常に一般参加者が主役―東京メトロ主催のeスポーツ大会はなぜ満足度が高いのか?【インタビュー】 | GameBusiness.jp

常に一般参加者が主役―東京メトロ主催のeスポーツ大会はなぜ満足度が高いのか?【インタビュー】

東京メトロはなぜeスポーツ関連の取り組みを行っているのか。元々は『Call of Duty』シリーズ好きのゲーマーであり、整備士部門から社内公募を経てeスポーツ事業担当に異動したという、東京メトロの山崎士氏に話を聞いた。

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東京地下鉄株式会社(以下、東京メトロ)は「東京メトロカップ」と題して、2024年3月に『ストリートファイター6』のオフライン大会、8月には『Apex Legends』のファミリー向け大会を開催しました。

東京メトロはなぜeスポーツ関連の取り組みを行っているのか。

元々は『Call of Duty』シリーズ好きのゲーマーであり、整備士部門から社内公募を経てeスポーツ事業担当に異動したという、東京メトロの山崎士氏に話を聞きました。

東京地下鉄株式会社 山崎士氏

鉄道整備士を経てeスポーツ事業へ

――山崎さんのご経歴をお聞かせください。

山崎高校卒業後の2012年に入社し、元々は電車の整備士として、車両の点検を中心に、約12年間鉄道業務に従事していました。その後、社内公募制度を通じて、現在の「企業価値創造部」へ異動しました。

――企業価値創造部へはどういったきっかけで異動したのでしょうか。

山崎当時、鉄道整備士としての仕事は面白いと感じつつも、より自身の興味のある分野に挑戦したいと思っていました。

そんな時、社内公募制度があり、「東京メトロで働きながらも、自分が本当にやりたい仕事ができるかもしれない」と思い、公募に応募することを決意しました。結果的に、その挑戦が実を結び、現在の企業価値創造部でeスポーツ関連の業務に携わっています。

――ゲーム歴についてもお聞かせください。

山崎高校時代から『Call of Duty』などのFPSゲームを中心にプレイしていました。現在も『VALORANT』や『Apex Legends』、『Overwatch 2』といったFPS系のゲームを中心にプレイしています。

また、過去にはMMO系のゲームも試していたものの、仕事と子育ての両立のため、現在はFPSゲームをメインに楽しんでいます。『Call of Duty』を通じてeスポーツの競技性に惹かれたことが、eスポーツ業界に強い興味を持つきっかけとなりました。

従来の鉄道事業に依存しない新たな収益モデルを目指す

――東京メトロの事業概要についてご紹介ください。

山崎東京メトロは、首都圏における鉄道サービスを提供しており、日々の通勤や観光に利用される主要な交通機関として、多くの人々の生活を支えています。

鉄道事業を中核としながらも、近年では新しいビジネス分野への進出にも力を入れています。

――山崎さんの所属する企業価値創造部はどのようなことを行っている部署なのでしょうか。

山崎私が所属する企業価値創造部は、東京メトロの中でも新しい事業や価値を生み出す役割を担っております。

東京メトロという交通インフラ企業としての強みを活かしながら、従来の鉄道事業に依存しない新たな収益モデルの構築を目指しているのが特徴です。

私は、eスポーツに関連したプロジェクトを主に担当しており、大会運営や関連企業との連携、スポンサーシップの調整を行うなど、実務面を担っております。また、eスポーツを通じて、沿線地域の活性化や新たな顧客層の開拓を目指す取り組みを進めています。

eスポーツを通じて新しい価値を創造し、企業としてのブランド力を高める

――これまでに貴社が取り組んできたeスポーツ関連事業について教えてください。

山崎東京メトロは、eスポーツ分野において積極的な取り組みを進めており、代表的な事例として「eスポーツジム」の運営と「eスポーツ大会」の開催が挙げられます。

eスポーツジムは、オープンイノベーションプログラム「Tokyo Metro ACCELERATOR」を通じて、スタートアップ企業のゲシピさんからの提案により立ち上げました。ゲームを学びながら楽しめる場所として、技術向上だけでなく、戦略的思考やコミュニケーション能力の育成などが目的でした。東京メトロ沿線の地域住民や若年層を対象に、沿線の価値向上を目指すプロジェクトとして運営していましたが、コロナ禍と重なってしまったこともあり継続が難しく、現在は事業を撤退しています。

