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このセミナーの登壇者は、芸者東京・田中泰生氏、面白法人カヤック・畑佐雄大氏、エウレカスタジオ・馬場紘弥氏、AppLovin・片木智也氏の4名です。モデレーターを片木氏が務め、今ではおなじみのゲームジャンルである“ハイパーカジュアルゲーム”で全米第1位を獲得した、それぞれの成功する企画についてお話いただきました。
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まずは、芸者東京の田中氏から自己紹介を行いました。芸者東京はソーシャルゲームやVRに取り組んでいた会社ですが、会社が傾いたことをきっかけにハイパーカジュアルゲームにチャレンジ。2018年12月にリリースした『Snowball.io』で全米1位を獲得し、その後は『Traffic Run!』、『Dinosaur Rampage』、『Pizzaiolo!』、『Recharge Please!』といった様々なハイパーカジュアルゲームで成功を収めています。
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続いては面白法人カヤック・畑佐氏。同社はWEBや広告制作の会社でしたが、ソーシャルゲームの運営なども担っていました。ハイパーカジュアルゲームのチームが立ち上がったのは2019年のゴールデンウィーク明け。同年の年末には『Park Master』というタイトルをリリースし、2020年の1月に全米1位を獲得しました。同作が成功した理由についてはインタビュー記事を掲載しておりますのでぜひご覧ください。
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馬場氏の所属するエウレカスタジオは2018年4月に創業。当初は馬場氏ひとりで開発を行い、脱出ゲーム『学校サボる!』で全米1位を獲得。新たに人を増やし、今後はハイパーカジュアルゲームを量産していきたいという意気込みを語りました。
三者三様のハイパーカジュアルゲームへの取り組み方
まずは、各社が企画を立てる上での組織体制や、企画が生まれるまでの大まかなプロセスが話されました。田中氏は時系列で開発体制の変遷を伝え、1期目は多種多産で取り組み、2期目で企画チームを組織。3期目である現在は、企画チームに所属する面々の得意分野を生かして、それぞれが得意なジャンルを担当していると述べました。また、毎週企画を提出する日を設定し、各ジャンルに精通しているメンバーの意見も踏まえながら、推し進める企画や作業の優先順位を決めているとのことです。
さらに長年の開発を経て、企画が得意な人やアイディアの実動力がある人など、メンバーの個性がより明確になっているとコメント。「1~2年ぐらい開発の経験を積んだことで、いい意味で人の話を聞けるようになる」といった良い変化も見られているそうです。
また、新しい社員の採用にも携わっている田中氏は、「企画をどこからかもらうのだと思っている方が多く、社員には1から企画を立てゲーム制作に臨んでみて欲しい」と語りました。このようにひとりの社員がゲームの企画から開発に携われるのは、アイディアをすぐに形にできるハイパーカジュアルゲームならではの特徴です。
畑佐氏の所属するカヤックでは、チーム内にプランナー職を置かず、エンジニアを中心に各々が作りたいものを提案。それがハイパーカジュアルのジャンルに沿うものか、話し合いやテストの機会を設けているそうです。開発体制としては、芸者東京における1期目に近いと述べました。
エウレカスタジオの馬場氏も同様の時期であると伝え、エンジニアがアイディアを提案し、ブレストを挟みながら開発をスタートするとのこと。社内で分業は行っておらず、エンジニアが初期から完成まで開発に携わるそうです。
ハイパーカジュアルゲームにおけるプロトタイプの質の上げ方とは?
