本誌e-Sports Business.jpでは、eスポーツ領域での新規事業開発に関する最新動向をお届けしています。
今回は、クレジットカード企業によるeスポーツ市場への参入に注目。従来のスポーツスポンサーシップの枠を超え、ファン体験の向上から若年層との接点構築まで、その取り組みは多岐にわたっています。本稿では、具体的な事例を通じて、金融機関によるeスポーツビジネスの最新動向を探ります。
JCBによるeスポーツチームとの戦略的パートナーシップ
JCBは2022年11月、日本の人気eスポーツチーム「ZETA DIVISION」との協賛契約を締結。2023年12月には、チームとコラボレーションした「ZETA DIVISION JCB カード W」の発行を開始しました。
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「JCB カード W」は、18歳から39歳までの若年層をターゲットとし、年会費永年無料という特徴を持っています。コラボカードのデザインはZETA DIVISIONが監修し、セキュリティ面でも配慮された「ナンバーレス」仕様を採用。ファンの日常生活とZETA DIVISIONのストーリーを結びつけることを目指しています。
この取り組みの大きな特徴は、ファンからの要望が実現のきっかけとなったこと。SNSなどを通じてコラボレーションカードの発行を期待する声が多数寄せられ、それに応える形で実現したといいます。JCBは、カード会員向けの限定キャンペーンなどを実施することで、eスポーツファンとの接点強化を図っています。
Visaによるグローバルな支援体制の構築
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Visaは2024年4月、プロeスポーツチーム「REJECT」とスポンサーシップ契約を締結しました。同社代表取締役社長のシータン・キトニー氏は「コミュニティを育み、一人ひとりが可能性を発揮し挑戦することを支援するというVisaの価値観に合致するREJECTとのパートナーシップを始めることをとても嬉しく思っています」とコメント。決済テクノロジーとeスポーツの融合による新たな価値創造を目指しています。
REJECTストリートファイター6部門所属の「ときど」選手は「言葉や文化が違う遠い離れた地においても、Visaさえあれば安心して競技に臨むことができます」と語り、グローバルな決済インフラの重要性をアピールしました。
Mastercardによるeスポーツ人材育成プログラム
Mastercardはグローバル規模でeスポーツ市場への取り組みを展開しており、その中核となるのが「Mastercard Gamer Academy」です。同社は、2018年にRiot Gamesの『リーグ・オブ・レジェンド』に関するパートナーシップを締結。2024年から本格的な人材育成プログラムを開始しました。
プログラムは10ヶ月間にわたり、21歳以上の参加者10名が対象です。G2 EsportsとRiot Gamesの協力のもと、毎週1~2時間の学習時間を通じて、実践的なカリキュラムを提供。参加者は、ブランドエンゲージメント、チームマネジメント、コンテンツ制作、イベント運営など、eスポーツビジネスに必要な幅広いスキルを習得します。
同社のチーフマーケティング・コミュニケーションオフィサーであるラジャ・ラジャマナー氏は「eスポーツへの情熱は性別、年齢、人種、文化を超越するもの」と述べ、多様な人材の育成を通じて業界の発展に貢献する意向を示しています。
金融機関のeスポーツ分野への参入は、単なるスポンサーシップを超えて、本業との親和性を意識した展開へと進化しています。今後は、決済データの活用や金融リテラシー教育との連携など、金融機関ならではの新しいビジネスモデルの創出も期待できるでしょう。