「ゲームで勝ちたい」が「英語を話せる」に変わる ― ゲシピの「eスポーツ英会話」が開拓するメタバース教育の新領域【CEOインタビュー】 | GameBusiness.jp

「ゲームで勝ちたい」が「英語を話せる」に変わる ― ゲシピの「eスポーツ英会話」が開拓するメタバース教育の新領域【CEOインタビュー】

スタートアップ立ち上げの経緯や苦労、「eスポーツ×教育」分野にかける思いを伺いました。

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「ゲームで勝ちたい」が「英語を話せる」に変わる ― ゲシピの「eスポーツ英会話」が開拓するメタバース教育の新領域【CEOインタビュー】
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『フォートナイト』や『マインクラフト』といったゲームを通じて学ぶオンライン英語コミュニケーションレッスン「eスポーツ英会話」を提供するゲシピ。2020年のサービス開始以来、急速に会員数を増やし、受講実績20万回を超えるサービスへと成長してきました。

2024年11月には新たにシリースB 1stラウンドの資金調達を実施し、累計調達額は5億円を突破したことを発表しました。


今回、そんなゲシピの代表取締役CEOを務める真鍋拓也氏にインタビューを実施。スタートアップ立ち上げの経緯や苦労、「eスポーツ×教育」分野にかける思いを伺いました。

ゲシピ 代表取締役CEO 真鍋拓也氏

コロナ禍から生まれた、ゲームと英語教育の新しい形

――まずは自己紹介をお願いします。

真鍋ゲシピの代表取締役CEO 真鍋拓也と申します。

当社は2018年に創業してまして、実は最初は少し違う事業をやっていました。「eスポーツ×教育」という軸は同じだったのですが、当時は動画でeスポーツのテクニックや戦術が学べるアプリで創業しました。アプリは10万ダウンロードぐらいまでいったんですが、事業としてはあまりうまくいかなくて。

その後、東京メトロさんと資本業務提携させていただいて、アプリではなくリアルに学ぶ場を作っていこうと、「eスポーツジム」を実証実験的にやらせていただいていました。そちらも残念ながら2年前にクローズをしまして、今はゲームの世界で英語を学ぶサービス「eスポーツ英会話」を提供しております。

私自身は元々、大学卒業後に金融機関の営業マンとして約6年ほど営業職を経験した後、2007年にYahoo! JAPANに転職し、そこで10年ほどビジネスを叩き込まれました。後半の5年間は新規事業をリードし、2018年に創業したという経歴です。

――当時からeスポーツに注目されていたのですね。

真鍋ちょうど私たちが事業プランを考え始めたのは2015~16年くらいで、まだ「eスポーツ」という言葉が生まれるかどうか、というタイミングだったと思います。

その頃から、eスポーツに関してもオンラインでのゲーム配信やサービス提供がどんどん当たり前になってくるだろうなと感じていました。そこに「学び」という要素が加えられるんじゃないかなと考えていたんです。

――ご自身はゲームやeスポーツに親しみがあったのでしょうか。

真鍋実は社会人になってからはあまりゲームに関わっていないのですが、昔はゲームセンターが大好きでした。中学生の時に『ストリートファイターII』がリリースされ、知らない人同士が対戦をするというヒリヒリした感じがすごく好きで、毎日ゲームセンターに通っていました。あれが私にとってのeスポーツの原点だと思っています。

当時中学生だった私が、大学生や社会人など様々な人と交流して、まさに世代を超えたコミュニティがありました。すごくいろんな方に可愛がってもらって、私にとっては社会勉強をさせてもらったようなイメージが強くて。

ゲームの周辺には学びが得られる環境というのがあるということを体験していましたので、起業する際に、何か事業のエッセンスとして入れられないかなと考えました。ゲームセンターでの原体験と10数年後の想いが融合した感じですね。

――eスポーツやメタバースと英語教育を組み合わせた現在の事業の出発点について、どのように事業の構想を組み立てていったのかお聞かせください。

真鍋先ほども少し触れたように、最初はテクニックや戦術を動画で学ぶアプリ、次は塾のような形のスクールの事業にチャレンジしました。近年はeスポーツのオリンピックが開催されるなど、国際的に盛り上がりを見せていますが、実際にプロゲーマーを目指したりゲームで強くなったりということだけでは、当時はなかなか事業としては難しかったのです。

eスポーツを通じた教育の魅力があるはずだ、という思いは持ち続けていて、何か少し違う市場と掛け合わせることで事業になるのではないかと思ってはいたのですが、なかなか思いつかない……という状況でした。