「プロトタイプの質の上げ方」については、畑佐氏と馬場氏から話がありました。畑佐氏は企画のプロトタイプは質以上に速さを重要視し、その上でどれだけ質を上げられるかがポイントになると語りました。「プロトタイプはスケーラビリティをテスト(安いCPIでいかに多くのユーザを獲得できるかのテスト)する役割が大きく、それに必要最低限なものだけを突き詰めて作ることが質を上げる方のポイント」と述べました。
プロトタイプ制作時の具体的なアクションとしては、スケーラビリティテストで作る広告クリエイティブから逆算し、必要なものを用意するとのこと。ハイパーカジュアルゲームにおける広告の作法として、「失敗するシーンを何回も見せ、視聴した人に自分がやりたいという感情を抱かせる」というものがあります。これに基づき、企画中のゲームにおいて必要となるものをプロトタイプとして制作されるそうです。
馬場氏も、畑佐氏と同様にプロトタイプを作るとコメント。「広告クリエイティブに関与しない部分(振動やサウンドなど)は無駄であり、自分たちが考えなければいけないのは、いかにしてCPIを下げられるものが作れるか」と述べました。また、社内でもプロトタイプが広告クリエイティブ映えするのかを言語化し、無駄を省くことが開発プロセス全体のスピードをあげることに繋がっていると話しました。
新たなハイパーカジュアルゲームは日常の一コマ、当たり前の中から生まれる
次の議題は、「アイディア出しを行う際のプロセス」について。芸者東京では企画プロセスと同様に期間別に分けて説明。1期目はトップ100位のランキングを分析、2期目は2ヶ月後のゲームランキングを予測していたとのこと。3期目ではゲームに関する知識は当たり前のものとし、自然体に日常生活の中から面白そうなことを探して企画を作られているそうです。
コロナ禍以前に奄美大島で行った合宿で、「電源タップが足りずにみんなで奪い合ったという経験が『Recharge Please!』のアイディアになった」という驚きのエピソードも飛び出しました。田中氏は、日常のどんなことでもゲームの題材になると考えており、『Traffic Run!』ではシリコンバレーを旅行時に起きた交通事故の経験が生きているそうです。
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『Traffic Run!』他の車にぶつからないようにゴールを目指す、スリリングなアクションゲーム。
カヤックの畑佐氏も日々ゲームランキングには注視しており、他の作品の研究を行うことが当たり前になっているそうです。プレイしたゲームについてはどのような要素で構成されているかを分析。これを繰り返し行っていくと、ゲームにおいて何が面白いのかを体験として理解できるようになるそうです。こうした面白さに対する感覚が身についてくると、日常生活を送っている中でゲームにできそうなものに気がつけると伝えました。
馬場氏は物理学者のニュートンの例を出し、「物理学のことをいつも考えているニュートンはリンゴが落ちるのを見て万有引力の法則を発見したように、自分も人生=ゲーム作りと考えながら常にアンテナを張って生活している」と述べました。
また、『学校サボる!』の制作秘話として、学校が大嫌いでサボっていた経験をゲームに落とし込んだとコメント。こちらのエピソードについては、詳しくお話を伺ったインタビュー記事を掲載しておりますのでご覧ください。片木氏からは一つ一つのステージのストーリーが面白いと称賛され、「半分くらい実話なんですよ」と語りました。
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トレンドは追うのではなく作る!
次は「トレンドの意識」について、畑佐氏と馬場氏から話がありました。畑佐氏は、現在人気があるゲームを参考にして作ろうとしていた時期はあったものの、人気の移り変わりが速く、制作を始めてリリースするまでの1~2ヶ月でトレンドが変わってしまうことがあったそうです。その経験を経てリリースされたのが『Park Master』で、自分たちが面白いと思うものを作るという方向性に決まりました。
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馬場氏は人気のジャンルを作ることもあれば、かつてのトレンドを踏襲するなど様々な方向性にチャレンジしていると話しました。同時に、今のトレンドでもなければ過去に流行したこともない、全く新しいものについても原案を出されているそうです。
良いアイディアを出すために日頃行っていることとは?
次のお話は、ハイパーカジュアルゲーム業界にこれから参入する開発者の方に向けて、「良いアイディアを出すために日頃行ったこと」について。田中氏は、「ここ2~3年間に人気を得たハイパーカジュアルゲームを全て遊ぶことが最低ライン」としていると述べました。勉強してゲームのフレームワークを理解しておくことで、自分の企画を実装まで落とし込みやすくなるとのことです。
畑佐氏は、同社のメンバーは元々本格的なゲーム制作に携わっており、ゲーム性にこだわりすぎてしまうという苦労があったそうです。そのため、ハイパーカジュアルゲームのように手軽にスキマ時間に触れられて、ゲームプレイ経験の少ないユーザーでも楽しめる所に寄せるのに苦戦。まずは、過去にヒットした作品の構成要素を研究することから始めたそうです。
馬場氏は、新入社員に対して「ジャンルを絞ってアイディアを出してもらう」という試みを実施。いきなり面白いハイパーカジュアルゲームを考えようすると混乱してしまうため、ジャンルを規定することでアイディアを集中できるようになり、制作スピードが早くなったと述べました。そのため、これから参入される方に向けては、ジャンルを限定するのも一つの手であると伝えました。
アイディア出しからプロトタイプ開発までの期間はどれぐらい?
