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モバイルアプリのデベロッパーに向けてユーザー獲得やマネタイズなど、包括的なソリューションを提供するプラットフォーム「AppLovin」が、自らもアプリのパブリッシングに乗り出す「Lion Studios」の新設を発表したのが7月13日。アドネットワーク企業がゲームのパブリッシングに乗り出す意図とは?Lion Studiosの日本の責任者を務める坂本達夫氏にうかがいました。
――なぜAppLovinはアドテク企業でありながらゲームアプリのパブリッシングに乗り出したのでしょうか。まずはLion Studiosについてお聞かせください。
坂本氏(以下、敬称略):先日のプレスリリースで発表させていただいたのですがが、Lion StudiosはAppLovinの新たな事業のひとつという位置付けになります。AppLovinはデベロッパーに対して広告によるマネタイズやプロモーションのソリューションをご提供する企業ですので、ビジネスの主体はあくまでデベロッパーやパブリッシャー、我々はあくまで彼らをサポートするという立場です。
ですが、Lion Studiosは、我々自身がパブリッシャーになるということですので、ここが一番大きな違いですね。デベロッパーと強固なパートナーシップを組んで「このゲームはこう育てていきましょう」と、そういう取り組みをしていきます。
――アドテク企業がゲームのパブリッシング事業に乗り出すというのは、決して前例も多くなく、大胆な施策と見受けられます。その狙いは何なのでしょう。
坂本:AppLovinはセルフサーブという形で、小規模な広告主であってもご自身で広告を自由にセットアップして配信できる体勢を整えました。ですが、規模の小さなデベロッパーが例えばアメリカのApp Storeでトップ10までいけるかというと、どんなに優れたゲームを作れても難しい状況になっています。そのくらいの市場規模になると、広告だけで日本円にして1日で数百万円という額をプロモーションに注ぎ込まなければ、他と張り合えるだけのユーザー獲得ができませんからね。
それに加え、F2Pのアプリでは先にキャッシュアウトがあって、そのあとでキャッシュインがくるわけですから、先立つものがない小規模なところはそういう意味でも難しい。我々はかねてから「すべてのアプリ事業者に成長する力を」というミッションを掲げており、Lion StudiosではこれまでのAppLovin以上に深くデベロッパーの事業に関わっていこう、と考えるに至ったのです。
――AppLovinのミッションをより確実に達成するための施策のひとつがLion Studiosだということですね。
坂本:Lion Studiosがパブリッシングをさせていただく際は、プロモーションのオペレーションを手がけるのはもちろん、それにともなう費用も一旦全てこちらで負担します。その後、売り上げから費用を引いた利益分から、所定の割合をレベニューシェアにするというビジネスモデルです。極端に言ってしまえば、よいゲームさえ作っていただければマーケティングに関する知識がなくとも、その元手となるキャッシュがなくとも大丈夫ということです。
――戦略的には、どのようなマーケットを見据えているのでしょうか。
坂本:市場規模の大きな北米を中心にワールドワイドで展開できるアプリをパブリッシングしていこうと考えています。特にゲーム中に出てくる単語が「プレイ」や「ゲームオーバー」、「リスタート」というようなものしかないくらいにシンプル、かつカジュアルな「ハイパーカジュアル(ゲーム)」を軸に展開していく予定です。もちろん、アイテム課金型や有料モデルのパブリッシングも視野にはいれています。
なお、すでに日本のデベロッパーや個人開発者とも話はさせていただいていますが、具体的にどのようなタイトルをリリースするかをお話できるのはもう少し先になりそうです。
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――そうしたデベロッパーは、どのようにして見つけられるのでしょうか。
坂本:今のところそこは地道な人海戦術ですね。こまめにアプリストアを巡回したり、インディーゲームを多く紹介するサイトや、YouTuberの配信をチェックしたりしています。そうしてよさそうなゲームを見つけたらお声がけしてプロモーションのテストをさせていただき、そこでよい数字が出たらさらに次の段階へ……という流れです。また、ホームページ上にお問い合わせフォームがあり、そこからパブリッシングにご興味があるデベロッパーから連絡をいただく場合もあります。
その過程で「ユーザーを獲得するところまではよくできていますが、継続率が少し低いのでここを改善していきましょう」などとディスカッションしますし、ご縁ができたデベロッパーからは「次はこういうゲームを考えていますがどう思われますか」とご相談をお受けすればアドバイスもしていていきます。