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サイバーエージェントが、『刀剣乱舞』などを手がけるニトロプラスを2024年7月1日に子会社化しました。
ニトロプラスの組織や現体制は維持。代表取締役で「でじたろう」の名でも親しまれているプロデューサー・小坂孝志氏や、副社長で著名な脚本家でもある虚淵玄氏が継続的に経営のかじ取りを行います。今回の買収の目的の一つが、優れた人材を獲得するアクハイヤーであることは間違いないでしょう。
買収はニトロプラス側から持ち掛けたことが明らかになっていますが、収益構造の転換期を迎えていたサイバーエージェントにとっては願ってもないビジネスチャンスに映ったに違いありません。
サイバーエージェントの直近の業績と事業の方向性を概観しつつ、ニトロプラスを取得する意味を考察します。
ニトロプラスの目的は事業承継か
まずは買収の経緯から見ていきます。
サイバーエージェントは2023年6月に2.5次元の舞台などを手掛けるネルケプランニングを子会社化していました。2020年、ABEMAにおいて俳優育成オーディションバトル番組「主役の椅子はオレの椅子」を共同で制作するなど、2社は親交を深めていました。
サイバーエージェントはCygamesやサムザップ、マクアケなど、M&Aに頼らずに自ら子会社を立ち上げて事業の多角化を進めてきました。しかし、2022年に映像制作会社BABEL LABELを取得してからというもの、積極的にM&Aを推進するようになります。
その要因は3つあると考えられます。1つ目は2021年に『ウマ娘 プリティーダービー』が大ヒットし、事業投資を行う潤沢な資金を得たこと。2つ目は『ウマ娘』の大ヒットからの反動が大きく、基幹事業以外のゲーム事業とメディア事業を強化しなければならなかったこと。3つ目はIPの創出やコンテンツ制作ノウハウが手薄で、自前での事業立ち上げでは時間がかかることです。
特に3つ目はサイバーエージェントの弱点の1つ。この会社の主力事業はインターネット広告で、営業力が極めて強い会社。ABEMAにおいても、Netflixのようにオリジナル映画・ドラマの大作を生み出すことより、「FIFA ワールドカップ カタール 2022」や「UEFA EURO 2024」のようなスポーツの配信権獲得に多額に資金を投じ、視聴者を引き付けています。効率主義的な文化が会社に浸透しているのでしょう。ビジネス展開を見ても、自前でのコンテンツ作りが決して得意ではない様子が浮かび上がります。
その点、M&Aで迅速にノウハウの取得するというのは、合理的でサイバーエージェントらしいと言えるでしょう。
2023年に取得したネルケプランニングの社外取締役が小坂孝志氏でした。サイバーエージェント傘下となった際も、ネルケプランニングの方針や文化が尊重されることを間近で感じ、藤田晋社長と話す機会を得たいと思った、とインタビューで答えています(「コンテンツ愛が受け継がれる未来へ。ニトロプラスとサイバーエージェントの新たな挑戦」)。
ニトロプラスの業績は好調そのもの。2023年8月期(2022年9月1日~2023年8月31日)の売上高は前期比2.8%増の40億300万円、営業利益は同9.3%増の12億9,000万円でした。営業利益率は1.9ポイント上昇して32.2%にも及んでいます。
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※「株式会社ニトロプラスの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」より
資金繰りに窮している、経営状態が悪化している、事業展開に行き詰まりを見せているなど、ネガティブな材料が見当たりません。ただし、小坂孝志氏は現役バリバリとはいっても60歳を目前に控えています。ニトロプラス側にとってのM&Aの目的の一つに、後継者問題を解決する事業承継があるのではないでしょうか。
そういう面では、スタジオジブリが日本テレビのグループ入りしたこととやや近い印象を受けます。