「アイディア出しからプロトタイプ開発までの期間」については、田中氏は“原則3日”と明言。ただし、最近リリースされた『Recharge Please!』や『Watermarbling』は、成功するという確信があったことから時間をかけたそうです。
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畑佐氏は、1週間にひとつテストすることが目標だと語りました。エンジニアひとりにつき1作品が基本ですが、ノルマをこなすことだけに注力するとゲームの中身が疎かになることもあるため、期間には変化をもたせるそうです。
馬場氏もプロトタイプの開発の期間は原則1週間としており、技術的に難しいものはバッファを持たせるものの、2~3週間ぐらいかけてしまうと無駄なものが入ってしまうと問題を指摘しました。
ハイパーカジュアルゲームの成功者が考える、今後の展望について
最後のトピックとして、「今後の展望」が語られました。田中氏は、今のトレンドはすぐ終わるため、次の準備をしておくよう社内で話しているとコメント。『アーチャー伝説』のようにハイパーカジュアルの要素を踏まえたガッツリ遊べるゲームにも興味を持っていると伝え、全てのジャンルで勝つことを目的にチャレンジを重ねていると述べました。
畑佐氏の今後の目標は再び全米1位を獲得すること。『Park Master』で得た経験を2~3作目へ繋げていけたらと語り、組織やチームをブラッシュアップしながら、新たなタイトルで人気を得たいと展望を語りました。
馬場氏は「あと2本くらいは当てたい」と返答。以前に失敗した組織づくりを改善し、開発体制を整えて組織として成功することも目標であると伝えました。ハイパーカジュアル以外のジャンルに進出も考えており、10年後を見据えて会社としてどう生き残るべきかも視野に入れ始めていると述べました。
質疑応答─人材採用、今後のトレンドなどについて
セミナー後に行われた質疑応答では、「ハイパーカジュアルゲームを作る上で、どういった人物が制作に向いているのか」という質問がありました。芸者東京は今人材を募集しているところだと話し、既成観念がなく、自分のやりたいことがある野心的な方がありがたいと語りました。
カヤックではハイパーカジュアルのために新たに人を採用するのではなく、会社にいる優秀な人材にアプローチをかけているそうです。重要視しているのは熱量で、自身が作ったものに対して結果がついてこなくても、何度でもチャレンジできる人が良いとのことです。
エウレカスタジオでも、失敗にどのように向き合う人物なのかを重視していると述べました。ハイパーカジュアルは失敗を積み重ねながら成功していくビジネスモデルなので、恐れず立ち上がれるかどうかを見られているそうです。
「各社が予想する次のトレンドは?」という質問には、田中氏から「トレンドを追いかけているだけでは勝てない。追うのではなくトレンドを自分たちで作る方向を目指している」と回答しました。畑佐氏は長く残っているかを見ており、遊び続けていて面白い奥深さのあるゲームを作りたいと述べました。馬場氏は、「次何がくるかよりも、目の前にある面白いものを作り続けるいうスタンスで開発している」と伝えました。
「CPIを狙うほどリテンション(継続率)を出しづらくなる、という葛藤についてどう考えているか」という質問もありました。田中氏は『Traffic Run!』の事例として、CPIが低いのにリテンションが高いことを挙げ、「後からリテンションレートを上げるのはむずかしく、最初から大きくなれる可能性を持ったゲームを生み出せるか」という点を意識していると返答しました。畑佐氏も、元々ゲームが持っているポテンシャルに限界があるので、改善をしつつ見切りを付けて次のゲームを制作することも必要と述べました。
一方、馬場氏はリテンションについて、LTVが高ければ低くてもいいという認識とのこと。『学校サボる!』はパズルのステージが100ありますが、1~2日程度で一気にクリアする。これはハイパーカジュアルゲームとしては2日で離脱されているが、インプレッションは稼げているのでLTVは高い。そのため、ユーザーとしては良質なので、リテンションよりもLTVを重視していると応えました。
最後に「マネタイズには何を使用されているのか?」という質問があり、全員が声を揃えて「MAXです!」と返答。UIなどが改善されるスピードも早く、とても使いやすいと絶賛していました。
三者三様に“ハイパーカジュアルゲーム”を制作するためのアイディアの出し方、企画の組織体制やプロトタイプの質の上げ方などについて語られた本セミナー。企画を生み出すところから実際にゲーム開発を行うまで、ハイパーカジュアルゲームに関する幅広い内容について話があり、現在開発に携わっている方や今後参入を考えている方にとって有意義な内容が語られたのではないでしょうか。本セミナーを経て、ハイパーカジュアルゲームの新たな成功例が生まれることに期待が高まります。
AppLovinについて
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