本誌e-Sports Business.jpでは、eスポーツ領域で新しいビジネスを展開しようとするマーケターや新規事業担当の方に向けて、eスポーツビジネスの事例を発信しています。
今回は、今後の成長が期待されるシニア向けeスポーツ市場に焦点を当て、最新の動向と事業事例を紹介します。
健康増進と地域連携がカギ
ネオマーケティングが2024年9月に実施した調査によると、シニア層におけるeスポーツの認知度は79.7%に達しています。ただし、その大半は「名前のみ知っている」(70.4%)という段階。一方で、「脳の活性化や認知機能低下の予防」効果に魅力を感じるという回答は66.3%に上り、健康維持という観点からの関心は高いことが分かります。

この潜在ニーズを形にする動きは、すでに始まっています。LunaToneが取り組むシニア向けのゲームトレーニングサービス「pinpin」は、自治体や介護施設向けにウェブベースのミニゲームを提供。実証実験を通じて、反応速度や集中力の変化を分析し、日常の健康状態の判断にも活用できる仕組みを構築しようとしています。
話題のプロゲーミングチーム「マタギスナイパーズ」
プロフェッショナルな領域での新しい展開を象徴するのが、エスツーが運営する「マタギスナイパーズ」です。

マタギスナイパーズは、「孫にも一目置かれる存在」をスローガンに掲げ、2021年9月に秋田県で発足した日本初の60歳以上のプロゲーミングチーム。65歳以上を正規メンバー、60~64歳を"ジュニア選手"として受け入れ、『VALORANT』での活動を中心にeスポーツの新しい可能性を切り拓いています。
メンバーの活動は多岐にわたります。日々のゲーム配信はもちろん、地元・秋田での高齢者向けイベントや「東京ゲームショウ」への出展、さらには秋田県警とのコラボレーションによるサイバー犯罪防止の啓発活動まで。同年代への呼びかけ役として、ゲームの枠を超えた社会的な役割も担っています。
その実力も侮れません。SNSに投稿された『VALORANT』のプレイ映像は「高齢者がプレイしているとは思えない」と評価され、話題を呼びました。シニアeスポーツの可能性を体現する存在として、挑戦を続けています。
官民連携の新しい形
2024年9月、神奈川県横浜市役所において「SUNSHINE eスポーツフェスタ in Kanagawa」が開催され、シニア向けeスポーツにおける官民連携の新しい形を示しました。行政(神奈川県)、医療関係者(日本認知症予防学会)、民間企業(Fusion LLC.)が一体となり、地方銀行(横浜銀行)も協賛に加わることで、地域経済との結びつきも実現。認知症予防に関する情報発信や世代間交流を促すプログラムなど、従来の大会やイベントにはない福祉的な要素を組み込んだ点が特徴的です。

シニア向けeスポーツの可能性
シニア向けeスポーツビジネスへの参入においては、「地域」という視点が重要になっています。前述の調査では、地域で気軽にeスポーツを楽しめる環境を求める声が多く挙がっています。地域のコミュニティセンターや公民館といった身近な場所での展開が、足がかりとしては有効なのではないでしょうか。
医療機関との連携も重要な要素です。認知機能の維持・改善効果への期待が高いことから、効果測定や科学的な検証を組み込んだプログラムづくりが、サービスの差別化につながるでしょう。
今後のシニア向けeスポーツビジネスは、大きく二つの方向性が見えてきました。
一つは、健康増進に重点を置いた地域密着型の展開です。自治体の介護予防事業と連携した教室運営や、医療機関と協力した効果測定プログラムの提供など、公益性の高いビジネスモデルに可能性がありそうです。
もう一つは、「マタギスナイパーズ」に代表される競技志向の展開です。シニア向け競技シーンや、世代間交流を意識した大会運営など、エンターテインメント性の高い取り組みが増えれば、さらなる市場の発展が期待できます。