現在は主に、「TOKYO METRO CUP(東京メトロカップ)」というeスポーツ大会の運営を行っています。本大会は、プロの選手だけでなく一般参加者も主役となる場を提供することを目指して実施してきました。

2024年に東京メトロが開催した大きなeスポーツイベントは、『ストリートファイター6(スト6)』のオフライン大会と『Apex Legends』のファミリー向け大会の2つです。それぞれの大会は異なるコンセプトとターゲット層を設定して、タイトル選定から運営までさまざまな工夫を凝らしました。

――では、まずは2024年3月に開催されたオープン大会「TOKYO METRO CUP STREET FIGHTER 6」について、振り返ってください。

山崎『ストリートファイター』シリーズは、FPSなどの他のジャンルと比べて、一般のプレイヤーとプロ選手の距離が近いという独特の文化があると思っています。この特性を活かし、プロ選手と一般参加者が対等に戦える舞台を提供することを目指しました。

運営側からプロ選手を招待したわけではないのですが、大きな大会と重ならないように時期を調整したこともあり、複数のプロ選手の方にも参加していただけました。

大会後のアンケートでは、一般の参加者の方からは「プロ選手と対戦できただけでも嬉しい」との声が多く寄せられました。例えばプロ野球選手と一般の方が野球の試合をする、ということは普通ありませんが、eスポーツであればそのハードルが低いんです。これこそがゲームの魅力だな、と。

また、『スト6』はストリーマーの方々がこぞってプレイしていることもあって、若年層や女性のプレイヤーが増えました。アンケートでは「『スト6』の大会に初めて出場した」と答えた方も多くいらっしゃいました。「東京メトロカップ」のようなカジュアル大会を通じて、シーンがもっと盛り上がったら嬉しいですね。

――大成功のイベントとなったわけですね。

山崎当日はストリーマーのありけんさんのミラー配信もあり、それも含めると同時接続数は2万人を超えました。同時刻に『VALORANT』の日本大会(「VALORANT CHALLENGERS JAPAN SPLIT 1」)が開催されていた中で、この数字には驚きました。

――8月に開催した『Apec Legends』の大会は、ファミリーをターゲットにしたものだったんですよね。

山崎これまでにも『フォートナイト』を採用した親子大会を開催してきたのですが、都合により『Apex Legends』にタイトルを変更しました。『フォートナイト』と比べて年齢層が少し上がりますし、『Apex Legends』をきっかけに結婚した方もいると聞いたこともありましたので、せっかくならばと「ファミリー向け大会」として開催したという経緯があります。

大会には、親子、兄弟、夫婦といった組み合わせのさまざまなペアがバランスよく参加してくださり、中にはおじいちゃんやおばあちゃんと孫のペアも見られるなど、幅広い年齢層が楽しめるイベントとなりました。

バトルロイヤル形式のゲームで一般参加の大会を開催する際は、ライブ配信に視聴者を集めるハードルが高いと感じていて、数字の面ではもっと頑張りたかったという思いもあります。しかし、手応えもありました。

印象的なのは、大会の連絡用Discordサーバーで、参加者同士のコミュニケーションが活発だったことですね。「次の決勝、頑張ります!」「応援してます!」など、ポジティブなやり取りが多かったです。

昔は親子がキャッチボールをしながら会話をしていたようなコミュニケーションのあり方が、今はゲームを通じて行われているという話も聞きます。イベントを開催することで、eスポーツのこういった側面も支えていきたいと考えています。

