通信・ハードウェア・ゲーム業界それぞれから視た5Gの未来と実情
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続いて行われたパネルディスカッション最初のテーマは「「10Gbps」はゲームをどう変える?」です。初めにNetEaseのEthan Wang氏は「5Gの超高速低遅延が実現すれば、今までモバイル端末で実現できなかったゲームを実用化することができ、クラウドゲームによる美麗なグラフィックを低遅延で楽しめる」とその技術の魅力について語りました。また低遅延性を生かしXR領域での今までになかったゲームが誕生するのではとも指摘しています。
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スクウェア・エニックスの佐藤氏は、同社からリリースされているタイトルのファイルサイズが巨大なため、ラウンドタイムが長くなってしまうとユーザーが離脱してしまう可能性があるために、単純に5Gでファイルを高速でダウンロードして遊べることが嬉しいと述べました。
5G初期の性能イメージについてNTTドコモの中村氏は、数Gbpsは「ピーク時の性能」ということを前置きし通常使う時には数百mbpsほどの速度が出るのではないかと予想します。また、5G初期の端末は電池持ちが悪くなるかもとしながらも、今後高性能化し未来にはゲーム特化など多様な機能に特化した端末が登場するのではと過去の歴史を踏まえて将来を予想しました。一方でデバイスを開発するシャープの小林氏としては、早期にハイエンド端末は5G対応になっていくのではと考えているようです。
コンテンツプロバイダであるガンホーの森下氏は、現時点のモバイルゲーム開発において様々な制限から非同期型のゲームしか作れないものの、5Gの対応エリアが十分に普及しなければいけないことを踏まえると、当分の間は4Gベースでゲームを企画し開発しないといけないと話します。ただ、5Gが一般的なインフラになれば、完全同期のゲームを開発できるためシンプルで素直なリアリティある対戦ゲームを提供できるとのことです。
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第2のテーマは「「1ms」はゲームをどう変える?」です。森下氏は、本当に1msの性能が発揮出来るのなら、今のセオリーから外れたゲームが出てくるのではないかと期待。この5Gの低遅延の恩恵を受けるゲームはクラウドゲームではないかと予想しつつも、通信速度が速いことは「絶対に良いこと」であるためサービスの見せ方を考えて行かなければとコメントしました。
また、NetEaseのWang氏は、1つに低遅延で地域差に縛られないリアルタイムなゲームプレイの公平性と、5Gによって視聴のハードルが下がることでより多くの人がe-Sportsシーンなどに入ってくること、2つにクラウドゲームだけでなくこれまでのゲームもより快適に遊べるようになるとも加えました。
スクウェア・エニックスの佐藤氏は、ネットワークスライシングやエッジコンピューティング専用に使うことによるレンタルコストを心配。2015年頃に5Gについて社内で初めて紹介したときに「レイテンシが無い世界だったらこんな幸せなことはない」という声があったそう。これまで遅延はゲームデザインで吸収しており、本来の面白さを阻害してしまっている部分があるため、遅延を考える必要がなくなればゲームデザインを根本的に見直せることに加え、プレイヤーの入力速度に応じたシビアなゲームがより楽しいものになるのではと語りました。
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一方でシャープの小林氏は、UIがボトルネックになる時代と前置きし、タッチパネルの検出が仮に1秒間に100回検知しているとなるとそれだけで10msの遅延が、表示の遅延では単純計算で16msでの遅延があるために、タッチ→検出→表示という手順を追うだけでも遅延が発生してしまう厳しさを述べます。そのため、端末内部の遅延を極限まで小さくする必要がある難しさを語りました。
NTTドコモの中村氏は、オープンイノベーションクラウドが国内で1箇所だけに存在するのでなく数カ所(県単位)で設置すれば通信の遅延をさらに小さくできるとのこと。しかしながら、無線は常に安定しているわけではなく、場所によっては品質が悪く、特に移動しながらだと誤って伝送してしまうと再送の手間から遅延が発生するために、遅延がほぼゼロだと想定しているとアプリケーションやゲームが止まる可能性があるといいます。
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第3のテーマは「「5Gスマホ」はゲームをどう変える?」です。このテーマにおけるシャープの小林氏は、瞬間的なスピードが上がることをどれだけ端末が持続出来るかという問題があり、熱問題に関してもディスプレイやCPU/メモリによる発熱のほか、通信における熱も考慮する必要があるとのこと。5G通信による熱はとても上がりやすくバランスが崩れるために、デバイスの形や構造も大きく変わってくることが予想され、大胆な技術革新をしていかなければとメーカーとしてのスタンスを語りました。
また端末メーカー間の力の差がでてくるのではという話題に関しては、スペック表の時代では無くなり、持ちやすさや熱対策などユーザーエクスペリエンスの部分で勝負が決まってくるのではないかとも思っているようです。
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スクウェア・エニックスの佐藤氏は、端末の性能が上がるとゲーム会社としては性能に応じて処理負荷が高く、熱を出してしまうものを作ってしまう傾向があるものの、バッテリーマネージメントを含め消費電力を抑える工夫が必要という認識があると話します。
ガンホーの森下氏は、5G端末が普及するまでの間にどれだけ低スペックを含めたカバー率を広くすることができるというスタンスを持っており、またハイエンドなものはコンソールで、スマホにはスマホに適したタイトルを提供したいと考えているようです。
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またNTTドコモの中村氏としては、通信会社とゲーム会社がしっかりとコミュニケーションを行い、ゲーム業界から「どれぐらいの性能がいいのか?」や「どんなネットワーク設備構築がいいのか?」などの意見を吸い上げたいと語ります。そうしたニーズに適した設備を提供出来れば、5Gの高速性や低遅延性に到達しなくとも面白いゲームが提供できるのではないかと述べました。
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パネルディスカッションの最後は「「5Gネットワーク」はゲームをどう変える?」というテーマで議論が交わされました。NTTドコモの中村氏は、5Gによる遠隔操作等で低遅延や多接続への需要が高まっていることを指摘。料金については、明示されることはなかったものの、過去の例から新世代のシステムを導入して料金を一気に高くしたことはなく、ビットコストも下げているため、5Gのサービスも従来と同じぐらいになるのではと示唆しました。
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NetEaseのWang氏は、「現在人気の対戦ゲームは4Gでも遊べますが、5GになればWi-Fiを無理に使わずに100人同時に競い合う事も可能になる」とし、5Gはe-Sportsの規模を広げ、頻繁に大会を開催できるようになるのではと展望を語ります。また中国においては、一人っ子政策の影響で兄弟姉妹がおらず、簡単に複数人でゲームを楽しむ環境が少なかった影響もあり、リアルイベントでも遊びたいと思うゲーマーは多いのだそうです。こうしたリアルイベントでの同時プレイは、日本のゲーマーにも似たところがあるのではと推測しています。
また、スクウェア・エニックスの佐藤氏は、ライブイベントなど皆でシンクロする遊び方が適しているのではと予想し、イベント会場でみんなが一緒にプレイした結果が何らかの形で演出に反映されることで面白いエンターテインメントになるのではと予想。5Gの特性を意識すると「大人数でシンクロする」ことで新しい面白さが生まれるのではとも加えました。
最後にガンホーの森下氏は「5Gだけでなく、これからの時代はAIやARなどの組み合わせで何を提供できるかということが重要で、それらを上手く活用しながら新たなチャレンジをしたい」とし、NTTドコモの中村氏は「まずは5Gをスタートさせなければならず、ネットワークの安定や性能の向上を図りながら、ゲームを含めた様々な業界とコラボレーションをしていきたい」とそれぞれコメントし、基調講演を終えました。
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