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2017年9月21日~9月24日に幕張メッセにて開催中の「東京ゲームショウ 2017」。今回は、セガゲームスの龍が如くスタジオ、『龍が如く』シリーズプロデューサーの横山昌義氏と『北斗が如く』ゼネラルプロデューサーの佐藤大輔氏にインタビューを実施。最新作『龍が如くONLINE』、『北斗が如く』について気になる要素を伺いました。
■『龍が如くONLINE』について
──それでは、『龍が如くONLINE』を開発するに至った経緯を教えてください。
横山氏:『龍が如く6 命の詩。』で桐生一馬の物語が終わり、この先どうやって『龍が如く』のIPは発展していくのかを考えました。そこで、シリーズ1作目では闇のある歓楽街「神室町」での人間ドラマを描いていたという原点に立ち戻りました。神室町に生きる人たちのドラマを新しい主人公で描く、という発想で出てきたのが「春日一番」で、彼を描きたいというのがストーリーテリングのキッカケでしたね。
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──新しい主人公を新しい媒体で描くことの狙いは何ですか?
横山氏:多くの人に触ってもらうチャンスを作り、もう一度リブートをかけないと『龍が如く』の世界は死んでしまうと思いました。コンソールで我々が得意としている、キレイな映像と最新技術で感動を与えるという作り方はそのままやるとして、別軸の広げ方をするならオンラインだなと。ただ、表現できるものがコンソールとは異なるので、オンラインとコンソール版では途中からストーリーが大きく分かれる別物として作っています。これは僕たちもやったことがない取り組みなので、どこまでうまく作っていけるかはこれからの課題ですね。
──『龍が如くONLINE』はどのようなゲームですか?
横山氏:Free to Playでキャラクターを集め、チームを組んで戦ったり、クエスト形式でお話を進めてたりといったいまのトレンドとなるゲーム性はほぼ入っています。
佐藤氏:GvGのようなギルドバトルも入る予定です。組長や若頭といった役職もありますよ。
横山氏:ドラマチック抗争RPGという名称にしているのはそうした狙いもあり、抗争劇を描きたいと思っています。
──『龍が如く』シリーズのキャラクターは登場しますか?
横山氏:『龍が如く6 命の詩。』の後のお話なので、シリーズで描いてきた12年間の歴史は残っています。そのため、生きているキャラクターはストーリー上で出会う機会があれば会いますし、仲間になることもあります。
──スマートフォン版を出す際に意識した『龍が如く』らしさは何ですか?
横山氏:『龍が如く』に求められている一番大事な軸は、ドラマです。ただ、僕らが大事にしているドラマというのは、“役者さんの演技”と“最新のグラフィック”・“サウンド”のミックスによって感動を与えています。それを、スマホというガジェットとで表現するのはかなり難しい。自分たちが作ってきた“最大の強み”が“最大の弱み”ともなるため、調整に挑みながら開発しています。
ストーリーはかなり重視して作っていますが、長すぎると読めないし頭に入ってこない。そこで、TGSで公開した絵が流れいていくムービーシーンだったり演出シーンも入れながら、声の演技なども含めて全体の世界観を感じてもらえるように作っています。
──『龍が如くONLINE』のターゲットユーザーはどのような方ですか?
横山氏:日本全国に網を投げるようなイメージですね。
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佐藤氏:『龍が如く』ファンのみなさんはもちろんターゲットに入っていますが、知名度はとても高いIPなので、やったことはないけれどF2Pならやってみようかなと考える方にもプレイしていただきたいと思っています。
──主人公「春日一番」という人物について教えてください。
横山氏:12年間主人公を背負った桐生一馬の交代。それは、ユーザーさんにとって最大の離脱ポイントになると思っていました。そこで考えたのは、卒業したくないと思ってもらうためにはどうすればいいかということです。そして、それは「代わりになる人物」が出てくることだろうと。見たくてしょうがない、気になって仕方がないキャラクターを作り出せるかどうかを至上命題とし、キャラクターを徹底的に作り込むことが最初の作業でした。
──具体的には、どういった点にこだわって作られましたか?
横山氏:最初にキャラクターのイメージを固め、チーム全員が「この人間を作るんだ」という意識を持たせるために、声優のオーディションを行いました。名前も時間をかけて作っています。「春日一番」という字面ってなんだかめでたい感じがしますよね。しかし、親はソープ嬢で自分のことを捨てた人で、一番という名前はもしかしたら願いを込めて付けたのかもしれないし、遊び心だったのかもしれない。でも、生活からして一番になれるわけがない人物にとっては、最高に皮肉な名前ですよね。次に、「一番」に似合う名字とは何なのかと考え、自分のハードな生い立ちを人に話したときにめでたい名前の人が話す方がギャップが強いので、「春日」に決まりました。
──春日一番のビジュアルを作られた際のエピソードはありますか?
