.R.B.S.」は、『機動戦士ガンダム 戦場の絆』で採用されているP.O.D.筐体の原型とも言えるもの。2001年には『エースコンバット04』と「O.R.B.S.」筐体の2つという大きな流れが生まれました。『エースコンバット04』以降、シリーズは従来作とは打って変わって「自分が英雄であるという体験を映画的に強調する」という時代に入り、シリーズの企画書でも「英雄体験」というキーワードが使われていると説明します。
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翌年の2002年には、ソニーから ヘッドマウントディスプレイの「PUD-J5A」が発売されています。対応タイトルは、『エアーコンバット04』やタイトーの戦闘機シム『エナジーエアフォース』、そしてアスミック・エースのフライト・アクション『サイドワインダーV』の3タイトルと少数でしたが、フライトゲームとヘッドマウントディスプレイの親和性が当時から注目されていたことがわかります。
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2006年には「O.R.B.S.」は「P.O.D.」へと名を変えて、アーケードゲーム『機動戦士ガンダム 戦場の絆』の筐体として発展します。この『戦場の絆』では、ベクション効果(映像など視覚効果によって動いているように錯覚する効果)と3D酔いに対応するため、「コックピットフレーム」( バーチャルノーズ的な存在)を設置し、フレームを設置したことで酔いづらくなったようです。2つ目の「注視範囲をなるべく絞る」では、ロックオン時にカメラが向くことで、パノラマスクリーンでありつつも視線を動かす範囲を狭め、ベクションに対応したとのこと。
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ここでベクション効果と視線について『エースコンバット7』を用いて説明しました。フラットスクリーンの画面では、ミサイル残弾数や無線、レーダーなどディスプレイの四隅を全て使い情報を表示。例としてシューティングゲームでは、段々とプレイヤーの腕前が上がってくると、視点はある一点を注視するのではなく「意識的にディスプレイから離れてみて、画面全体をうっすらと把握する」ということに長けてくると説明します。
しかし、『エースコンバット』において画面全体を見て戦うようになると、自分にとって地平線の存在が大きくなりそれに揺さぶられてしまいます。そのため、VRモードにおいてはプレイヤーが見ている範囲を効果的に狭くすることで酔いにくくするという対策を取りました。このVRモードにおいては、前述した『戦場の絆』の視点を狭くする効果を効果的に活用しているということです。
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■『マッハストーム』と『サマーレッスン』そしてVRデバイスの登場
2012年にはP.O.D.筐体を採用したタイトルとして『マッハストーム』が登場しました。『 マッハストーム』は、『エースコンバット アサルトホライゾン』のシステムをアーケード向けに発展させたもので、半自動操作で飛ぶため手軽に迫力ある戦闘が楽しめるタイトルです。
冒頭のCFA-44発艦演出は、空母エレベータ上昇→カタパルトから発艦→離艦時に少し落ちるという具合に移っていますが、玉置氏は、このシーンが、VRモードミッション1の発艦シーンのルーツになっていることを説明しました。
『マッハストーム』開発当時に玉置氏は、開発チームに入れてくれと頼んだもののチーム人数が足りているために関わる事が出来なかったとのこと。以降、同氏は、2013年に『エースコンバット インフィニティ』の開発に携わり、2013年のベータ期間を経て2014年に正式サービスをスタートしています(『インフィニティ』のサービスは2018年3月末に終了)。
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他にも、2014年3月には『エースコンバット インフィニティ』の正式サービス開始前に、ブランドディレクター河野一聡氏が同会場で『INF』の開発の裏側を語る講演しています(一般向けイベントでもあったため当時筆者も参加)。
当時の玉置氏は、多忙でストレスが溜まっていた状態だったために、ストレスの解消方法として企画書を大量生産したと振り返ります。その中の社内コンペとして「P.O.D.筐体を活用したゲームを考えよ」というものに、「キャラクター体験が出来たらどうか?」というのを当時の上司だった『鉄拳』プロデューサーの原田勝弘氏に提出したところ「VRでやるんだ」という指令を受け取ったと語ります。ここから、2014年に初登場した『サマーレッスン』に繋がっていきました。
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この時に山本さんとの繋がりが生まれ開発に力を入れると共に、Oculus Rift DK1が2013年から発送され始めたことから、2014年にP.O.D.筐体のタイトルをDK1へ移植してみる簡単なテストが始まります。DK1での検証で使われたタイトルは、先の『マッハストーム』とUE3採用の『 ロストランドアドベンチャー』の2作です。
『ロストランドアドベンチャー』はレールの上に乗ったトロッコが激しいアクションするシーンもあるタイトル。画面が揺れるゲームの激しさから言えば『マッハストーム』と大きな違いはありませんが、酔いにくさは『ロストランドアドベンチャー』の方が高かったようです。
では、なぜか?ということでそこを検証してみると、『ロストランドアドベンチャー』は進行方向が見えるレールの上を走行することから動きが予想しやすく「動きを事前に予告し、プレイヤーが身構える」という事によって酔いの影響を小さく出来る知見を得られました。
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2015年にはVRゾーン新宿で稼働している『アーガイルシフト』を開発。開発初期段階ではVR酔い知見も何もないなかWASDキーで前後左右自由に飛べる仕様にし、注視方向を意識しながらターンするなどの施策を行ったもののVR酔いを解決出来なかったため、「見ている方向と、動いている方向が一致していれば良いわけではない」ということを学びました。また問題解決のために、P.O.D.筐体の知見を持つ夛湖氏と、VRの最新知見を持つ山本氏の間を行き来したと振り返ります。
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