英語教育を組み合わせようと思ったのは本当に偶然で、コロナ禍での一斉休校がきっかけです。当時小学4年生だった息子が、1日6~7時間『フォートナイト』をプレイしている状況がありました。ゲーム自体は否定的に考えていませんでしたが、それだけで時間を費やすことには違和感がありました。そんな中、『フォートナイト』のボイスチャット機能で友達と会話している様子を見て、この会話を英語に変えられれば、家にいなければいけない時間も価値のあるものになるのではないか、と思いついたんです。

まずは息子のために、知り合いのつてで英語が得意かつゲームの上手な先生を探して試験的にレッスンを始めました。息子が私の方に振り返って「この英語のレッスン、めちゃくちゃ面白いね!」と言ったのは今でもはっきりと覚えています。塾や習い事で「面白い」と言うことはほとんどないのに、「早く次のレッスンを受けたい」と。これは他の困っている親御さんにも届けられるのではと思い、事業化を決意しました。

――事業化以来、順調に会員数を増やしながら成長しています。事業化のタイミングから現在に至るまで、「ここだけは絶対譲れない」と変えずにやってきたことがあれば教えてください。

真鍋変えずに貫いていることは、コーチ(先生)の質にはとにかくこだわるということです。我が子をどんな先生に預けたいか考えた時に、やはり信頼ができて、英語を教える能力が高くて、精神的にも活発で、子供をどんどんリードしてくれるような、お兄さん/お姉さんのような人に預けたいなと思ったんです。

ありがたいことに多くの方にコーチを希望していただいていますが、コーチの採用はかなり厳しく行っていて、採用率は5%ほどです。それが満足度の高さにも繋がっていて、生徒や親御さんからのコーチに対して厚い信頼が得られています。

――現在、コーチは何人ほど在籍しているのでしょうか。

真鍋現在20~30人のコーチが在籍しており、全員が英語力はネイティブクラスのバイリンガルコーチです。

――反対に、方向転換したことはありますか。

真鍋もちろん多くのことを変えながら事業を成長させてきましたが、特に大きく変わったのは、カリキュラムの中で教える英単語やフレーズの使用想定シーンですね。

当初はゲーム内でコミュニケーションをしっかり取れることを重要視していたため、ゲームに沿った英単語が多かったです。しかし、根本にあるのは「ゲーム以外のシーンで英会話ができるようになってほしい」というニーズですので、ゲーム内に限らず日常会話を想定した要素を増やしてきました。

――生徒の視点ではゲームと関わりの薄い会話をしていても楽しくなくなってしまう可能性があるのではないでしょうか。どのようにバランスを取っていますか。

真鍋そうですよね。そこが我々の強みのひとつ「質の高いコーチ」に繋がります。つまり、コーチの話が面白いんです。彼らは会話上手で、学校で起きたたわいもない出来事の話も盛り上げてくれるので、ゲームはもちろん、コーチとの会話も楽しめるようなレッスンを提供できています。

――事業の着想を得るきっかけとなった、ご自身のお子さんが友達と喋っているシーンの延長線上にあるんですね。

真鍋おっしゃる通りです。そのためにグループレッスン形式を採用しているのも我々の特徴ですね。コーチと生徒の会話だけでなく、生徒同士の会話も重要視しています。コーチは多少拙い英語でも聞き取ろうとしてくれますが、生徒同士ではより実践的なコミュニケーションになります。それが実際の英会話に近い環境を作り出しています。

英語が「教科」から「コミュニケーションツール」になる

――具体的な学習効果はどのように測られているのでしょうか。

真鍋独自のレベル分けを行っており、初級、中級、上級のコースがあります。各コースは平均2年程度で進んでいき、上級まで行くと英検2級程度の英語コミュニケーション力を身につけることができます。実際、私の息子は本サービスと学校の英語教育だけで中学3年にして英検2級に合格しました。

