
グローバル市場におけるモバイルゲームのアプリ内課金収益額は、新型コロナウィルス流行に伴う巣ごもり需要を受け、2021年には過去最高となりました。その後は減少傾向にあったものの、2024年以降は回復することが予想されており、2028年には1000億ドルを突破すると予想されています(※Sensor Tower「2024年世界のモバイルゲーム市場予測」より)。

また、日本のモバイルゲーム市場は世界第3位の規模を誇る巨大市場であり、同様に今後成長することが期待されています。

モバイルアプリのほとんどは、App StoreやGoogle Play Store等のアプリストアを通じて配信されています。これらのストアは、アプリを多くのユーザーに届けるだけでなく、一定の審査基準を設けることで危険なアプリからユーザーを守る役割を果たしています。
その一方で、ゲーム企業が直面している課題のひとつが「プラットフォーム手数料」の問題です。
App StoreやGoogle Play Store等の主要なアプリストアにおいて、アプリ内課金が発生した場合、アプリ事業者は販売手数料を支払う必要があり、通常30%(一定の条件を満たす小規模事業者については15%)の手数料が発生します。(参考:メンバーシップの詳細 - Apple Developer Program、サービス手数料 - Play Console ヘルプ)
これは上述のとおり、AppleやGoogleがアプリストアを適切に管理、運用するために必要なものではあるものの、特に新興企業や利益率の低いゲームを運営する企業にとっては大きな負担となっていることも事実。その対応策のひとつとして注目されているのが、Webベースなどアプリストア外での決済システムの導入です。これまでは一部のコンテンツ閲覧用アプリ(リーダーアプリ)でのみ認められていた外部決済ですが、世界各地で緩和の動きが強まっています。
米Epic Gamesが手数料問題の改善を主導
2020年、Epic Gamesは『フォートナイト』内で独自の支払いシステムを導入し、AppleはApp Storeの規約に違反したとしてゲームを削除。これを受けてEpic GamesはAppleを独占禁止法違反で提訴しました。
この裁判では双方の主張が部分的に認められる中、App Store外での決済手段について消費者に情報提供することを禁じる行為は反競争的であり、これを禁止するという判決が下されました。
判決を受け、Appleは2024年1月、App Storeのガイドラインを一部改訂して外部決済を認めました。ただし最新のガイドラインによると、外部決済サービスを利用する場合には申請が必要で、「外部決済ページへのリンクは、アプリ内の画面1ページへの表示のみ」「App Storeのアプリ紹介ページには外部決済の情報は表示できない」といった制約が設けられています。
さらに、外部決済での売上に対しても27%(小規模事業者は12%)の手数料を徴収することとなっており、外部決済に3%ほどの手数料がかかると仮定すると、事業者の負担は変わらないことになります。
Epic Gamesのティム・スウィーニーCEOは、「Appleは価格競争を殺している」とその独占状態を批判しており、まだ両社の争いは解決したとはいえない状態。今後プラットフォーム企業による独占状態がどのように規制されるのか(あるいは現状が維持されるのか)、注目が集まっています。
EUは「DMA」で規制強める
欧州においてもプラットフォーマー規制に進展が見られます。欧州連合(EU)は2022年11月1日、大手テクノロジー企業に対する規制を強化し、より公平な競争環境を創出することを目的とした「デジタル市場法(DMA)」を発効しました。
DMAにおける主要な規定の一つとして、AppleやGoogleのようなプラットフォーマーが、自社の決済システムの使用を強制することを禁止し、アプリ開発者が自社のアプリ内で外部の決済システムを利用することを許可するよう義務付けています。
DMAに準拠するためのガイドライン改訂により、EU圏内では、App StoreおよびGoogle Play Storeにおいてゲームアプリでも外部決済を利用できるようになりました。

しかし、さらなる規制を求める声もあります。Appleの新ガイドラインでは外部決済サービスへのリンクの設置(「link-out」)のみを認めており、アプリ内で価格情報を提供できないこと、代替決済の場合でも手数料が発生することなどが争点となっています。
欧州委員会はさらなる調査を進めることを明らかにしており、EU全体におけるプラットフォーマー規制は続くことが予想されます。
日本の法整備にも進展
さて、欧米での規制の動きを紹介してきましたが、日本国内においてはどうでしょうか。
2024年6月12日、「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律(スマホソフトウェア競争促進法)」が国会にて成立しました。
これはEUのDMA同様、市場を寡占するプラットフォーマーを規制し、公正な競争環境を確保することを目的としたもの。決済方法に関しては、「他社の課金システムを利用することを妨げてはならない」とされています。(参考:公正取引委員会「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律の概要」)
2025年末までに施行されるこの法律のもと、欧米同様にAppleやGoogleはガイドラインを改訂することが予想されます。外部決済システム利用時の手数料はどのように設定されるのか等、日本国内でモバイルゲームを配信する企業は引き続き注視する必要があるでしょう。
外部決済のメリットと可能性を決済事業者に話を聞いた
ここまでモバイルアプリを取り巻く国内外の動向を紹介してきましたが、実際に外部の決済システムを利用するにはどうすればいいのでしょうか。
GameBusiness.jpは今回、プリペイドチャージ連携サービス「CharG」を提供するインフキュリオンの白川文寿氏に取材を実施。同サービスの特長や、多様な決済方法を用意するメリットについて伺いました。

