2025年1月15日、パシフィコ横浜 国立大ホールにて開催された「日本eスポーツアワード2024」表彰式典。本稿では、式典後に行われた合同インタビューのようすをお伝えします。インタビューに応じたのは、年間最優秀eスポーツプレイヤー賞を受賞したときど選手(REJECT)、梅原大吾選手(Beast)、TON・GG選手(FENNEL)の3名です。
年間最優秀eスポーツプレイヤー賞
ときど選手
選手であり続けるために必要なこと
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――受賞の挨拶で「厳しい時代」を振り返っていましたが、当時はどういった状況だったのでしょうか。
ときどプロという世界もなく、ゲームをやるためにゲームセンターに通う日々でした。私は小さい頃でしたので、親にはあまり言えないような場所でしたし、周りには言えない趣味でした。私たち自身は楽しかったのですが、世間に認めてもらえないという状況がありました。
ゆくゆくは華やかな世界があったらいいな、世の中に認められるようになったら、ゲームの熱いところや良いところをちゃんと言葉で伝えられるのに、と妄想していた人たちが多くいて、私もその中の一人でした。
現在、そういった人たちの妄想や準備を受け継いで活動できています。当時の人たちのほとんどは今ではゲームをやっていませんが、そういった先輩方がいたおかげで今の形があると感じています。
――ときどさんにとって、転機となったタイミングは何でしたか。
ときど個人的には、梅原大吾さんがプロになられたことです。それまでは趣味として割り切ってやっていました。ゆくゆくは社会人として働かなければならないし、趣味として続けていくものなのかなと思っていたのですが、身近な人がプロになられたと聞いて、いてもたってもいられなくなりました。
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――2024年、CELLORBの取締役に就任するなど、選手にとどまらない動きがありました。今後、eスポーツ業界でどのような役割を果たしていきたいとお考えでしょうか。
ときど選手であり続けることが私の中で一番重要です。
選手としての姿を見せて、若い人にかっこいいと思ってもらえたり、こうなりたいと思ってもらえたりすることが一番です。もちろん、チームの強化や、チームを支援していただいている方とのご挨拶など、様々な活動もさせていただいています。
ですが、「いつまでも選手としてやるぞ」という思いを強く持っています。そうでなければ、この年齢で選手としては残っていけないと思うので。
――若い選手に向けて伝えていきたいことはありますか。
ときど競技を頑張ることはとても大切です。ただ、この業界はまだ歴史が浅いので、発展することも衰退することもありえます。もちろんチームの皆さんやサポートする方々が支えてくださいますが、選手自身がこの業界をどうすれば発展させられるか、どうすればもっと世の中の人に注目してもらえるかという視点や思いを持ちながら活動することで、より長く競技を続けられる時間になると思います。そういった部分も考えながら活動してもらえると、業界全体にとって助けになると考えています。
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功労賞 梅原大吾選手
MOBAプレイヤー賞 TON・GG選手
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30年の歩みで学んだ"近道はない"という真実
――それぞれご受賞された感想を改めて一言ずつお伺いできればと思います。
梅原ほとんどの人は今年の活躍とか近年の活躍を評価されていると思いますが、自分の場合はこれまでの活動を通して(の受賞)という感じなので、もちろんありがたいんですけど、正直そこまでびっくりという感じではなかったですね。こういう式でも、評価をもらえるんだなと。
TON・GG日本は世界で勝てない、世界一になれないと言われてきた中で、その壁を壊すきっかけを作ったというのは、MOBAジャンルとしてはすごくいいことだと思うので、これからMOBAがもっと強くなっていければと思います。
――梅原選手に伺います。受賞時に話されていた「周りに評価されなかった時代」について、当時の様子を振り返っていただけますか。
梅原昔、ゲームって「悪いもの」だったじゃないですか。やると頭が悪くなるとか、将来何かに繋がるわけじゃないとか、対人スキルが磨かれないとか。
しかも、ゲームセンターというのはお金もかかります。そんなマイナスしかないものになぜそんなに熱中するの、と白い目で見られていたんです。
今は「eスポーツ」という呼び名がついて、お金も稼げるし、メディアにも出られるということで価値がつきましたが、そういったことが全くない時代に、純粋に「好き」という気持ちだけで続けていた人がいなかったら、今のeスポーツという形はありえなかったんです。