――英語嫌いの生徒が苦手意識を克服したという成果も示されていましたが、具体的にはどのような変化があったのでしょうか。

真鍋入会時に「英語は嫌いだけど、ゲームで学べるならやってもいい」という気持ちで始める生徒が約30%いたのですが、実は入会後にはそのほとんどが英語嫌いを克服し、英語嫌いは2%程度まで減少しています。

ゲシピの発表より

具体的な変化として興味深いのは、生徒たちが自発的にメモを取り始めることです。私たちから指示しているわけではないのですが、例えば「stick together(一緒に行動しよう)」といった、ゲーム中に必要な表現を自主的にメモして覚えようとします。

これは、彼らが「英語を学ぶ」ことを目的としていないことが大きいと考えています。普通の英会話スクールとは異なり、私たちのサービスでは「ゲームで勝ちたい」「アイテムを集めたい」という目的が先にあり、それを達成するための手段として英語を使うんです。英語を使った方が勝てる、友達とアイテム交換ができる、そういった実利的な理由で自然と英語を使うようになります。

――実際の生活でも英語を使うようになったという声はありますか。

真鍋例えば、ショッピングモールのエスカレーターで流れる英語アナウンスを自然とシャドーイングできるようになったという報告を受けたことがあります。ゲーム中でよく使う「Watch out(気をつけて)」といった表現が実生活でも使われているのを聞いて、その意味をすぐに理解できるようになっているんです。

これはメタバース空間ならではの効果だと考えています。テキストで「I want ~ = ~が欲しい」と覚えるのとは違い、実際にアイテムが欲しい場面で「I want」を使うことで、言葉に感情が伴います。「Watch out」も、ゲーム内で敵から身を守るために使った表現が、エスカレーターでの注意喚起にもつながる。こうした実感を伴った学びができることが、メタバース空間を活用する大きな価値の一つですね。

結果として、生徒たちの中で「英語は教科」という認識から「英語はコミュニケーションツール」という認識に自然と変化していきます。好き嫌いの問題ではなく、便利な道具として英語を捉えられるようになるのです。

日本発、メタバース教育を世界へ

――eスポーツと教育を掛け合わせた市場について、どのようにお考えでしょうか。

真鍋最近は「eスポーツ市場」という見方はあまりしていません。むしろ、ニンテンドースイッチが1億5000万台、PlayStationが1億8000万台という、世界中に広がるゲームハードの存在に注目しています。

(編注:ニンテンドースイッチの世界累計販売台数は2024年9月末時点で1億4,604万台、PlayStation 4は2022年6月末時点で11,700万台以上、PlayStation 5は2024年9月末時点で6,500万台以上と公表されている)

これだけの数のゲーム機が普及している巨大な市場が既に存在しているわけです。世界人口80億人の中で、何十人に1人は必ず持っているデバイスを介して、いかに教育というものを提供していくか。そういう視点で市場を捉えています。

任天堂さんもソニーさんも、もともとはエンターテインメントデバイスとして展開されていますが、それが教育デバイスになっていく可能性。そこに私たちは大きな魅力を感じています。

――あえてコンソール(据え置き型ゲーム機)をメインにしている理由は何でしょうか。

真鍋これは感覚的な部分もありますが、子供にとって「大切なもの」は何かと考えた時に、「ニンテンドースイッチ」と答える子は多いのではないでしょうか。「1つだけ持って逃げるとしたら何を持っていく?」と聞かれたら、それを選ぶような存在です。子どもたちにとって最も大切な「宝物」であり、だからこそ教育との親和性も高いんです。

その愛着があるからこそ、「大好きなゲーム機でできる学びもきっと楽しいはずだ」という前提が自然に生まれる。学びに対する心理的なハードルを下げることができるんです。

――「eスポーツ×教育」の今後の可能性について、例えば不登校支援などの展開も考えられますか?

真鍋不登校支援は非常に課題を感じている分野です。不登校の生徒さんにとって、新しい場所に行くことやパソコンで何かのオンラインサービスを始めることには大きな心理的なハードルがあります。でも、「ニンテンドースイッチでいいよ」と言われたら?そこには不思議と安心感があるんです。

さらに言えば、私たちのサービスに限らず、ゲームを使った教育全般に共通するのは、コミュニケーション教育という側面です。我々は根本的にはコミュニケーションスキルの成長を目指しています。「そんな言い方をしたら相手がどう感じるか」といった人としての部分も含めて、ゲームという場を通じて自然と学べる環境を提供できているのだと思います。

ゲシピ「eスポーツ英会話」HPより

――日本語学習など、英語以外の言語教育への展開についてはお考えですか?