多くの人々に信頼される企業であり続けることが目標

――そもそも、なぜ貴社はeスポーツ関連の取り組みを行っているのでしょうか。

山崎少子高齢化やテレワークの普及により、通勤利用者が減少し、鉄道収入にも影響が出ています。このため、従来の鉄道事業に加え、新たなビジネス領域への進出が必要とされており、その中でもeスポーツに注目しました。

東京メトロとしての目標は、eスポーツを通じて人の流れを作り、鉄道利用者を増やすことです。2022年にさいたまスーパーアリーナで開催された『VALORANT』の大会(「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage2 - Playoff Finals」)では2日間で2万6,000人が来場したように、eスポーツは人を動かす力を持っているため、東京メトロはこの分野に大きな可能性を感じています。

――山崎さん個人としては、どのような思いでeスポーツ事業に取り組んでいますか。

山崎eスポーツ業界では、プロシーンやインフルエンサー市場は既に確立されつつあります。しかし、私たちが注目しているのは、野球でいう草野球のような、一般の方々が主役になれる場所です。この部分が業界として不足していると考えています。

現在のeスポーツシーンを見ると、『ストリートファイター6』のように一般プレイヤーとプロが交流できる文化がある一方で、『VALORANT』や『Overwatch』などでは実力差が大きく、一般の方々は試合の観戦か、ランク戦への参加に限られています。この状況では、競技としての盛り上がりはあっても、草の根レベルでの交流が生まれにくく、結果として途中で失速してしまう可能性があります。

また広告効果の観点からも、公共交通を支える事業者としての信頼性を活かせば、取り上げるゲームタイトルに対する信頼性も高まり、ゲーム会社、協賛企業、そして一般の参加者、すべてにとってWin-Winな関係を築けると考えています。これからも一般の方々が輝ける場所を作り、eスポーツを日常に溶け込ませていくことを目指していきます。

eスポーツ事業を通じて社会貢献の要素を強化したい

――今後、新たに取り組みたいことや成し遂げたいことを教えてください

山崎今後の展望としては、やはりオフラインでの開催にこだわってイベントの拡大を目指しています。一般の方が主役となって、何千人という規模の会場が埋まるようなイベントを実現したいですね。そのため、大会運営のノウハウが豊富なRAGEさんと定例的にミーティングを重ね、費用感や運営の課題、計画のタイムラインなどについて情報交換させていただいています。

特に大切にしたいのは、協賛企業様、参加者の皆様、全ての関係者が満足できるイベントの実現です。関わる方全員が笑顔で終われるようなイベントを継続していきたいと考えています。

『ストリートファイター6』のように、プロと一般プレイヤーが対戦できる文化は、eスポーツならではの魅力です。この価値は残していきたいですし、『VALORANT』など他のタイトルでも広げていければと思います。プロチームの方々にも、オフシーズンの息抜きとして気軽に参加していただけるような雰囲気を作っていきたいですね。

また韓国のように、ビル内にスタジアム形式のeスポーツ専用会場があれば理想ですね。ただ、平日の稼働率など課題もあり、現時点では難しい面もあります。かつて私鉄会社がテーマパークを路線の終点に作って集客したように、そういった施設開発ができれば面白いと考えています。

ただし、まずは継続的にイベントを成功させ、eスポーツがビジネスとして成立することを会社や株主の方々に示していく必要があります。また、規模を拡大する際も、東京メトロらしさを失わないことが重要です。現在は大会参加が初めてという方が5割程度いる状況で、この新規層の開拓という特徴は大切にしたいと考えています。若年層だけでなく、さまざまな年齢層が混ざり合える、そんなイベントを目指していきたいと思います。

――ありがとうございました!


東京メトロは次なる取り組みとして、『Overwatch 2』を対象としたeスポーツ大会「第3回 TOKYO METRO CUP OVERWATCH 2」を12月に開催することを発表しました。

1チーム5~7名で構成されたチームでのエントリーのほか、1~3名での個人エントリーも受け付けており、まさに気軽に参加できるeスポーツ大会というコンセプトをもったeスポーツ事業を続けていくようです。

《Ogawa Shota》

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