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2025年1月15日(水)、「日本eスポーツアワード 2025」表彰式典会場で実施された「eスポーツビジネスフォーラム」を取材しました。筆者の視点も交えながらレポートします。
忙しい方向けに2つのポイントで整理
まずは本セッションで起きたことを2つのポイントで整理します。これらのポイントについて、少しでも気になった方は全文を読んでいただくと良いでしょう。
eスポーツを各方面から捉える3者の目線の違い
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今回のセッションは、eスポーツの発展において違う方面から携わった3者の対談でした。
コミュニティ出身ながら、プロゲーマーや配信者をサポートする会社を立ち上げた中村鮎葉氏、多数のプロゲーマーを抱えるeスポーツチームを運営するREJECTの野山嶺氏、通信環境の整備やスポンサーとしてeスポーツ業界を支えるNURO事業部の田原氏。
3社のeスポーツに対する目線や捉え方の違いが印象的なセッションでした。
eスポーツの未来を想う中村鮎葉氏の熱いディスカッション
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中村鮎葉氏は、以前は『大乱闘スマッシュブラザーズ』のプレイヤーとしての活動歴があるほか、オフライン大会運営の経験もあり、「ゲームを楽しくプレイする側」としての思考が垣間見えました。
eスポーツ業界の発展に寄与してきた側であるため、業界が大きくなったことでの変化や懸念もあり、プレイヤー側の取り組み方に対して熱い意見が述べられました。
3者のディスカッションでは、特に中村氏の強い意志を感じる発言が多く、その真剣さが観衆にも伝わってきました。
登壇者紹介
まずは盛大な拍手に迎えられ、講演される方々が登壇しました。
配信技研 取締役 中村鮎葉氏
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「歴史とは人類の自由のための闘争である」
ドイツの哲学者・ヘーゲルの言葉を引用し、eスポーツの歴史と発展を語る中村鮎葉氏。
昔はごく一部のプレイヤーが楽しむ存在だった『マインクラフト』やFPSゲームに、今では多くのプレイヤーが参加しています。チームやプレイヤーにはスポンサーがつくなど、一大産業になったことを感慨深く話す様子が印象的でした。
自身が「アユハ」としてゲーマー活動をしてきた経験から、産業としてだけでなくeスポーツをプレイする側、楽しむ側の目線でも熱く意見を述べました。
REJECT 事業統括本部長 野山嶺氏
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大手外資系企業で務めたのち転職し、現在のREJECTに入社した野山氏。現在は執行役員・事業統括本部長としてスポンサー営業、グッズやゲーミングチェア事業を手がけています。
REJECTは現在虎ノ門にオフィスを構え、40名以上の社員を抱える、eスポーツ界隈では一大企業。50名以上のプロゲーマーやストリーマー、VTuber、YouTuberが所属しています。
REJECTは、『PUBG Mobile』『Apex Legends』の大会で世界一位に輝き、2024年の累計獲得賞金額は4.2億円に上るなどの実績があります。
ソニーネットワークコミュニケーションズ NURO事業部 田原氏
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通信事業社として有名なソニーネットワークコミュニケーションズから田原氏も参加し、ディスカッションに加わりました。
低価格かつ高速通信できる点が認知され、多くの配信者やゲーマーが自宅の通信環境に同社の回線を採用しています。REJECTとは協業関係にあり、視聴者がより一層ワクワクできる体験のため、尽力する様子が伺えました。
注目の議題を4つピックアップ
ここでは前半の講演、および後半のパネルディスカッションでの、特に注目の発言や登壇者同士のやり取りを紹介します。
自己実現としての配信活動
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中村氏は自身の講演で、「eスポーツの自由・自己実現」について強く訴えました。
「10年前までプロゲーマーという職業は、ほぼ誰も知らない職種だった。ましてや『PUBG』や『荒野行動』などが日本でここまで人気ゲームになるとは誰も予想しなかった」
中村氏は「自分ができること・得意なことを自慢したい、これが発信の文化であり原点である」とし、今後もしぶとく残り続ける業界になるだろうと、eスポーツの将来を推察し述べました。
