『Project BEAT(仮題)』はモバイルの格ゲーの決定作となるか?
ーー『Project BEAT(仮題)』はブースでトレーラーのみが展示されており、まだ立ち上がったばかりと思われますが、どんな内容を考えられていますか。
#BitSummitXRoads で流していたProject BEATのトレーラームービーです pic.twitter.com/ycTfMN1jns
— Project BEAT(タイトル未定) /スマートフォン向け対戦型格闘ゲーム (@_projectbeat) August 9, 2022
甲斐:本作は「スマートフォンでの格ゲーの決定版」というポジションを狙っています。なぜそこかというと、「スマホによる格ゲーでこれだ!」というタイトルがマーケットにまだないことが大きいです。そうした市場に一本「これだ」というタイトルを提供したいと思っています。
やっぱり格ゲーは、対戦はもちろんですが、コンボやいいタイミングで必殺技を出せるというところに魅力があると思います。本作ではボタンを連打しているだけでもコンボや必殺技を出せるようにするなど、操作自体はカジュアルに寄せていく予定ですが、実際の格ゲーの対戦の駆け引きの面白さは失わないように鋭意開発中です。
ゲームとしてはクエストをクリアしていくようなものではなく、ひたすら対戦を繰り返してプレイヤーが腕を磨いていくような内容にする予定です。
ーーちょうど『ストリートファイター6』でも同じように操作をかなり簡易化した「モダンタイプ」というモードが搭載されるという話題が盛り上がっていました。
甲斐:僕も気になって情報を追っていましたが、志向としては同じなのかなと思いました。というのも正直自分は格ゲーが上手くなくて苦手意識が強かったんです。自分を含めてやはり界隈で指摘されるように「操作難度の高さ」そして、「初心者をどう取り込むか」ということが大きなネックになっているジャンルだと思っています。
一方で、ディレクターはプレイも上手で、長年様々な格ゲータイトルをやり込んでいるのですが、彼自身もそうしたジャンルの課題は認識しているので、やってみたいけど手が出しづらいという苦手意識をもったユーザーを代表できるようなプロデューサーと、コアユーザーの声を代弁できるディレクターがタッグを組んで、モバイル対戦格闘ゲームの決定版を作ろうという流れになりました。
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ーースマホは端末の大画面化が進み、昔より遥かに画面も大きくなりましたが、ゲーム自体がリッチになって操作も複雑になった結果、せっかくのゲームプレイが見にくいといった問題も生じていると思います。UIもかなり作り込まないとユーザーには受け入れられなさそうです。
甲斐:UIやUXの部分は現在仕様を詰めている段階ですが、ビジュアルでも楽しんでもらいたいので、操作性や気持ちよさを損なわないようなデザイン・UIにしていきたいと思います。端的にはボタンをずらっと並べるような画面にはしないということです。
ーーちなみに『Tokyo Stories』とは異なり、モバイル向けから展開を始めることがアナウンスされています。課金形態はどうなるのでしょうか?基本無料の対戦ゲームではPay To Win(P2W)にならないように調整するのが難しいと思いますが。
甲斐:基本無料のアイテム課金型にする予定ですが、単純にコスメティック要素に限定するのか、あるいは多少性能の差が出るようなアイテムまで含むのかは検討段階です。もちろん、課金しているから勝てるといったシステムにはしないように意識しています。
――格ゲーとなるとeスポーツでの展開も検討しているのでしょうか?
甲斐:もちろんタイトルが盛り上がればぜひ大会なども開催したいです。お話しているとおり、課金要素がどうなるかにもよりますが、大会などを実施する際には、フラットな環境で競い合うような仕組みにできればと思っています。
ーー先ほど池田さんのお話ではプラットフォームにこだわらないということにも触れられていました。本作がモバイル発でコンソールやPCに展開するといった予定はありますか。
甲斐:もちろん“モバイル格ゲーの決定版”を意識しているので、スマートフォンでの展開を中心に考えていますが、コンソールやPC版での展開も全く考えていないわけではありません。
新規IPを自ら生み出そうとする試みーー業界の変化、楽しさと苦しみ
ーー現在モバイルゲームで成功した多くの企業が、コンソールやPC版の展開に注力していたり、VRや新たなエンターテインメントを生み出そうしていたり、新しい動きが活発になってきているように感じます。今回のドリコムさんの動きもそうした企業と通じるところがあるのでしょうか。
甲斐:やっぱりこういう新しいチャレンジをやり始めている会社さんはちょこちょこ出てきています。分かりやすく言えば、これまでのモバイルゲームの枠組みに捉われない試みともいえるでしょうか。
やっぱり、モバイルゲームでヒットタイトルを作る難度がとても高くなってきて博打に近い状況になってきていることも影響していると思います。そうなってくるとジリ貧になってくるので、体力があるうちに新規IPを生み出す芽を作っていこうという考え方が通底しているのかもしれません。
ーー社内でそろそろ新しいものを作らなくてはならない状況を感じているのもありますか。
池田:他社さんのIPを使わせてもらうものばかりだとしんどいんじゃないか、みたいなのはありますよね。
甲斐:楽しいは楽しいですけどね。
池田:そうだけど、やっぱり真の意味で自分たちのIPを作れていないとも感じており、オリジナルを作っていきたいという思いはあります。しかし、いきなりオリジナルに大きく張るというのはかなりリスクもあるので、小さくてもまずは一歩目を踏み出したいなと。
甲斐:一方で人気IPを手掛けるが故に、その強さをすごく感じますよね。「あのキャラがこうしてくれるだけで、別の面を見られて嬉しい!」」というのは、もちろんユーザー側にもあるでしょうし、作っている側も同じです。
オリジナルの場合、認知されてなければ何か出しても反応がもらえないということもありますし、ちゃんと育っているIPはさすがだなと……。
ーーそれでも今回、イベントに新規IPを出展することに強い意思を感じます。
池田:このタイミングでBitSummitに出したのも、リリースまでにどんどんファンを作っていくし、ファンになってくれた方の意見をどう入れていくか、考えをどう伝えているかということが、IPがない状態からだと重要なのかなと。
Instagramも始めましたし、社内の他のプロジェクトもそういうことを始めています。ファンに愛されるものを作っていくっていうプロセスもIPを育てるうえで重要だと思っており、その辺の活動は重視しています。『Tokyo Storys』の場合、「こういう風にUnityで作ってます!」という開発中の動画を出してますので、ぜひご覧ください!
今回のお話からは、大幅にドリコムの方針が変わったなかで、 “かつて作家性の強い作品を作っていたクリエイターがふたたび戻ってくるかたちとなった”ことが非常に印象深いです。『rain』を手掛けていた池田氏が、今回の『Tokyo Stories』を手掛けることにより、ふたたびその作家性を発揮するかたちにつながったと見えます。
さらにGame*Sparkではドリコムの「ゲームカンパニー」の試みを統括する奥村善生氏にもお話をうかがっています。そこには、モバイルゲーム業界からインディーゲーム業界などを踏み越えた事業変化のお話がありました。Game*Sparkともちょっぴり関係のある『ウィザードリィ』の話も聞いていますのでお楽しみに。