――アプリストアの決済機能を利用した場合、売上の15~30%の決済手数料がかかります。決済サービスを提供する事業者として、どのように捉えていますか。
白川一般的に、Webサービスは流通・小売業界よりも手数料の水準が高く、その中でもモバイルゲームは高い傾向があります。決済手数料は事業者にとって大きな負担になっていますし、利益率が低下することでユーザー体験の向上や新たなゲーム開発への投資を阻害する要因になっているのではないでしょうか。
――アプリゲームの事業者としては、どのような決済手段を提供するのが望ましいのでしょうか。
白川今後の法整備やプラットフォーマーの対応を注視しつつ、やはり多様な決済手段をユーザーが選択できることが望ましいと思います。
現状では、アプリ内でコンテンツ等を購入する際には、App StoreやGoogle Playの決済機能を用いたアプリ内購入(In-App Purchase)の利用が必要となっています。今後、これが緩和されるのであれば、銀行口座やクレジットカード、コード決済等、ユーザーが初めからさまざまな選択肢の中から選べるのが最善だと考えています。

――インフキュリオンが提供している決済サービス「CharG」について教えてください。
白川「CharG」は、主に銀行口座連携によるバーチャルマネー購入(=プリペイドチャージ)の決済機能を、非常に簡単に導入できるサービスです。他のサービスでは、例えば提供されたAPIに合わせて事業者様にて必要な画面を作成いただく必要があるなど、事業者様での開発が求められることがありますが、CharGでは決済画面等を含めて、すべて我々のシステム上で決済が完結する、というのが大きな特徴です。
――導入企業としては、決済システムにかける労力が少なくて済むのですね。
白川その通りです。
現状では、高い決済手数料に対して、ユーザー獲得や流通量増大による売上拡大に注力される企業様が多いかと思います。そのようなお客様のシステムにCharGを導入いただくことで、最少負荷で決済手数料の削減を実現しながらも、引き続きメインの事業に注力していただくことができる、と考えています。
CharGの大きな特徴は、システム面とビジネス面の双方で伴走する、ということです。
システム面では、例えばテスト段階においてテスト環境を解放するだけではなく、テスト項目のサンプル等もお渡ししてお手伝いします。我々の提示するドキュメントに沿って1つずつステップを踏んでいただければ、しっかりサービスインできるようになっています。
またビジネス面では、銀行口座チャージはクレジットカード決済等と比べるとまだまだ馴染みの薄い手法ですので、金融機関とのやり取り等の必要なプロセスを包括的にサポートします。
銀行口座決済サービスを導入する場合、決済画面の挙動や表記等はガイドラインに沿ったものでなければいけないのですが、我々は決済画面ごと提供しているため、そういったハードルもクリアしています。
――銀行口座チャージがメインの決済方法とのことですが、クレジットカードなど他の決済方法と比較してどのようなメリットがあるのでしょうか。
白川ユーザー目線では、クレジットカードを何らかの理由で持つことができない、あるいは持っていてもオンライン上で使用したくない、という方もいらっしゃると思います。そういった方々にとっては、銀行口座から直接チャージできるというのは魅力的なオプションです。
事業者目線では、やはり決済手数料の軽減が大きなメリットです。CharGが銀行口座チャージのために接続するBank Payは既存システムの活用などによりベースのシステムコストが安く、クレジットカードと比較しても低い手数料でご利用いただけます。
――現在、日本国内ではアプリストア外での決済方法を利用する際にはさまざまな制約があり、一般的な方法とはいえません。外部決済の事例はまだ少ないのでしょうか。
白川国内のある大手ゲーム企業でも、Webサイト上の独自ストアでゲーム内通貨・アイテムを制約のない決済手段にて販売し、ゲームアカウントに反映する、という取り組みを実施されているケースもあります。
ゲーム内通貨やアイテムにインセンティブをつけることでユーザーにより手数料の低い決済手段に誘導し、コスト削減を実現することは可能ではと考えます。法律やガイドラインの改訂などをウォッチしながら、ぜひ外部決済サービスの利用を検討してほしいですね。
――ありがとうございました。

プレスリリース:電子マネー「ビットキャッシュ」が 金融機関の口座から直接チャージを実現
参考:Rui Ma, 「2024年世界のモバイルゲーム市場予測」, Sensor Tower, https://sensortower.com/ja/blog/state-of-mobile-game-market-outlook-2024-report-JP , アクセス日:2024年9月20日