NFTの浸透により、ゲーム業界でも注目を集めるブロックチェーンゲームの存在。しかし、その市場規模はまだまだ発展途上にあり、長期に渡ってサービスが継続するタイトルは多くありません。
本稿ではゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC2023」で行われたセッションの中から、そんなブロックチェーンゲームについて紹介された「ブロックチェーンゲームのサステナビリティ: 持続可能な経済への道」の内容をレポートします。
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セッションのスピーカーを務めたのは、2017年からブロックチェーンゲーム開発に携わっているプラチナエッグ代表取締役の竹村也哉氏。
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冒頭では、本セッションはブロックチェーンゲームの開発・技術的な内容であり、分かりやすさのために法律に関する部分に触れていない点もあるため、実際に事業で取り組む際には法律面でのケアが必要になると述べられました。
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今回のテーマは「持続しないゲームの原因」と「持続可能な経済の作り方」であり、「皆がずっと稼げるブロックチェーンゲームを作ることは可能なのか?」という疑問への回答を探っていきます。
多くのブロックチェーンゲームが短命な理由
まずは各種前提の確認から。ブロックチェーンゲームは単にブロックチェーン技術を使用しているゲームとも解釈できる言葉ですが、ここでは狭義に「NFTとしてゲーム内アイテムをオンチェーンで取引できるゲーム」を取り上げます。また、お金がどう動いてどうユーザーに還元されて回って行くのか、というブロックチェーンゲームを作る際に必要なエコシステムを「ブロックチェーン経済」と定義しています。
そしてブロックチェーン経済に使用される経済システムの類型について。最初に入ってきた人が大きく稼げる代わりに後から入る人が損をする「ポンジノミクス」が大半ではあるものの、シンプルなギャンブルと呼べる形式から、MMOでアイテムをゲットして売って行く「MMO-RMT」モデルなど複数の経済モデルが存在し、それらを組み合わせて作られているものが多いと紹介されました。
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そんなブロックチェーンゲームですが、竹村氏は「持続しないものがめちゃくちゃ多い」と語り、数ヵ月続けば“長持ち”と呼ばれるほどで、短いものでは数日で経済が崩壊してユーザーが離れていくこともある、と現状を分析しました。
では、ブロックチェーンゲームが持続しないのは何故なのか。その直接的な理由には、「ユーザーが増えない」「儲からないので人が辞めていく」「過度のポンジ」などいくつかの要因によって、人が増えないことでさらに人が離れていく悪循環が挙げられます。
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それぞれの要因を詳しく見ていくと、まず「ユーザーが増えない」原因には、そもそもマーケットがないところを狙ってしまっているプロダクトや、「NFT/ブロックチェーン」のことを嫌っている人が居るマーケットを狙ってしまってネガティブキャンペーンを受けてしまう例など、マーケット設定の段階でのミスも考えられると指摘。
また「儲からないから既存ユーザーが辞める」点については、多くがプロモーションで「稼げる・儲かる」とのイメージを打ち出しているものの、実際に入ってみると儲からない、というギャップが生まれてしまうことが離脱に繋がると分析。そもそも“全員が・持続的に・多く”稼げるような条件はなく、どこかでトレードオフの関係になっており、これを「稼ぎのトリレンマ」として紹介しました。
「NFT/トークンの相場が下がる」ことについては、需要と供給のバランスやユーティリティが存在しないことでトークンがダブついていく要因に。対策としては運営がトークンを買い戻して価値を挙げる「バイバック」施策も考えられます。
また、「稼ぎたい以外のユーザーがいない」ことはあまりフォーカスされませんが、全員が稼ぐためにやっているゲームは「稼ぎのトリレンマ」で紹介されたように継続が不可能で、それ以外を目的とするユーザーが絶対に必要になります。
「過度のポンジ」については、一時的に人を増やすには有効である「ポンジ」も、どこかで新規が来なくなり破綻してしまう要因となってしまうとのこと。
非ゼロサムゲームも実現可能
ブロックチェーンゲームにおける「持続しない経済」について理解が進んだところで、次は外側に目を向けて「どうして持続しない経済を作ってしまうのか」について。
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大きな原因として挙げられるのが「破綻している経済をライバルにしてしまう」ことです。「月利100%」を謳うプロダクトが対抗として提供されていると、破綻しなければおかしいにも関わらずプレッシャーを感じてしまい、無理な設計を行ってしまうようなケースがあると紹介されました。
また、ブロックチェーンゲームはマーケットが小さく、中にはあまり持続性を気にせず数ヶ月で破綻しても会社に利益があればよいという事業者も存在します。これもある意味では正しい姿ではあるものの、破綻に繋がっている例であると竹村氏は指摘しました。
ブロックチェーンゲームは一箇所でも弱い所があるとそこから経済の崩壊に繋がり、持続不可能になってしまいます。ここまで紹介された破綻する要因を全体的にケアして作らなければいけません。
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セッションはここからブロックチェーンゲームで議論される要素についての考察へと移ります。まずはねずみ講のような悪いイメージが指摘されることもある「ポンジ」について。これについて竹村氏は「100%悪」と判断してしまうのではなく、メリットデメリットを考えて使う必要があると述べました。
ソーシャルゲームでも、インフレを招いたりユーザー全員が強力なアイテムを入手できたりするような施策は売上に繋がりますが、その後のガチャが回らなくなるなど「寿命は縮むが一時的に売り上げが伸びる」ものであり、「ポンジノミクス」もそれに近い位置づけと言えます。
しかし、ブロックチェーンゲームにおいては一時的な効果が大きいこともあって、デメリットが見えづらく「ポンジノミクス」が連発されてしまうのではないか、と分析しました。
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続いては「ゼロサムゲーム」について。「稼げるユーザーが居るということはどこかに負けている人がいるゼロサムゲーム」だと認識されることも多いブロックチェーンゲームですが、最初に集めたお金を運用して利益を還元したり、広告収入やスポンサーシップ収入を得たりすることで、ゼロサムゲームではない構造は実現可能だといいます。
ブロックチェーンゲームにおいては価値の付け方が重要であり、金銭以外にも「キャラクターが可愛い」「ゲームが面白い」など、その人が欲しい価値が得られればユーザーは満足します。金銭以外の満足を提供できるのがブロックチェーンゲームの強みであり、この特徴は他のブロックチェーンプロダクトには殆どありません。
その価値創造の手段についても非常に自由度が高く、ゲーム内でユーザーがイラストを描いたり強い武器を生成したりして、それを欲しいと思う人が居れば価値の創造には成功していると言えます。これは通常の経済と同じ仕組みで、UGC(ユーザー生成コンテンツ)と相性が良く、各社のカラーの出しどころであると竹村氏は述べました。
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ユーザーに払い出すための原資を作るには外部からの収益(本セッションではこれを「外貨」と呼ぶ)も重要です。ゲーム内への広告掲出や投資運用益、株価の上昇などの手段で外貨を入手し、そのままユーザーに払ったり運用して還元したりできなければ、前述したようなゼロサムゲーム構造になってしまいます。加えて、他のプロダクトとのコラボなど外部経済との結合が可能になると外貨が稼ぎやすく、自社のトークンを外部で使えるユーティリティ性にも繋がります。
ブロックチェーンゲームは普通のゲームと違い、面白さを目当てにする人から投資目的の人まで、お金を出す理由も目的もさまざま。また、売上だけでなく貸付や預入など、お金のルートも多彩で、単純に稼げることを打ち出すのではなく、面白いゲームや可愛いキャラクターといったゲームならではのメリットを生かしてファンを取り込むことで経済規模が拡大していくと語られました。