真鍋日本語はもちろん、フランス語やスペイン語など、あらゆる言語に展開していきたいと考えています。ゲームを通じた言語学習の本質は、「勝ちたい」「楽しみたい」という目的のためのツールとして言語を使うことです。この動機付けの仕組みは、どの言語でも共通です。メタバース空間を使った実感を伴う学びという特徴も、世界共通の価値になると考えています。

――先日、累計調達額5億円超の資金調達を発表されましたが、どのような点が評価されたのでしょうか。

真鍋大きく2つあります。1つは、これまでの事業構築の実績です。例えば、人気ゲームの『Apex Legends』や『VALORANT』を導入してほしいという要望は多いのですが、スピード感が速すぎて英会話の練習に適さないため、あえて採用していません。需要があっても教育効果を優先する、というポリシーを貫いてきました。このような教育の質へのこだわりによって高い事業成長が実現されてきたことを、高く評価されています。

もう1つは、今後の事業の広がりの可能性です。言語教育に関しても、英語だけでなく日本語やフランス語など、様々な展開の可能性があります。さらに、言語以外のコミュニケーション能力の育成にも可能性を感じています。ロジカルな対話からエモーショナルな会話まで、場面に応じたコミュニケーションの取り方を学べるプログラムも開発中です。

――調達資金の使途について、AIの開発にも注力されるとのことですが。

真鍋はい。ただし、我々の事業において最も重要なのは人の力です。コーチが生徒を励まし、楽しませる。この人的要素は、単純なAIでは代替できないと考えています。

一般的なAIを活用したオンライン英会話は「会話ができればよい」というゴールかもしれません。しかし、我々のサービスはコーチとの関係性も含めた体験を提供しています。そのため、AIはあくまでコーチをサポートする存在として位置づけています。例えば、生徒の状況に応じて「今、このコーチは何をすべきか」といった判断をAIがサポートする。そういった開発を進めています。

継続とタイミングが生む、新規事業成功の秘訣

――eスポーツ市場に参入を検討している企業へのアドバイスをいただけますか。

真鍋私たちのこれまでの経験から言うと、事業の成功は「運」に大きく左右されます。ただし、その「運」は「継続 × タイミング」に分解できると考えています。

私たちも最初は上手くいかないことが多かったのですが、諦めずに継続していたからこそ、コロナ禍という大きな環境変化の中で、言語教育との組み合わせというアイデアに行き着き、誰よりも早く実行に移すことができました。

例えば、以前取り組んでいたeスポーツジムの事業。当時は上手くいきませんでしたが、今後オリンピックでeスポーツが正式種目になれば、状況は大きく変わるかもしれません。こうした社会の大きな変化をつかむためにも、継続できる体制を整えることが重要です。

また、机上の計画だけではなく、実際にユーザーと向き合いながら事業を調整していく姿勢も大切です。『起業の科学』(著:田所雅之)にも書かれていますが、まずはユーザーに会って、実際の声を聞くことから始める。そこから徐々にニーズの理解が深まり、事業の方向性も見えてきます。

eスポーツ市場は、まだ成功事例が少なく、市場規模だけが先行して語られがちです。可能性は無限にありますが、だからこそ、「大きな市場だから今これを作ろう」という逆算的な発想だけではなく、実際のニーズにフィットする事業を見つけていくことが重要だと考えています。

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

真鍋私たちは今、事業領域を「メタバース教育事業」と定義しています。これは日本が世界に輸出できる可能性を秘めた分野だと考えています。日本は教育分野での実績があり、アニメやバーチャルな世界での表現力も高い。この強みを活かし、世界中の人々が手軽に実感性の高い学びを体験できる環境を作っていきたいと考えています。コロナ禍や戦争など、どんな状況でも学びを止めない。そんな世界の実現を目指しています。

なお、現在も資金調達を継続中で、特に事業提携を含めた協業の可能性を探っています。英語教育や日本語教育、世界展開、新規レッスンの開発など、様々な形での連携を検討させていただければと思います。ご興味をお持ちの方は、ぜひご連絡いただければと思います。

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