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イードとGRITzが共同で運営するWebメディア「e-Sports Business.jp」は、2023年9月13日にオンラインイベント「eスポーツは"スポーツ"になるのか?オリンピックeスポーツ&グローバルサミット 現地参加者報告会」を実施。今年6月に国際オリンピック委員会がシンガポールで開催した「オリンピックeスポーツウィーク」、および7月に中国・深センにて開催されたeスポーツカンファレンス「2023 Global Esports Summit and Tencent Esports Annual Conference」の現地報告をもとに、eスポーツの行く末について議論を交わしました。
登壇者は、ゲーム・eスポーツ関連事業を手掛けるLunaToneの創業者・CEOのヒョン・バロ氏、G−STAR.PRO所属で数々のゲーム大会でMCを務める野々宮ミカ氏、eスポーツジャーナリスト 岡安学氏の3名。またモデレーターとして、「e-Sports Business.jp」企画責任者の森元行が参加しました。
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「オリンピックeスポーツシリーズ」の現地の様子は?
各国でeスポーツ大会が実施される中、ついに国際オリンピック委員会(以下、IOC)が主催となって開催されることになったeスポーツのオリンピック「オリンピックeスポーツシリーズ」。もともとは2018年からIOCが取り込んでいるeスポーツ施策で、2021年に実施されたIOC公認eスポーツ大会「オリンピック・バーチャルシリーズ」からステップアップしたものです。
予選は2023年3月からスタートし、決勝戦は、シンガポールのサンテックセンターにて2023年6月22日から25日まで実施されました。その結果、以下の10競技で金・銀・銅の受賞者が決まりました。
アーチェリー(『Tic Tac Bow』)
野球(『WBSC eBASEBALL:パワフルプロ野球』)
チェス(Chess.com)
自転車(『Zwift』)
ダンス (『ジャストダンス』)
モータースポーツ (『グランツーリスモ』)
セーリング (『バーチャルレガッタ』)
射撃 (ISSFチャレンジ・フィーチャリング・フォートナイト』)
テニス(『テニスクラッシュ』)
テコンドー(『バーチャルテコンドー』)
「オリンピックeスポーツシリーズ」決勝戦は、同期間に実施された「オリンピックeスポーツウィーク」のプログラムのひとつであり、最新技術の展示やゲーム体験、バネルディスカッションなどとともにイベントを盛り上げました。
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なお、どちらのイベントもIOCが主催となっており、「オリンピックeスポーツウィーク」はシンガポールオリンピック委員会(SNOC)、シンガポールの文化コミュニティ青年省、シンガポール・スポーツ評議会(Sport Singapore)の協力で、「オリンピックeスポーツシリーズ」は国際競技連盟やゲームパブリッシャーと連携する形で開催されました。
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「オリンピックeスポーツシリーズ」の感触と展望
2021年の「オリンピック・バーチャルシリーズ」を取材した岡安氏によると、2021年当時のイベントはまだ実験的な意味合いが強く、例えば野球競技は東京・銀座にあるコナミのeスポーツスタジオ「esports 銀座 studio」で行われる小規模なものでした。それに対して2023年の「オリンピックeスポーツシリーズ」は見違えるほど大規模になったそうです。
もっとも2021年当時はコロナ禍だったこともあり、一般参加者が入ることもカンファレンスが実施されることもなく、小規模にならざるをえない事情もありました。
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さて、eスポーツが「スポーツ」として今後発展していくにあたり、登壇者の3名は現在の動向をどのように評価しているのでしょうか。
岡安氏によれば、「eスポーツ」という言葉はキャッチーでわかりやすく、世の中に受け入れられるのに役立ったのは間違いありません。しかし、「スポーツ」と比較して考えたときには、「eスポーツ」という言葉の在り方を考え直す必要があるといいます。
たとえば野球ファンが野球観戦をする場合、「スポーツを観に行く」とは言わず、「野球を観に行く」と言うでしょう。また、それはプロ野球なのか、高校野球なのか、どのチームの試合を見に行くのか、と細分化されていきます。
eスポーツでも同様で、ファンは「eスポーツ」という大きなカテゴリではなく、たとえば「『VALORANT』の試合を観に行く」「ZETA DIVISIONの試合を観に行く」のように、特定の競技やチーム、選手等を応援しているわけです。
ファンが本当に見たいものは何なのか。「eスポーツ」という大きなカテゴリで語られることが少なくなっていくことが、eスポーツが今後発展していくうえで必要なステップなのでしょう。