横山氏:「パンチパーマのかけそびれ」という設定があります。プロローグムービーを観ると分かるのですが、子供時代の一番はストレート、でも出頭するときはパンチパーマです。彼は16歳で憧れである荒川真澄に惹かれて極道の世界に入りますが、かっこいい悪いではなく「オヤジがパンチだから俺もパンチだ」という理由でパンチパーマにしています。そして、刑務所に入ってパーマがとれる。出てきて最初に髪型を戻そうとするのですが、時代が変わっているからパンチパーマがかけられないんです。その結果、パンチをかけるつもりがドレッドが失敗したような変な髪型になってしまいました。服も刑務所に入った当時のものを着ているので、すべてが時代に取り残されてしまい、知っている“当たり前”がないというキャラクターの成り立ちを見た目から表現しています。
──重要人物である「荒川真澄」についてもお話いただけますか?
横山氏:荒川はとてもかっこいいですよ。TGSで放映しているムービーの冒頭に入っているシーンは、一番が荒川に撃たれているシーンです。これは『龍が如くONLINE』中盤のクライマックスの部分ですね。『龍が如くONLINE』は一番と荒川、2人の人間ドラマを描いた話です。
■『北斗が如く』について
──それでは、『北斗が如く』の開発に至った経緯を教えてください。
佐藤氏:龍が如くスタジオとして、いままでとはちがう挑戦をしたいと考えていたところ、ちょうど「北斗の拳」が2018年に35周年を迎え、さまざまなコラボレーションが行われるなかで我々にゲーム化のお話がありました。コラボレーションをイメージしたときに、「北斗の拳」は男たちの熱い戦いがあり、しっかり愛がある。『龍が如く』も同じように熱さや色々な愛の形があり、作品の根底にあるものがリンクすると思い、我々作るとおもしろいものができると考えて原先生に提案しました。
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──龍が如くスタジオが考えるコラボレーションとは何ですか?
横山氏:『龍が如く』には、ドラマとシステムという2つの軸があると思っています。このシステムはドラゴンエンジンのことではなく、街を中心にゲームを設計していくという遊びのシステムです。『北斗が如く』はそうしたシステムの上に乗る、新しい世界観のIPがないかという取り組みだと思います。『龍が如く』が広がる次の一手にもなりますしね。
──ゲームボリュームはどのぐらいですか?
横山氏:ひとつひとつのテンポが『龍が如く』とは異なります。たとえば、バトルは「秘孔アクション」があるので、『北斗が如く』のほうが少し長いと感じるかもしれません。また、街の外の荒野をバギーに乗って探索したり、そこでの出会いもあります。プレイスタイルによってプレイ時間も変わってくると思うので、僕らもどのぐらいのボリュームになるのか測りかねています。
──荒野の遊び方について教えてください。
横山氏:ストーリー本編で、病人を連れて街の外に行くシチュエーションがあるのですが、そこで車を手に入れて荒野に出ていきます。
佐藤氏:エデンという街は城壁に囲まれており、外には荒野が広がっています。そこではレースが開催されていて賞金を手に入れたりできるのですが、それ以外に荒野を自由に動き回れるようになっています。結構な広さのある地続きのフィールドなので、襲われたり、何かを発見するといったようなことがあります。バギーはカスタマイズができ、トルク強化といった車の性能を上げると急斜面を登れるようになり、新しいエリアが探索可能です。
横山氏:いままでと一番違うのは“縦横無尽”であることです。『龍が如く』ではモードが切り替わっていましたが、今回はアドベンチャーとして外に行けるので、違う遊び方になっていると思います。
──エデンの広さやデザインについて教えてください。
横山氏:エデンは山をくり抜いて作った謎のスフィア・シティの麓にある街です。さらに広大な荒野もあるので、それを含めると僕たちが作ったワンステージでは圧倒的に大きいですね。エデンのデザインも原先生にチェックしていただいています。
最初に、外から壊れたものを集めてきて再利用しているジャンク街の通りといったコンセプトアートを見せたのですが、それを原先生が見ると「ここに廃車は絶対にない。この時代のここに住んでいる人はたくましく、車も人力で移動できるのでこんな邪魔なところに置かない」と。爆風があった直後なら分かるけれど、生活しているならありえないと指摘されるんですね。折れた信号機も、折れた先は何かで再生利用している、路面が荒れているなら必ず舗装する、空き家もなく住めるところには全部住む。この時代は資源が少ないので、余分なところはひとつもないから誰も住んでいない廃屋は存在しないんです。世紀末におけるライフスタイルや考え方などをどこまで構築されているかを見られているので、世紀末の共通ルールを持つまでは時間をかけました。
佐藤氏:NGを指摘する際も、しっかりと理由をご説明いただけたのはありがたかったですね。
横山氏:机の足のデザインについて、世紀末をイメージしてデザイナーがゴシック調にしてみたところ「サウザーならまだしも一般人が華美なものは持てない」と。
佐藤氏:戦争でなくなっているので、木のデザインもありません。近未来なのでセラミックは大丈夫でした。
横山氏:「タルーガ」というオリジナルキャラクターは原先生に目の前でデザインしていただいたのですが、僕がイメージを伝えるとボタンの素材や服の着こなしなどを言いながら作られていて、すごい場面だなと感動しましたね。
佐藤氏:サインが欲しかったですよね(笑)。
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──バトルシステムについて、『龍が如く』シリーズとの共通点・違いを教えてください。
佐藤氏:コンビネーションで多彩な技が出せることは踏襲しつつ、相手に攻撃を与えるとノックバックして隙が生まれます。そこに秘孔をつく「秘孔アクション」を加えています。ただし、しっかり体勢を崩していないと秘孔はつけずに弾かれてしまいますので、『龍が如く』のバトルよりも少しテクニカルな感じです。
横山氏:コンボのフローも北斗神拳を踏襲して少し複雑になっており、つながる先の奥義も変わるようにしています。ただ、そうした操作が苦手な人でも楽しめるようにボタン連打で「北斗百裂拳」がでたりと、いろいろな遊び方ができるようにしています。
──原作にはグロテスクな場面もあるが、ゲームではどうなるのしょうか?