「クロスカルチャー」する新しいスポンサーの在り方
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野山氏からは「eスポーツのコミュニティ」「スポンサーシップとマーケティング」「海外展開」の3本立てで話が進められました。
「eスポーツのコミュニティ」においては、REJECTに所属するメンバーたちが交流できるスペースを作った話と利用方法が語られました。
YouTuberやプロゲーマーたちがゲーム・音楽など共通の話題を通して「クロスカルチャー」できることの強みや、会議や撮影などのあらゆる使い方をできる場所として、社外の方でも利用できるメリットがあるといいます。
「スポンサーシップとマーケティング」に関しては、格闘ゲームイベントで行った異業種横断のマーケティング事例が紹介されました。
REJECTのスポンサー企業であるロート製薬やYogiboは、プレイヤーの休憩スペースにおいて、「 ロート × Yogibo」のコラボクッションを配置しました。野山氏は「両企業のファンを相互交換するような企画を行いたい」「選手がやりたいコンテンツ、ファンが待っているコンテンツの実施に注力したい」と述べました。
アラブ首長国連邦からの資金調達やアブダビ支部の始動からも、今後REJECTが躍進していくことが想起される内容ばかりでした。
eスポーツビジネスは儲かるのか(中村氏×野山氏×田原氏)
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「ずばり、eスポーツビジネスは儲かると思いますか?」という話題では、3者が現実的な意見を述べながらも、今後の伸びしろに期待する側面が見受けられました。
野山氏はこの話題に関して「儲かるからやっている」と前置きをしたうえで、「ゲーム、eスポーツは言語の垣根を超えて視聴者を熱狂させられるもの。日本もこれからで、海外においても伸びしろがある」と展望を述べました。
中村鮎葉氏は自身のトーク時間に述べた内容も織り交ぜながら自身の論を展開。「物販をするか、知識を売るかで変わってくる」とマネタイズの種類に関して触れました。
中村氏、野山氏、田原氏は共通して「以前に比べてスポンサー、メーカーのeスポーツに対する目線が協力的になった」と、世間のeスポーツに対する変化を実感していました。
eスポーツにいま足りていないのは若者の自主性(中村氏×野山氏)
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「eスポーツに足りないものとは?」という話題においては、中村氏による「若者の自主性が足りない」との意見がディスカッション内で共感を呼び、盛り上がりました。
中村氏は、「昔はeスポーツのイベントやスポンサーなんていなかった。だから自分で何とかしようと動いた。いまはスポンサーがつき、イベントも企画してくれるから若者の考え方は以前とは違うと感じる」と述べます。
これを受け、野山氏は「トッププレイヤーは、運動や食事など、言われたこと以外にも自分で考えることができる」と賛同しました。
話題は深堀され、筋トレの話題に。野山氏は、脳科学の研究からもeスポーツに筋トレは重要だと意見を述べました。
「筋トレでテストステロンを分泌させることは、競技シーンにおいても成果に繋がりやすい」との発言には、司会の方からもなるほどと感嘆の声が漏れました。
まとめ:eスポーツ黎明期世代とeスポーツネイティブ世代の“意識”の格差
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途中、中村氏がほのめかした「eスポーツ黎明期世代とeスポーツネイティブ世代の“意識”の格差」は筆者も感じています。
いまやeスポーツが“当たり前”のように産業として認識され、“当たり前”のように「eスポーツアワード」といった式典が開催されるようになりました。
そうではなかった時代を「知っている世代」と「知らない世代」とでは、胆力や自主性にも違いが現れてくるのかもしれません。
いわば起業のフェーズにおけるシード期、アーリー期で泥船に乗ってきたような世代と、ミドル期、レイト期に参入して勝ち馬に乗ろうとする世代。この世代間の意識の格差は今後さらに広がっていくでしょう。
また筆者個人としては、こういったビジネスセミナーの観覧者側に、若いプロゲーマーの姿があると良いと感じました。会期中、懇親会で業界関係者と繋がれるだけでなく、ビジネス観点を持ちあわせた視座の高いプロゲーマーであることのアピールができます。
他のプロゲーマーとの差別化にも繋がるはずですし、そういったハングリー精神を持った「eスポーツネイティブ世代」が出てくることを期待します。