本稿は、モバイルアプリの計測・分析ツールを提供するAdjustによる寄稿記事です。
中長期的な分析データの活用で作業効率の向上と広告予算の削減が実現
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Adjust 最高製品責任者 ケイティ・マディング
プライバシーポリシーの変更に伴い、デジタル広告業界では「マルチタッチアトリビューション(MTA)」と「メディアミックスモデリング(MMM)」に注目が集まっています。マルチタッチアトリビューション(MTA)とは、アプリのインストールに至るまでに発生した全てのタッチポイントを計測する手法のことを指し、メディアミックスモデリング(MMM)は、過去データを調査して何が収益化に貢献したかを判断することで、マーケティングの取り組みを分析するアプローチを指します。MTAは、個々のユーザーに依存し、AppleのApp Tracking TransparencyやAndroidプライバシーサンドボックスなどのプライバシー関連の変更の影響を受けやすい傾向がある一方、MMMを採用するマーケターは、今後のマーケティング活動を長期的かつ大規模に分析することがより重要だと考えています。
しかし、MTAやMMM単体ではプライバシー時代の計測課題を解決することはできません。マーケターが考慮すべき3つ目のアプローチは、「インクリメンタリティ計測」です。インクリメンタリティ計測とは、特定のマーケティング施策が実際に追加の売上やコンバージョンをもたらしたかどうかを評価する手法です。これにより、特定のマーケティング活動が、実施された場合と実施されなかった場合を比較して、指標がどのように変化するか評価できます。
また、AIや機械学習の進歩により、AI主導の次世代インクリメンタリティ計測は、従来のABテストとも異なります。
今回は、インクリメンタリティ計測がMTAやMMMを補完する方法と顧客の需要が高まる中で、次世代のAIを活用したインクリメンタリティ計測がなぜマーケティング業界における革新的アプローチといえるのか、また、マーケターにどのようなメリットをもたらすのかを紹介します。プライバシーを重視する時代において、マーケターがこれらの計測方法の違いと役割を理解することが重要です。
インクリメンタリティがMTAとMMMをどのように補完するか
MTA、インクリメンタリティ、MMMは、マーケティングの成果を計測するための有効なアプローチです。しかしこれらは、マーケティングファネル全体を理解するための一部に過ぎません。
アトリビューション計測は、マーケティング活動の短期的な成果を把握するのに適しています。例えば、モバイルマーケターはこれを使ってキャンペーンによるアプリインストール数を確認することができます。MTA計測は、最後にどのチャネルがコンバージョンに貢献したかだけではなく、ユーザーやカスタマージャーニーにおける全ての接触ポイントを示します。MTAは依然として有用ですが、GoogleとAppleによるプライバシーポリシーの変更により、その利用はますます制限されています。
インクリメンタリティ計測が導入されたことで、マーケターは新しい市場で新しいキャンペーンタイプを新しいチャネルで実施することが可能になりました。インクリメンタリティ計測は、「広告費用を最大限に活用できたか」という疑問を計測データにより解明できます。例えば、アトリビューション計測により、Instagramに一定数のインストールがあることが分かりますが、実際のキャンペーンの効果やオーガニックインストールと比較してどれほど効果的か認知することができません。インクリメンタリティ計測は、これらの疑問に答えます。
また、MMMはパフォーマンスを長期的に把握するのに加え、戦略的な予算配分を行うマーケターにとって最も有益です。MMMにより、マーケターは予算とキャンペーンの目標に基づいて複数のチャネル間で最適な広告費用の配分を行うことができます。MMMは、6ヶ月間のチャネル投資とパフォーマンスの相関関係を評価し、マーケティングミックスを調整します。
現代のグロースマーケターは、意思決定にこれらすべての計測モデルを活用することが求められています。MTAは最も早く結果を出せる短期的な指標を提供し、インクリメンタリティはマーケティングを行わなかった場合のパフォーマンスと比較して、最も支出に見合ったものかどうかの中期的な指標データを提供します。MMMは、季節性などの要因を考慮しつつ、成果を向上させるにはメディアミックスをどのように調整すべきかなど長期的な分析に基づく戦略的な予算配分を提供します。
