働き方の多様化が進み、あらゆる業界で雇用形態の流動化が進む昨今ですが、そうした状況下ではプロジェクトのキーマンを務めた人物が退職時に情報を持ち出してライバル企業に転職してしまうなど、営業秘密の漏えいによって企業が損害を被る例も見られています。
ゲーム業界においても、IRONMACE社の『Dark and Darker』におけるゲームアセットの流用疑惑に注目が集まるなど、関心が高いトピックでもあります。
情報の持ち出しは企業としては看過できない重要な経営課題であり、ゲーム業界に限らず大きな問題となりつつありますが、秘密裏に行われることから対応が難しく、法的措置を諦めてしまうことも少なくないと言います。
本稿ではそんな「営業秘密持ち出し」問題について、リーガルテックAI事業を展開するFRONTEOと弁護士法人ほくと総合法律事務所のタッグによるオンラインセミナー「退職者による営業秘密の持ち出し事案の有事対応」(全4回)のうち、「初動対応」に関する内容を紹介します。
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初動対応が重要、退職までの発見を目指す
本ウェビナーでは、弁護士法人ほくと総合法律事務所のパートナー弁護士であり、実際に営業秘密が持ち出され実刑判決が下された事例で被害企業の代理人を担当した経験をもつ、金子恭介弁護士が講師を務めました。
「営業秘密」とは、不正競争防止法にて「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。」と定められています。特に、秘密として管理していることが重要です。
営業秘密が持ち出される事案の発生に対しては「初動対応」と「持ち出しの証拠がある場合」、そして「証拠がない場合」の3パターンの対応を押さえておくことが重要です。本ウェビナーの第1回、第2回では中でも初動対応について詳しく解説されています。
「退職者による持ち出し」は、情報漏えいに関する実態調査で原因の相当数を占めています。金子弁護士は最初に「典型的な営業秘密持ち出し事案」として、退職届を提出した後に、会社サーバーから情報を私物のHDDに複製し、転職後にその情報を参照してライバル企業に従事する例などを紹介しました。
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退職者による持ち出しを想定した場合、対応として重要となるのは以下の2点です。
どうすれば退職者による営業秘密の持ち出しを防げるか(事前予防)
持ち出された場合にどのように対応するか(有事対応)
民事事件・刑事事件となった際に対応のハードルが高いことや、流出した情報は取り戻せないことなどから、セミナーや文献などでは情報の機密性などの「事前予防」が重視される傾向にあります。しかし在職中に情報に触れていた退職者による持ち出しを完全に防ぐことは難しいため、本稿で解説される有事対応も非常に重要なポイントです。また、有事対応の方法と限界を正しく理解しておくことは、適切な事前予防にもつながります。
退職時点で調査していれば……
ここからはより具体的に「技術開発部長が退職し、競業避止誓約書の提出を受けたにも関わらずライバル企業に転職したという情報が入ってきた場合」を想定事例とし、初動対応について紹介します。
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このようなケースに直面した場合、まず本人やライバル企業に連絡して事実確認することや警告文を送るなどの対処も考えられます。しかし、最初に本人にコンタクトしてしまうと証拠の隠ぺいが行われる可能性があるため、その前に必ず調査を行う必要があります。
まず初動対応として重要なのは、情報の持ち出しがないかの調査です。在職中のアクセスログやメールの使用履歴、貸出デバイスの調査、勤怠状況や入退館履歴、防犯カメラなど客観的な証拠を集めながら関係者への聞き込みを進めていきます。
また、本想定事例におけるY元部長は企業におけるキーマンと言える人物であったため、持ち出しの兆候がなくても調査を検討すべきであり、誓約書の提出を渋ったのであれば調査は必須。退職する時点で調査していれば対処できた可能性がある事例でした。このように、事例が発生する以前にも改善点は挙げられます。
こうした情報持ち出しに関する調査を全退職者を対象に行っている企業も存在するものの、コスト面でのハードルが高く、均一化することでかえって重要な人物に対する調査が甘くなってしまう恐れもあります。そのため、キーマンや管理職、誓約書の拒否、不自然な取引の打ち切りなど、調査の対象となる基準を決めておくことも、事案防止のために有効な手段です。