従業員が別の企業に引き抜かれてしまうと、最悪の場合、その会社の営業秘密が持ち出されたり、企業が培ってきたノウハウが流出したりと、取り返しのつかない事態に発展しかねません。
そのほかの損失としても、その従業員が上げていた収益・もしくは今後上げるだろう収益が失われることが考えられます。
また従業員の穴埋めに新たな外注費用が発生したり、これまでその従業員に対して投資してきた教育費用が無駄になるばかりか、新たに人員を採用する際には新たな教育費用が発生したりします。
上記トラブルで裁判に発展した時は引き抜き行為の存在や内容を立証するための調査費用や弁護士費用など法務上のダメージも考えられるでしょう。
それではそういった事案にはどう対処したら良いでしょうか?
本稿ではそんな「従業員の引き抜き行為」について、リーガルテックAI事業を展開するFRONTEOと東京国際法律事務所が共催したオンラインセミナー「従業員の引き抜き行為とその対策」(全2回)のうち、第1回のようすをレポートします。
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「従業員の引き抜き行為」事後対応の難易度は高い
本ウェビナーでは、東京国際法律事務所より山崎雄大弁護士が登壇し、「従業員の引き抜き行為」について解説しました。
転職も気軽に行われるようになった現在、「従業員の引き抜き行為」とは具体的にどのような事例を指すのでしょうか?
まず元の職場を退職し、別の転職先に就職すること自体に問題はありません。ただし以下の場合は注意が必要です。
たとえば企業の取締役や従業員が新しい会社を設立したり、新しい職場に就職したりする際、元の職場の従業員を何名か引き連れる形で転職する場合があります。従業員が退職する際、職場の従業員を引き連れて転職してしまうこともあります。
これらの問題は、誰が引き抜いたのか……元取締役なのか、元従業員なのか、それとも企業が積極的に引き抜き行為を行っているかで適用される法律が変わることもあります。
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これら行為の問題点は、事前に予測ができなかったり、引き抜きが行われた後の立証が困難だったり、引き抜きに遭った企業への救済が困難だったりと様々あります。
特に事後の立証は、当事者または関係者が秘密裏に引き抜き行為の準備を進めることもあり困難を伴います。電子メールの破棄、口頭でのやり取りなど、証拠を残すことはあまりありません。
また事後の救済としても、転職した従業員が元の職場に戻ることなどまずあり得ませんし、損害賠償による救済も損害額の算定が困難なことから難しいでしょう。
もっとも現実的な救済策は、やはり引き抜きを想定して、より実効的な損害賠償請求権を確保することです。
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一度引き抜き行為が行われれば、事後的な対処は非常に困難です。
また経済的なダメージのみならず、冒頭で紹介したようなノウハウ・財産の流出も考えられることから、引き抜き行為を予防したり、発生後に適切に証拠保全をしたりする必要があります。
その具体的な対処方法については第2回の動画にて紹介しているので、第1回を視聴したうえで引き続き第2回をご覧ください。