数多くの作品が巷にあふれるようになったこの時代において、ゲームをしっかりと売るには、もはや、発売前の一大プロモーションだけでは困難なのかもしれません。このような中で今回焦点を当てるのがイベントです。従来、家庭用ゲームソフトは、パッケージ化された作品であり、「売り切り」商材という概念が一般的だったわけですが、その概念が現在は完全に崩壊したと言っても過言ではないでしょう。現在、ゲームは物語を語る上でのかけがえの無い「メディア」として位置づけられているのです。このような中で、ゲームが「物語」の媒介であるという特徴を生かしたプロモーションというのがその世界観を活用したライブイベントなのです。ここでは、コーエーが主催した、二つのイベント、「遥か10年祭」と「戦国楽市楽座」を中心に解説していきます。 ■吹雪の中でも多くの人が集う「遥か十年祭」『遥かなる時空の中』(以下、『遥かなる』)シリーズがリリースされてから10周年ということで企画された、「ネオロマンス・フェスタ 〜遙か十年祭〜」(以下、「遥か十年祭」)。『遥かなる』の舞台は京都ということで、筆者在住の京都でも「遥か十年祭」が開催されました。京都で開催されるのは今回が初めてである上、当日は吹雪といってもおかしくない位の天候。にもかかわらず、会場はファンでごったがえしていました。関係者にお話を伺うと、筆者が参加した土曜日は、8割、日曜日のチケットは既に完売していたとのこと。参加者も京都がメインというわけではなく、全国から集まってきたということです。もしかしたら、土曜は観光で、日曜日は、イベントを満喫というプランが成立してもおかしくありません。都心でなく、地方だからこそ成り立つ発想ですね。また、会場内には、平安時代の甲冑や、牛車なども展示されていました。これらは、東映京都撮影所から借用しているとの旨が。大道具を数多く保存している撮影所が京都にあるからこそ出来る演出です。また初日講演では、実際に上賀茂神社の神職の方により神事が執り行われました。その瞬間だけは、会場全体が静まり返り、厳格な雰囲気になっていました。このような形で地域の特色を自然にイベントの中に取り入れることが出来ることも地方でイベントをすることのメリットのひとつです。なお、当日のイベントにはメインキャラクターとして井上和彦氏と中原茂氏、高橋直純氏をすえつつ、石井康嗣氏、浅川悠氏、鳥海浩輔氏、根本正勝氏、近藤隆氏、堀江一眞氏、そして川村万里阿さんが様々なコーナーに参加すると言った内容。作品に登場する声優陣をこれでもかというぐらい登壇させ、ミニドラマや、質問コーナーそしてライブと、めまぐるしく舞台が転換し、『遥か』シリーズのイベントは初めての筆者自身も思わず見入ってしまう迫力がありました。また、筆者が参加した初日は、メインキャラクターとして、イノリ、イサト、ヒノエ、遠夜役の高橋氏、藤原鷹通役、藤原幸鷹、有川 譲、葛城忍人役を演じる中原氏、そして橘 友雅、翡翠、梶原景時、風早役を演じた井上氏を据えていましたが、翌日は、森村天真、平 勝真、源九郎義経、サザキ役の関智一氏や、流山詩紋、彰紋、武蔵坊弁慶、那岐役の宮田幸季氏、そしてアクラム、白龍、ナーサティヤ役の置鮎龍太郎氏が加わったりしていました。武道館でのキャストは少し参加声優が違っています。このようにすることで一般的なファン、コアファン、というようにファンの作品に対する思いに相応した形で楽しむことが出来るのです。中には、開催された地域で、自分の好きな声優が出演しなかったことを残念がる参加者もいるかもしれませんが、このようなイベントを開催するということ自体、より細やかなファンサービスへの第一歩と言えるのではないでしょうか。 ■関東でも戦国コンテンツが集結-戦国楽市楽座@さいたまスーパーアリーナ内コミュニティアリーナ一方、コーエーのお家芸とも言える歴史コンテンツをイベント形式で集めたのが戦国武将祭。筆者が特に注目したのが、併催された戦国楽市楽座です。同イベントは『遥か』のような声優を中心としたイベントではなく、コーエーの商品群を中心に歴史関連のコンテンツを集めるというコンセプトのもと開催されました。まさに「楽市楽座」という言葉がピッタリのイベントです。発売を直前に控えていた『北斗無双』にはじまり、『三国志DS2』『戦国無双3』など様々な作品が試遊出来るようになっていました。この他に、NHK大河ドラマで使用していた甲冑や美術展示、山佐による『戦国無双』パチスロの試遊コーナー及び『信長の野望』シリーズ原画の展示、とコンテンツという枠を更に飛び抜けた感があります。この「コンテンツ」という枠を更に飛び出た感は、参加していたブース出展でより顕著になります。アニメーションやキャラクターグッズ(アニメメイト、メディアファクトリー)、ご当地キャラ(ベースワン)、コミック(リイド社)、原画(アートコレクションハウス)、モバイル(シンクウェア、music.jp)からはじまり、iPhone用ケース(ソフトバンクモバイルBB)、奥羽戦国観光連携会議、武将都市ナゴヤ、戦国EXPO運営委員会といった、地域活性化や観光なども意識した事業団体や運営委員会、そして食べ物、「武田信玄味噌鍋うどん」(キンレイ)、や家紋焼き(戦国魂)に至るまで「戦国」をキーワードとして集結していました。また、イベントも、Yamasaによる声優ショーや、戦国アクション時代劇「ガーネットオペラ」のトークショー、戦国ご当地キャラ登壇イベントなど若年男女層から子供たちなどのライトな戦国ファンをターゲットにしたものから、時代考証の第一人者である小和田哲男氏や、『風林火山』の統括プロデューサー、若泉久朗氏と同作板垣信方役の千葉真一氏によるトークショーなど、ディープな戦国時代好きも喜ぶようなイベントを企画するなど、「戦国時代」を全方向的に網羅する企画内容となっていました。筆者がこれまで関わってきている太秦戦国祭りも、戦国魂や、しょうぶ屋とともに出展。ブースにも多くの方に来ていただいています。 これらのイベントから感じとれるのは同じプロモーションコストを使ううえでも、それぞれのターゲット層を明確にしたうえで、そこに訴求出来る最適案を吟味し展開していく時代が到来したということです。そして、そのようなターゲットの細分化を図る上で重要になっているのが「作品の中で語られている「物語」は一体何なのか」ということ。これらを踏まえると、これからのゲームビジネスにおいては、それぞれの作品の「売り方」の多様化が更に進んでいくかもしれません。
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