ヒョン氏は、競技で使用されたゲームのラインナップについて、観戦前後で考えが変わったところがあるようです。「オリンピックeスポーツシリーズ」で採用された競技種目は、FPSやMOBAといったジャンルではなく、すべてがリアルスポーツをバーチャルに再現したゲームです。競技内容が発表された当初、ヒョン氏は他の多くのゲームファンと同様、「有名タイトルが少なすぎる。これで成立するだろうか」と心配したそうです。
しかし、「スポーツ」という地の利、つまりゲームのローカルなシステムを知らなくても、スポーツそのもののルールさえ知っていれば誰でも観戦できるという敷居の低さに気づき、「これがIOCの目指すeスポーツなのか」と納得したとのこと。
ゲームのラインナップについては、野々宮氏も当初は同じような不安を抱いたそうです。しかしFPSでは眉をひそめるであろう保護者も、スポーツであれば親子で見られますし、国の代表であればゲームタイトルにとらわれずチームを応援できます。それは従来のeスポーツとは違った、スポーツの祭典ならではのアプローチではないかと、今大会の中で気づいたと語りました。
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その一方で岡安氏は、ヒョン氏や野々宮氏の意見を肯定しつつ、今後コンテンツとして勝負していく際、本当にeスポーツの定番タイトル・有名タイトルでなくてよいのか、と疑問を投げかけます。やはり知名度のあるタイトルの方が注目度も納得感も増しますし、コンテンツとしての魅力も増すからです。
また『フォートナイト』を採用した射撃競技では、同タイトルのゲームモードとしてポピュラーなバトルロイヤル形式ではなく、専用に制作されたステージで射撃精度を競うというものでした。しかし、これはゲームの一要素を利用しただけで、メインストリームの遊び方かと言えば首をひねります。オリンピック競技のためにその一要素をつきつめるのか、それともFPSスキルを高める中で余力として出場するのか、選手側の取り組み方にも影響します。
そこはヒョン氏も同意する部分として、「観るコンテンツ」として面白くできるかどうかも今後の課題だと語りました。
またサイクリング競技に使用した『Zwift』のように、フィジカルに依存したタイトルでは実際に身体を鍛えた人が有利になります。ゲームの良さのひとつは、老若男女・障害の有無関係なくボタンひとつで同じステージに立てること。そういった点にも課題があるのではないかと岡安氏は指摘していました。
「2023 Global Esports Summit」参加報告&今後のeスポーツについて
7月14日から15日まで中国の深センで開催されたeスポーツカンファレンス「2023 Global Esports Summit and Tencent Esports Annual Conference」は、毎年テンセントが実施しているイベントです。
おもにアジア地域のeスポーツ業界の重鎮が集い、自国の取り組みや展望を意見交換する場で、ヒョン氏もその場に招待されました。
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ヒョン氏の個人的な見解として、今回のカンファレンスでは深センを中心にeスポーツを盛り上げたい意図を感じると同時に、今後盛り上がるであろう「オリンピックeスポーツシリーズ」などの大型大会でテンセントのゲームが採用されるための下地作り=ロビー活動も含んでいたのではないかと分析。
岡安氏もそれに同調する形で、すでに過去の国際大会ではテンセント系のタイトルで固まっていることがあったと振り返ります。つまり、そこから「オリンピックeスポーツシリーズ」に影響力を拡大する可能性は十分にあり、今後のテンセントの動きに注目する価値があると補足してくれました。
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本イベント最後のテーマは「eスポーツの展望」です。
岡安氏はこのテーマについて、イベント運営会社が関わることでもっとeスポーツを盛り上げてほしいと語ります。
欧米ではスポンサーが離れることでチームが解体されるような事態が発生していますが、日本は観戦の文化を育てているおかげでスポンサーが増えています。欧米では観戦者のほとんどがゲームプレイヤーであるのに対し、日本では「ゲームを観る文化」のおかげで非プレイヤーも取り込める構造になっているからだといいます。その地の利を生かし、イベント運営のプロが入ることで盛り上げてほしい、と述べました。
ヒョン氏もそれに同調する形で「日本らしい運営」を語ります。
日本では地方自治体などが中心になって行うイベントが多く存在します。それを活用し、シニア向けだったり教育目的だったりと、非営利な形で運営すればもっと間口が広がるのではないかと話してくれました。
野々宮氏は色々な観点があるとした上で、やはりどのような形でも盛り上がることが大切だと語ります。楽しみ、共有し、盛り上がることで次につながる。登壇者それぞれの視点はありつつも、これからもeスポーツの大会がよい形で進化していってほしいという想いは同じでした。
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「スポーツ」として、あるいは「ゲーム」として、eスポーツにはまだまだ発展の余地があると同時に、次のステップへ進むための課題も顕在化してきたことがわかるイベントでした。