AIとML(機械学習)が次世代のインクリメンタリティを実現する方法
インクリメンタリティは、よくABテストと混同されますが、実際にはABテストはインクリメンタリティに対するアプローチの1つに過ぎません。科学の授業でも学んだように、ABテストではあるグループに対してキャンペーンを実施し、キャンペーンを経験しなかったコントロールグループと比較して、その差異の影響を分析します。
ABテストは、インクリメンタリティを評価する上で重要な役割を果たしますが、それにはいくつかのマイナス面もあります。例えば、人的要因の影響が大きいため、完全なコントロールグループを得るのは困難です。結果として、マーケターはやや偏った不正確な結果を得るようになり、インクリメンタルリフト(増分効果)の全体像が曖昧になることがあります。さらに、コントロールグループを作成することで(テストが上手く進んだ場合でも)、ターゲット人口の一定数がキャンペーンに接触しないことになります。
AIとML(機械学習)の能力と可用性の向上により、「次世代のインクリメンタリティ計測」が推進されています。このアプローチでは、ML(機械学習)がマーケターの手間を取り除き、(おそらく欠陥のある)コントロールグループを作成する代わりに、類似したキャンペーンの膨大な履歴データを分析してインクリメンタルリフトを計測します。結果として、マーケティング予算をより効率的に活用できるようになります。
これまで厳密には実行不可能だったことすべてをAIが実行できるとは限りませんが、このシナリオにおいて、AIはより速くかつ正確にテストを実行することで効率を向上させ、より多くのマーケターにインクリメンタリティ計測を提供します。たとえば、大規模なデータサイエンスチームを抱えるフォーチュン500企業では、キャンペーン結果を12週間分の過去データと比較し、コンバージョンと広告費用のパターンを評価でき、さらにAIを使用すれば数分でそれを実現できます。
例えば、あなたが米国で成功しているEコマースアプリのマーケターで、ブラジルに進出したいと考えているとします。市場についてあまり把握していない状況で、ユーザー獲得キャンペーンを実施した場合、アトリビューション計測でインストール数をすぐに確認できますが、それがキャンペーンに純粋に貢献したかどうか、あるいは自社のパフォーマンスが競合他社とどう比較されるかは把握できません。次世代のインクリメンタリティ計測と適切なデータの質(および量)により、最終的なキャンペーンの成果を同様のEコマースアプリの成果と比較し、95%の精度でインクリメンタルリフトを評価できます。これらはすべて専属のデータサイエンティストチームより早いペースで実施することが可能です。これがAIがもたらす価値です。
複数の計測アプローチがマーケターに必要な理由
不況の恐怖が続く中、マーケティング部門はチームの再編成を余儀なくされています。次世代型インクリメンタリティは、このような環境において特に2つの点で特に有用です。
第一に、次世代のインクリメンタリティ計測は小規模なチームの力を高めます。マーケターは集計データを活用でき、多くの情報を手動で分析する必要がなくなります。次世代型インクリメンタリティは、大規模なデータサイエンスチームのようなパフォーマンスを発揮するため、技術的な作業の多くをテクノロジーに任せることができるのです。ユーザー獲得マネージャーは、これまで大規模なデータサイエンティストがファイルを分析しなければならなかったインサイトをより効率的に得ることができます。
第二に、おそらく最も重要なことは、企業がこれまで無駄にしていた広告費用を節約できるようになることです。どのアクティビティやチャネルが価値を提供しており、どれがそうでないか、どのキャンペーンがインクリメンタルリフトを促進し、どれがオーガニックを奪い合っているのかを素早く特定できれば、メディア予算を増やすことなく、より良い結果を導くことができます。いずれの場合も、次世代のインクリメンタリティは効率の向上につながります。
もちろん、特定の計測アプローチが全てを支配するわけではありません。しかし、プライバシーの変更に対応するため、マーケターにはMTAが提供するような短期的なユーザーレベルのデータに基づく情報以上のものが必要です。MMMと次世代インクリメンタリティを活用して長期的な傾向を分析する計測アプローチを完成させることで、「どのマーケティング戦術が最大の利益をもたらしているのか?」という疑問に答えることができるのです。