自分だけではなくて、そういう悪い環境の中、ゲームを純粋に「好き」という気持ちだけで続けていた人たちが、「功労者」と言われてもいいんじゃないかと思いますね。
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――TON・GG選手は、レッドカーペットでのインタビューで、2025年の目標として「世界一をどれだけ維持できるか」とおっしゃっていましたが、維持するためにはどんなことが必要だと考えていますか。
TON・GGチーム全体の意識を変えていかないといけないと思っています。負けることを恐れすぎて、負けないために戦っているという現状があります。敵に勝つために策を講じて、色々と試行錯誤していかないといけない中、現状では自分たちのミスを減らすことばかりに思考が向かっているのが問題だと感じています。
海外選手は日本人選手と比べてすごくアグレッシブなんです。そこが世界との大きな違いを感じた部分で、そういったアグレッシブさに対応するためには、この現状ではちょっとまずいんじゃないかと思っています。
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――梅原選手、日本の選手にアグレッシブさが足りないという傾向は格闘ゲームでも見られるのでしょうか。
梅原よく言われる日本人の特徴ですよ。ただその分、細かい部分を突き詰めるので、技術や知識は発達しているんです。でも大会というのは短いスパンで結果を出さなければいけないので、勢いのあるプレイヤーに負けてしまったりするんですよね。細かいところを詰めるとどうしてもそこに頼りたくなるのが日本人だと思うので、戦い方の得意・不得意が違うのかなという風には思っています。
こういったアワードもそうですが、大舞台で勝った人が注目されるのが勝負の世界です。得意なことは得意なこととしつつも、不足している部分を補っていく活動や訓練をすることは、格闘ゲームでも同じ課題として感じています。
――梅原選手に伺います。お隣にいるTON・GG選手をはじめとする若いプレイヤーに向けて伝えたいことはありますか。
梅原ゲームのいいところは、例えば新しいゲームタイトルが出た時に、それまで強かった人が勝てなくなったり、逆にあまり勝てていなかった人が勝てるようになったりと、他のスポーツではあり得ないようなリセットが定期的に起きることです。
競技としてやっていくのは、面白いけど大変です。短期的に勝つことは、若さや才能、勢い、タイミングなどがあれば当然可能ですが、長期となると、やっぱり何か特別な動機、「お金や名誉だけじゃない何か」がないと継続できないんじゃないかと思っています。
――梅原選手ご自身の場合は、どういう動機で続けられているのでしょうか。
梅原この年齢になると、いつまで前線にいられるのかということも価値になってきています。独りよがりな記録かもしれませんが、それを更新していきたいというのが一つの大きなモチベーションになっています。
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――「eスポーツ」という業界の価値や格が少しずつ上がってきている印象がありますが、人生をかけられるジャンルとして十分な状況になっていると思いますか。また、もしそうでないとすれば何が必要でしょうか。
TON・GG(選手としての立場から言えば)好きという気持ちと覚悟が必要だと思います。正直、そんなに甘い世界じゃないと僕はずっと思っているんです。結果が出なければいつやめてもおかしくない。そういう恐怖心はあります。ただ、そういう環境で続けていけるのは、好きという気持ちがないとできないと思っています。
梅原一時的な盛り上がりは、メディアの力や、大量のお金が投じられることで起こせると思います。格闘ゲームの世界だけじゃないかもしれませんが、今サウジアラビアがeスポーツに力を入れていて、日本人も高い賞金をもらったりしていますが、それは多分「格」には繋がらない。支援の手が引かれた途端になくなるものなので。
結局、近道はないと思っています。このアワードもそうですが、10年、50年、100年続いている……ということが格や信頼に繋がると思うので、本当に近道はありません。継続していって、少しずつルールや仕組みを洗練させていくしかないと思っています。
――30年間も活動されている梅原選手でも、「まだまだコツコツやる必要がある」と。
梅原そうですね、「まだまだ」だと思います。
――最後に、今後の目標をお聞かせください。
梅原功労賞はすごく名誉なことだと思いますが、やはり現役でやっている以上、次回はプレイヤーとしての賞を目標に頑張ろうと思います。
TON・GGまだまだできることがあるので、世界一に向けて挑戦していきます。
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