佐藤氏:今、プロモーション映像で使っているような表現で落ち着かせようと思っていて、CERO Dのギリギリを狙う感じですね。もちろん苦手な方もいらっしゃるので、オプションで流血表現を抑えるカスタマイズを入れようと思っています。
──「こんなケンシロウ、見たことない!」を実現するにあたって苦労やこだわりを教えてください。
佐藤氏:ケンシロウにどういうことをやらせたらおもしろいか、というどの作品でも観たことがないケンシロウのネタだしから行いました。
横山氏:“女性を口説かない”というような、ケンシロウの行動原理を間違えないという大前提はもちろんありますが、『北斗が如く』の企画意図をお話していたので、バーテンダーなどは「あったらやるでしょ!」とのっていただけました。そのため、版元で監修するというより企画を出していただいたりする“共同開発のチーム”という感覚でした。
──キャバクラのようなお色気スポットはありますか?
佐藤氏:客として行くキャバクラはありませんが、映像にもありました「黒服ケンシロウ」というキャバクラの用心棒になるプレイスポットはあります。
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──『北斗が如く』は、原作を知らなくても楽しめるのでしょうか?
横山氏:絶対楽しめると思います。愛・宿命という言葉ですべてをでは済ませたくはなくて、全部に理由があります。「会ったら俺たちは戦うだろ」ではなくて、男たちにも原作に準拠した行動原理がそれぞれあり、オリジナルストーリーの中で理由を持ってケンシロウと戦います。キャスティングはそうした行動原理を『龍が如く』のキャラクターにすりあわせて、一番合う人たちを当てています。
佐藤氏:キャラクターそのものは原作の設定を守っている、でも出会い方や展開がまったく違う。そのため、原作を知っている人にも全然ちがう『北斗の拳』が楽しめると思います。実は、名越と横山は原作をあまり知らない、一方で僕とディレクターは原作が大好きなんですよ。
横山氏:原作が好きすぎて解釈がちがうぐらいですからね(笑)。ちなみに、開発チームは原作ファン9割、知らない人1割ぐらいのバランスなので、原作ファンに囲まれながらシナリオを書いている状態で、常にプレゼンをしている気分でした。
──ケンシロウの声に黒田崇矢さんをキャスティングしたのはなぜですか?
横山氏:僕たちは『北斗の拳』を作ったことがないので、知らない声優さんを起用することに怖さがありました。なので、作ったことのない作品だからこそ信頼できる声優たちとクオリティを高めていくというのが正しいと考え、黒田さんをキャスティングしました。
ボイスサンプルを原先生に聴いていただいたのですが、5秒ぐらいで「すばらしいです」と了承いただけました。35年前とは絵柄も変わっていて、2017年のいま考えるケンシロウの声というイメージが合致されたのだと思います。他のキャスティングも僕らが信頼する方でいきたいとお願いして、誰もはねられずに提案どおりで決定しました。
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──最後に、ファンの方へメッセージをお願いします。
横山氏:次の新しい取り組みは提供していくつもりですが、『龍が如く 極2』はこれまでシリーズを応援し続けてくださったファンの方々に感謝の気持ちを伝えるというコンセプトで作っています。そのため、真島の新シナリオに『龍が如く0 誓いの場所』に登場する女性を入れたり、通常の作品以上に旧作からのネタを入れています。こうした要素を入れたのは、ひとえにシリーズファンへの愛です。みなさんが12年間プレイされて素直におもしろいと思ったものをシンプルに真っ向勝負で入れています。そして、『北斗が如く』では新しい龍が如くスタジオの力を感じてください。
佐藤氏:『北斗が如く』も『龍が如くONLINE』も龍が如くスタジオの新しい挑戦です。『龍が如く』ファンの方もそうでない方も、まずは手にとって楽しんでいただければうれしいですし、そこからシリーズの世界を好きになってくださったらこんなに幸せなことはありません。
──ありがとうございました。